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◇◇◇


「ルゥ、魔獣の気配は?」

「西の方角に複数。個体は小さめで数が多いわ」

「狐か、鼬か…。レオ、矢を!ルゥは防壁を張れ!」

「エド、火炎は?」

「数が多いなら、火炎はかえって危険だ。矢で核を打て!」


私が村へと来てから10日ほど経ったある日、村から少し離れた森のなか、私たちは魔獣を討つべく陣を張っていた。

森の奥に棲んでいたはずの魔獣の群れが、町に向かって南下してきていると報告が上がったためだ。


エドの指揮で待機していた騎士たちが弓をつがえ、私は呪文を紡いで防御の壁を築く。

ほどなくがさがさと下草が揺れて、いくつもの光る瞳が現れた。

仄かに赤く光る毛皮を纏った狐たちが何頭も顔を出した。


「火狐か…。バラける前に仕留めるぞ!」


レオが叫ぶと同時に弓が引かれて次々と狐たちを討っていく。


「稲妻!」


弓に当たってもなおこちらに向かってくる魔獣に向かって雷の矢を放つ。

火狐はその毛皮に炎の属性を纏うため、火炎は使えない。

雷を受けて痺れたのか、動けなくなった火狐たちを騎士が仕留めていく様子に制圧と判断して防御壁を解く。


「さすが、素晴らしい支援ぶりだね」

「とんでもないことです」

「群れの位置と規模まで探るなんてそうそう出来ることじゃない」

「結界の応用です。ごく弱い結界を張って、触れたものを感知するだけです」

「いや、だからそれが凄いんだって」

「…ありがとうございます」


血を拭った剣を収めたレオに声を掛けられ、二人で火狐の制圧を眺める。

毛皮や牙の採取が終わったのだろう、騎士たちが穴を掘って火狐たちを埋めていく。

血の臭いは更に魔獣を呼び寄せる。

そのリスクを下げるためにも仕留めた魔獣は埋めてしまうのが最善だ。


「…氷結」


穴はすっかり埋められ、騎士たちも撤収作業に入るのを見計らって魔法陣を仕込む。

すっかり踏み固められた火狐たちの墓に向かって小さく紡いだ呪文に、耳敏くもレオは気がついたらしい。


「今、何を?」

「罠ですよ。血の臭いに釣られて魔獣が穴を掘ろうとすると氷漬けになります」

「…抜かり無いね…」

「これで南下する魔獣が少しでも減らせるならいいでしょう」

「…そうだね」

「あぁ、人が通りすぎるくらいなら大丈夫ですよ。魔獣が掘ると発動するだけですから」


心なしか顔色を悪くしたレオを横目に私も引き上げるべく帰り支度を整える。

レオは既に準備が済んでいたのか、身軽に馬に跨がると、誰にともなく呟いた。


「さすが結界師、だな」


◇◇◇


───結界師


魔獣の力が膨らんだときに現れる救世の勇者。

魔獣の力を弱め封印する力を持つ聖女。

そしてその二人を守り、戦いを助ける魔術を操る、結界師。


あの日、エドに結界師だと問われたとき、私は答えるのを躊躇った。

はい、と答えたら、また私はこの国に縛られる。

彼は王族だ。

国の利益となる結界師を離すはずがない。

隣国へ逃げて得ようとした自由を失うだろう。

さっき彼は隣国へ向かう助けになってくれると言ったけれど、事情が変わればあんな口約束は反故にされても不思議ではない。


そんな考えが過って何も言葉が出せない。

沈黙は肯定でしかないと分かっているのに、言葉が見つからない。

いいえとは言えない。

けれどはい、とも言いたくない。


目が泳いでいるのが分かっていて、それでも何も言えなくなっている私から、エドは目線を外すと穏やかに微笑んだ。


「貴女を縛ろうとは思っていない。いや、本当はここにずっと居て欲しいというのは本音だが。時が来たら、隣国へ向かう手伝いはしよう。約束だからね」

「何故…?」

「うん?」

「何故、私が結界師だと?」


彼の問いは、問うてこそいたが正確には問いではなく確認だった。

彼は確信を持って私を結界師と断じている。

結界を扱う魔術師は決して珍しくない。

私が高位貴族であることを知っている以上、魔力量の多さにも不自然さはないはずだ。

一体いつ気づかれたのだろうか。


「第二騎士団に帯同していた魔術師の帰還命令は昨日話したとおりだ。でも何故急に、前触れもなく結界を扱える魔術師ばかりに帰還命令が下ったのかと不審に思ってね。魔術師を呼び戻した理由を探るよう王都へ調査を出した」


エドは再び目線を私に据えると、静かに口を開く。


「王都の結界が弱まっているらしい。今まで王都の結界を管理していたのは、貴女ではないのか?」

「何故、そう思うのです?」

「王都の結界が弱まったのは、一昨日。貴女がこの村に来てからだ。そして昨日、帰還命令が出た魔術師たちは、以前王都の結界の管理に携わっていた───」


第二騎士団に魔術師が派遣され、討伐に帯同することになったのは3年ほど前。

それ以前は、魔獣の討伐に魔術師が必要になると、何度訴えても魔術師の派遣は王都の結界の維持を理由に断られていた。

しかし急に結界の管理者が得られたと魔術師の派遣が叶ったのだ。

そしてその頃、王太子とパウジーニ公爵令嬢との婚約が正式に発表されている。


「あの頃、既に魔獣の被害は大きくなり始めていた。第二騎士団だけではすぐに限界を迎えていただろう。どうしても魔術師の力が必要だった。それを知っていた魔術師団長───いや、パウジーニ公爵が、貴女を結界の管理者に据えて魔術師たちを魔獣討伐に采配したのでは?彼は貴女の実力を誰よりもよく知っていたはずだ」


エドは視線を外すこと無くもう一度私に問うた。


「王都の結界を一人で管理するなんて、結界師以外にありえない。───貴女は結界師なのでしょう?」


◇◇◇


火狐の群れは、想像以上に収穫をもたらしたらしい。

かなりの毛皮が採取できたらしく、騎士団で武具を作ることになったそうだ。


「毛皮の搬入と武具の発注に、町へ行こうと思う。ルゥもおいで」


エドが声をかけてきたのは、討伐後の帰り道だった。


「町ですか」

「そう。生活に必要なものも揃えたいんじゃないか?村だけのものでは女性にとっては不自由するだろう」

「はい。是非お願いします」


エドの屋敷に部屋を用意された私は日常に不自由することはないけれど、町の様子は見てみたい。

私は一も二もなく頷いて、町へ行くことになったのだった。

沢山の評価、ブクマありがとうごさいます。

見たことのないpv数にビビってます。

感想もありがとうごさいます。

お返事ができてませんが、しっかり読ませてもらってます。

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