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小さな街だと聞いていたブレロは、第二騎士団が詰めている村からそう遠くないところにある街だった。

私の足でもすぐにたどり着けそうだ。

村を森の中深くに拓いたのだとばかり思い込んでいたので、こんなすぐそばに街があったなんて全く気づいていなかった、と私は心の中で自分の視野の狭さに嘆息する。


ブレロの街は、地方都市らしく商売の活気が溢れるなかにも、田舎の長閑さが滲む穏やかな街だった。

すぐそばにある湖で捕れる魚や貝を名産としているのだという。


「第二騎士団はこの街から伸びる街道を巡回して魔獣被害の対応にあたっている」


エドが街の入口、少し高くなった丘の上から街を見下ろして呟いた。


「小さな街だが、要衝だ。この辺りの町や村に行くには、必ずと言っていいほどここから伸びる街道を行くことになるからね」


そう教えられて見下ろした街は、湖のほとりに小さな港があり、それを中心に街が栄えているようだった。


エドはゆっくりと街へと入る道を降りていく。

それに続きながら、私は何とも心がざわめくような、ざらついた焦りのような感覚を覚えて、不思議に思いつつ街の中へと入っていった。


───数刻ほど後にここで落ち合おう


エドはそう言い置くと、レオを伴い離れていった。

街で逃げ出さないよう監視されるとばかり思っていたからか、急な自由行動に呆気に取られた。


───どうせ逃げ出せはしないと、わかっているのね。


所詮は世間知らずの小娘だ。

森への追放を逆手に取った気分になって、結局また王族に捕らわれている。

自嘲気味に思い至って、街を冷やかすように歩き出した。


今日街に行くというエドの誘いに乗ったのは、村の周辺の交通路を確認するためだ。

いくら村に留め置かれているとはいえ、時機を見て離れることも考えておきたい。

その目的のためを思えば、別行動は有難い。

私はエドたちに怪しまれないよう、街の娘たちが普段着るようなワンピースを何着か購入すると、街から伸びる街道とやらを確認しようと街中を歩いて回った。


エドはここを要衝と言っていた。

実際、いくつもの街道がこの街を通り、様々な町へと延びていた。

湖は大きくないけれど深さがあるらしく、湖に注ぐ河を伝って出入りする船がいくつも停泊している。


港の周りを散策しているように見えるよう、のんびりと歩きつつ、船の行き先や街道の伸びる先を頭の中へと叩き込んでいく。


そんな風に過ごしながらも、街に入ってからずっと心をざわつかせている奇妙な感覚は落ち着くことがなかった。

むしろ港に近づくにつれて段々と焦燥感のような、急かされるような感覚が強くなっていく。


「やめてください!」


落ち着きなく足を早めて行くと、不意に小さな悲鳴のような声が聞こえた。


───裏通りだ


その声に、焦燥感がより強くなる。

思わず声がした方へと細い横路に入り込むと、薄暗い裏通りに人影が見えた。


人影は2つ、背の高い男性のもの───と、もう1人、男性2人に道を塞がれるように少女がいる。

年頃は私と同じくらいだろうか。

男の1人に腕を取られ、それを振りほどこうと体を捩っている。

この辺りでは珍しい黒髪が、彼女の動きに合わせるように乱れていた。

それに対して、男たちは少女を逃がさないように囲んでいる。

2人とも港の荷揚げにでも従事しているのだろうか、背も高くそれを更に補強するように筋肉質な体つきは、細身の少女の抵抗なんて全く意に介す様子もない。

どう見ても、和やかに会話をしているように見えない。

ましてや親しい知り合い関係にも。


「まぁまぁ。ちょっと一緒に食事しようってだけだって。さっきからそう言ってるじゃんよ」

「いやよ」

「つれないねー。食事だけじゃ不満?あ、それならお酒飲みに行こうか」

「嫌だってば。離して!」


近づいて行くと、到底和やかとは言いがたい様子で少女が抵抗している。

どうしたらいいかな、と逡巡した一瞬、男の1人と目が合ってしまった。


「なにー?お友達?ずいぶん上玉じゃん」


男が私に近づくとひょいと腕を掴んだ。

無遠慮になめ回すような視線を全身に這わせるとニヤニヤと下卑た表情を浮かべている。

咄嗟に振りほどこうとしても、逞しい男はびくともしない。


「離してください」

「いーじゃん。お友達も一緒にダブルデートしよっか。あ、俺らの仲間も呼ぶ?」

「お断りします。離してください」

「あぁ?いいから来いよ!あ、それとも痛い方が好きなの?」


男は段々と激昂してきたのかギリギリと腕を掴む力が強くなっていく。

行こうぜ、ともう1人に声を掛けて無理やり裏道の更に奥へと向かおうとする。

少女も抵抗らしい抵抗もできず顔色が蒼白になっている。


雷で痺れさせてしまおうかと思ったけど、腕を掴まれてしまってはこちらもダメージを食う。

足元だけ氷で固めてしまおうか、と迷っていたその時、ひゅっと黒い影が私の目の前を横切った。


ごす、と鈍い音を立てて、気がつくと男2人は地面に沈んでいた。

意識が飛んだのだろう。

私を掴んでいた太い腕から力が抜けて離れていく。


「───大丈夫か?」


足元に転がる男2人を素早く後ろ手に縛り上げて、振り返った影は見慣れた男だった。


「…レオ」

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