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沢山の評価、ブックマークありがとうございます…!
日間ランキング2位になっているのを見たときは目を疑ってしまいました。
ご覧下さる皆様に感謝です。
どうもありがとうございます。
エドガルド様の言葉に、息を飲む。
生きていることが知られればまた命を狙われかねない。
だから隣国で一切のしがらみを断ち切って自由に生きようと思っていたのに。
「私は死んだことになっているはずです。今さら出る気はありません。そもそも学園では模擬戦ばかりで実戦の経験もありませんし」
エドガルド様の視線に負けぬように、まっすぐと深いブルーの瞳を見つめて言葉を返す。
騎士団に混じって魔獣討伐なんて無理がある。
この分だと早々に西の国境へと向かったほうが良さそうだ。
「先ほど言ったでしょう。貴女の戦いぶりはこれまでの魔術師たちに引けを取らない。むしろその上を行くくらいです。貴女の身元は明かさないと約束します。隣国へ向かうにも準備が必要でしょう。その間だけでも力を貸して欲しいのです。魔術師の派遣を再び受けられるようになったら、隣国へ向かう準備に協力します」
───悪くない条件でしょう?
エドガルド様の視線はそう語っていた。
でも、とすぐに頷くのを躊躇っていると、エドガルド様の側に控えていたレオナルド様がニヤリと口元を歪めた。
「協力頂けないのなら、仕方ないですね。王都へ公爵令嬢を森で保護したと連絡しますか」
「なっ…!」
「こちらとしてもご協力いただければ助かるんですけどねぇ。すぐに使いを出して追っ手をかければ、いくら急いで今から西の国境に向かっても、追っ手の方が早いでしょうね」
「っ!!」
これじゃあ脅しではないか。
いや、はじめから私には請ける以外の選択肢なんてなかったのだ。
言葉を失ってレオナルド様を睨みつけるしかできない私に、エドガルド様がダメ押しのように言葉を重ねる。
「ご協力、いただけますね?」
「──────っ」
長い沈黙だったと思う。
二人とも何も言わないけれど、強い視線が答えを欲している。
「……必ず、身元は伏せていただけるんですね?」
ため息と共に絞り出した言葉に、エドガルド様とレオナルド様が同時に破顔すると、お互いに手を上げてパシッと打ち合った。
エドガルド様が笑顔のまま私に向き直るとそっと手を取り、私の手の甲へ口づけを落とす。
「交渉成立ですね。宜しくお願いします」
突然の口づけに、手を取られたまま固まる私を見下ろして、更に笑みを深めて告げたのだった。
◇◇◇
「似合ってますね」
翌日、これを着るように、と渡された騎士の制服に袖を通すと、意外にもピッタリで違和感無く着ることができた。
お茶でもいかがですか、と部屋にやって来たレオナルド様が私の制服姿に微笑んだ。
「何だか恥ずかしいです」
渡された制服は、騎士が着用するシンプルな詰め襟とスラックス。
今までは普段はドレスを着ていたし、スラックスなんてごくたまに乗馬をする時に履くだけだ。
だからだろうか、ドレスの方がよっぽど肌を出すデザインだったりするのに、体の線が
はっきり出ているように感じて落ち着かない。
「女性用の制服もあるんですね」
「少ないけれど、女性騎士もいますからね。それに俺たちは女性を保護することもありますから。念のため用意があるんです。───ところで、」
レオナルド様が言葉を区切るとニヤリと悪い笑顔になる。
「我が主が、貴女の制服姿を見たくてソワソワしているので、一緒にお茶をしてやってくれませんか?」
「なっ」
言葉が出ずに口をはくはくとさせていると、レオナルド様はくつくつと笑う。
───からかわれた!
冗談とわかっても、顔に集まった熱は引いてくれない。
むしろからかわれた羞恥で更に顔が赤くなる。
「すいません。でも本当にお茶のお誘いに来たんです。どうぞこちらに」
優雅な仕草でドアを開けて、にっこりと笑うレオナルド様に促されてエドガルド様のいる応接室へ向かう。
「あぁ、ルクレツィア嬢。似合いますね」
応接室に入ると、エドガルド様は目を細めて私を見た。
慣れないものを着ているせいかなんだか視線がこそばゆい。
しかし私はずっと気になっていた事がある。
思いきって口を開いた。
「あの、」
「何でしょう?」
「ルクレツィアは死にました。私は騎士団に助けていただいた町の娘です。王弟殿下がいち平民に敬語を使う必要などありません」
「ふむ。ならば何と呼べば?」
「それでしたら、ルゥ、と」
「ルゥね。わかった。私のことはエドと呼んでくれ」
「…殿下を愛称でなんて、とんでもないことです」
「エドガルドじゃ呼びにくいだろう。魔獣と戦うときは時間の勝負だ。一寸の伝達の差が生死を分けることもある」
「でも…」
「エド、と」
有無を言わせない強い視線が私を射抜く。
深いブルーの瞳がまっすぐと私を見つめている。
「ルゥ、エドと呼んでくれないか」
───この人には逆らえない気がする
渋々はい、と返事をすると、エドはほっとしたように視線を緩めた。
「あ、ルゥ、俺のこともレオって呼んでくださいね」
「はいはい」
レオナルド様がどさくさ紛れに愛称で呼んでくるのももうこの際どうでもいい。
淹れてもらったお茶が冷めないうちに、と口をつける。
「ところで、ルゥ」
「はい」
居ずまいを正したエドが再び強い視線を私に向ける。
あぁ、これはまた逃げられないやつだ、と覚悟を決める。
そもそも協力を約束させられた昨日から、彼の強い視線に勝てた試しがないのだ。
「何でしょう?」
黙りこんでしまったエドに、今度は何をさせるつもりだろうかと若干怯えつつ先を促す。
どうせ逃げられないのだから、早く済ませてしまおう。
そう思っていた私は、彼の紡ぐ言葉に硬直した。
「───君は、結界師だね?」