表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/26

6

間が空きまして申し訳ありません。

感想やブクマ、メッセージ、ありがとうございます。

また宜しくお願いします。

「はぁ」


開け放した窓から外を眺めて、セレーネはため息をついた。

ここは学園の学生寮。

平民ながら魔力が発露したため、学園に入学することになった彼女にあてがわれた部屋。

学園は王都の高台にあり、部屋の窓を開けると王都の夜景を一望することができる。

藍色のビロードの上に、沢山の小さな宝石を散らしたような夜景を見ても、彼女の表情は暗い。


───平民が、王妃になれるなんて思ってるのかしら


昼間、遠巻きにしていたクラスメイトからクスクスと嘲笑とともに聞こえてきた嫌み。

あれはわざと聞こえるように言っていたのだろう。


学園に入学しても、生徒の殆どを貴族が占めるクラスに馴染めるわけもなく、居たたまれず学園の裏庭に逃げ出して小さくなっていたセレーネに声をかけてくれたのは王太子だった。

淡い金髪、澄んだ冬空のような深いブルーの瞳の美しさに、本当の王子さまがいる、と言葉を失うほどだった。

学園に居場所がなくて、と溢したセレーネに寄り添い、何くれとなくセレーネを気にかけてくれる王太子に、セレーネはすっかり依存していた。

故郷で待つ恋人を忘れ、ずっと側に居たいと夢を見るほどに。


「聖女だったら、良かったのかな」


魔獣を払い、この地に安息をもたらす救世の乙女。

国を、世界を救うような力があれば───

ポツリと零れた呟きは、夜の闇に飲み込まれる、筈だった。


「聖女になりたいの?」


唐突に、背後から声を掛けられてセレーネは飛び上がった。

振り返ると、淡くオレンジに光る毛皮を纏った大きな犬、それとも小さな狼だろうか、獣がセレーネのすぐ後ろに座っていた。

部屋には鍵をかけていたはずだ。

何故、どうやって侵入してきたのか。


「ねぇ、聖女になりたいの?」

「なに、」

「私なら、その願い叶えてあげられるんだけど」

「魔獣?どこから…」

「獣と一緒にしないで。こんなに弱った結界、私を遮れるわけないでしょ。それより、ねぇ───」


───聖女になりたいでしょう?


狼が笑うなんてあるんだろうか。

しかし、確かにオレンジの小さな狼は、にぃ、と口の端を上げて笑ったように見えた。


◇◇◇


───王の私室に来るように。


そう告げられて、王太子コルネリオは長い回廊を進む。

王城の奥にある王族の住まいは、護衛などの極一部を除いては立ち入りが制限されており、広い回廊も全く人気がない。

───無論、気配が無いだけで護衛がついているはずだが。

王太子として呼び出されるのなら、執務室か謁見室のはず。

私室に呼ばれたということは、父親として息子に用がある、ということだろうか。

そう首をかしげながら、コルネリオは父親である王の私室の扉を叩いた。


「入れ」


低い声に促されて部屋へと入る。

部屋には王がひとり、窓辺に立って庭を眺めていた。

入室の気配にも振り返る様子はない。


「コルネリオです。お呼びでしょうか」


振り向く気配の無い王に声をかけると、ゆっくりと振り返った王が口を開いた。


「ルクレツィア嬢を…。パウジーニ公爵令嬢をどこへやった?」

「…何のことです?」

「しらばっくれても無駄だ。お前の命令を受けた兵士風の男が学園からルクレツィア嬢を強引に連れ出していたところを見ていた者がいる」

「…彼女は私の友人に危害を加えようとしました。その友人の安全を確保するために、暫く贄の村へ隔離するように命令しました」

「友人とはセレーネ嬢のことか?」

「!!」

「知らないとでも思っていたか?最近の素行を考えたらお前の様子が報告されないわけあるまいよ。で、ルクレツィア嬢はお前とべったり過ごしているセレーネ嬢に、どうやって危害を加えようとしたんだ?」


何も答えられないコルネリオに、王はため息をついて続けた。


「馬車を駆っていた兵士擬きは罪人だろう。恩赦でもちらつかせてルクレツィア嬢を拐わせたのか?」

「…俺の名を騙った誘拐とは考えないのですね」

「お前が牢へ出向いて罪人と接触していると報告が無かったら、それも考えたかもしれんな。しかしその罪人が、北の森で魔獣に襲われた馬車を駆っていた。そして馬車にルクレツィア嬢の学生証が残されていたと。お前が何も知らないわけないな?」


王がぎろりと睨みつける。その眼光に思わず上擦った声が出た。


「違うっ。ルクレツィアは自ら贄の村へ行きたいと…っ」

「馬鹿者が。結界の管理があるのに無断で王都を離れるわけなかろう」


王の静かな口調に怒りが滲んでいる。


「結界の、管理…?」

「さよう。王都の結界を管理していたのは、ルクレツィア嬢だ。お前との婚約といい、まだ早いと渋るパウジーニ公をやっと説き伏せてお願いしていたというのに…」

「ルクレツィアが結界を、1人で…?」

「ああそうだ!お前は何ていうことをしてくれた!彼女のおかげで魔術師を魔獣討伐に割けてたというのに!

お前は何も見ていなかったのか!言われなければ、ルクレツィア嬢が何をしていたかも気がつかなかったのか?

…お前の、婚約者だというのに」


とうとう激昂した王の叫びが響く。


「昨日から、パウジーニ公に頼んで第二騎士団に帯同していた魔術師を引き揚げて結界の維持に当たらせている。お前の魔力も多少は役に立つだろう。結界は解けたら終わりだ。解けぬよう全力で魔力を流してこい」


大きく息を吐いた王の声色は落ち着きを取り戻したものの低いままだった。

コルネリオは呆然としつつも、失礼します、と礼を取って王の私室を後にした。


「あいつは、彼女が死んだとでも思っているのか?どうせ奴のところに居るんだろうさ」


私室のドアが閉じられたあと、王の静かな声が落ちる。

小さすぎる独白に、彼が気がつくことはなかったのだった。


◇◇◇


───頭が痛い


学園の裏庭のベンチに腰かけると、コルネリオは頭を抱えた。

昨日、王の私室を出たその足で魔術師団の詰所へ向かうと、既に連絡が行っていたのか、すぐさま結界へと容赦なく魔力を吸い上げられた。

あまりの急激な魔力の消費に気を失い、目覚めてからも魔力不足による頭痛が全く引かない。


だからといって授業を休むわけにもいかず、やっとの思いで学園へと出てきたのだが、一度ベンチに腰かけてしまうと立ち上がれる気がしない。


「これ、いつになったら回復するんだ…」


それでも授業に出なくてはならない。

自らを奮い立たせて立ち上がると、鈴を転がすような可愛らしい声が響いた。


「コルネリオ様」


顔をあげるとふわふわとしたハニーブロンドの少女が立っていた。

淡いブルーの瞳は心配そうに揺れている。


「セレーネ」


愛しい少女の名前を呼べば、自然と頬が緩むのが分かる。


「コルネリオ様、大丈夫ですか?とても辛そう…」

「大丈夫だ」

「あの、わたし…っ」


セレーネは何か言いたげだが言葉を詰まらせる。


「どうしたんだい?」


そっと抱き寄せて額に口づけると、セレーネはおずおずと両腕を伸ばしてコルネリオの頭を挟み込んだ。


「?!」


その瞬間、ぶわり、と魔力が弾けるような浮遊感が全身を襲う。

それと同時にこれまで苛んでいた頭痛がすっとほどけるように消えていった。


「セレーネ、今何を…?」

「コルネリオ様、私、聖女の力に目覚めたみたいなんです」


一瞬、彼女が何を言っているのか理解できなかったが、段々と意味を理解すると腹の底から歓喜が沸き上がってくる。


「本当か?! 」

「えぇ。ですから、二人で魔獣の浄化を…」

「あぁ。北の森へ行こう」


たまらずセレーネを抱き締める。

なんという幸運だ。

二人で魔獣を消し去れば、英雄になれる。

王もその功績があれば今回の件も問題にはなるまい。

褒美を訊かれればセレーネを望もう。

そして最大の祝福を受けて結ばれるはずだ。


「セレーネ。二人で英雄になろう」


コルネリオは更にきつくセレーネを抱き締めて、彼女の耳元で囁いた。


ご覧頂きありがとうございました。

暑い日が続きますが、どうぞ体調にお気をつけ下さい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ