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「ジャイアントベアだ!」


外に出ると、大勢の騎士達が村の外へと走っていった。

それを追いかけて村の外へと出ると、村のすぐそばに大きな熊が3頭、牙を剥き出しにして唸っていた。

毛を逆立てて魔力を漂わせている様子から、魔獣であることが伺える。


魔獣はもともとは普通の動物たちであったが、北の森の奥から流れ出る空気に含まれる魔力や魔素を吸い込み、それを体に溜め込むことによって発生すると考えられている。

魔素によって強化された体は、それまでの動物たちの能力を押し上げて狂暴性を増し、普通の剣などの物理攻撃は殆ど効かなくなる。

魔獣対策に、鋼をふんだんに使って強固に作られた剣や、クリスタルを磨いて作る矢じりを使った弓など、攻撃方法はごく限られてくる。

ただ、魔術を使った攻撃を除いては。


弓を構えた騎士が、合図と共に一斉に弓を引く。

魔素は動物の体に入り込むと核を作り、更なる魔素を産み出していく。

身体中に魔素を産み出し巡らせて、魔獣へと進化していくのだ。

そのため魔獣を倒すには、その核を見抜いて討たなくてはならない。

大抵の場合、それは心臓に根を張っているのだけれど───


胸に矢を受けたジャイアントベアのうち2頭が、ぐらりと体を傾けて倒れていく。

騎士たちの放った矢がその心臓を貫いたのだ。

しかし最後の1頭は、胸に矢を受けてもなお凶悪に牙を剥いて村へと向かってきていた。

構えた大剣で斬ろうと向かった騎士が、鋭い爪に一閃される。

たまらずに私はジャイアントベアの前へと駆け出してしまった。


「何をして───」

「怪我人は村の中へ避難して!結界を張ってるから!」


制止を遮って叫ぶと、そのまま両手を突き出して呪文を紡ぐ。


「火炎!」


唱えるが早いか、魔法陣がジャイアントベアの足元に出現すると、一気に火柱があがり、悲鳴をあげる暇もなく魔獣は炎に飲み込まれた。


◇◇◇


「素晴らしい攻撃力ですね」


燃え上がり消し炭になったジャイアントベアを前に座り込んでしまった私に、優しげな声が降ってくる。

見上げるとエドガルド様が呆れたような面持ちで消し炭、もといジャイアントベアを眺めていた。


「さすがはパウジーニ公爵家のご令嬢。王家を凌ぐ魔力の使い手という噂は伊達じゃない」


───パウジーニ公爵家


代々豊かな魔力を有し、有能な魔術師を輩出するラウロ王国の有力貴族。

代々宮廷付きの魔術師として仕える家柄で、私の父であるパウジーニ公爵も宮廷魔術師の長として魔術師団の団長の職を賜っている。

年の離れた弟も、いずれは父の後を継いで魔術師団長として城に仕えることになるだろう。


かくいう私も、王太子に婚約破棄を告げられたら、魔術師として父を手伝いたいと思っていたけれど。


「父に、しごかれましたから」

「隣国に取られてしまうのは大変な損失だ」


くつくつと笑いながら差し出された手を取ると、ふわりと立ち上がらせてくれる。

周囲を見れば先に倒した2頭を多くの騎士たちが取り囲んでいる。


「魔獣の毛皮は外套などに重宝するんですよ。町に持っていけば高く売れますしね」

「あぁ。じゃあ燃やし尽くしてしまったのは失敗でしたね」


エドガルド様は騎士たちが魔獣を解体する様子から私を遮るように、そっと歩き出した。

魔獣の毛皮は貴重で高値で取引される。

魔素によって高められた鋼のような毛皮や牙鋭い爪は、確かに防御力も攻撃力も高い武具になるだろう。

1頭しっかり燃やしてしまったのは結構な損失かもしれない。


「いや、あの魔獣は核がずれていましたから。あれ以上怪我人を出すより賢明だったと思いますよ」


エドガルド様は正直助かりました、と微笑んで用意された部屋へと案内してくれた。


◇◇◇


「応援、ですか?」


翌朝。

部屋に用意された朝食を済ませてお茶を頂いていると、遠慮がちに部屋を訪れたのは昨日お茶を用意してくれた青年だった。

レオナルドと名乗った青年は、エドガルド様の副官を務めているのだという。


その副官レオナルドに、エドガルド様から依頼したいことがある、と告げられて連れてこられたのは、昨日と同じ応接室だった。



「ここが魔獣の討伐のために拓かれた拠点であることは昨日申し上げた通りです。

私たち第二騎士団は、ここを拠点に北の森から町へと近づく魔獣の討伐を任としています」


促されてソファに腰を落ち着けると、エドガルド様は応援を頼みたい、と言ったきり暫く考え込むように閉ざしていた口を開いた。


第二騎士団は魔術師と百名を越える騎士を抱える大所帯であるが、全員がここに詰めているわけではない。

十数名を一部隊として森と王都、その他の主要な町へと巡回している。

今朝になって、王都からの早駆けが到着し、巡回する部隊に帯同する魔術師を王都へ戻すように命令が下ったという。

勿論全ての魔術師を引き上げるわけではないが、それでも半数近くが王都へ帰ることになる。


「騎士団付きの魔術師を帰還させよということですか?」

「えぇ。もともとこちらにいる魔術師はみな魔術師団から派遣されています。その所属元からの帰還命令とあってはこちらも逆らえません」


第二騎士団の担う魔獣討伐の特性上、魔法を扱える魔法騎士も少なくはないけれど、更に上位の魔術を使える魔術師の存在は魔獣討伐では騎士たちの生死すら分ける重要なものだろう。

ましてや魔獣が活発化している最近では、第二騎士団に魔術師を置く重要性は誰もが知るところだ。


その第二騎士団から魔術師を最低限のみ残して引くということは、それよりも優先される何かがあったのだろうか。


「そのため、今第二騎士団では魔術師が足りていません。そして貴女は魔術に長けている。先日のジャイアントベアも圧勝でした」


エドガルド様は私の瞳をまっすぐ射抜くように見据えて私に告げた。


「第二騎士団に貴女の力を貸してください」

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