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森が魔素に飲まれて行く様子に、咄嗟に洞窟に向かってもう一度結界を張るが、物凄い質量の魔素に押し返される。

弾かれないように、強化した結界を張っても、尚解放させようと押し戻す力が増してくる。


「くっ…」


結界を幾重にも重ねてかけると、漸く魔素の奔流が止み、周囲がいくらか静かになった。

しかし大量の魔素は凄まじい質量でもってすぐにでも結界を破る勢いでぐいぐいと押し続けており、力業で押し込むのもいずれ限界が来るだろう。

その上既に放出された大量の魔素を飲み込んだ森は、不気味な空気を隠すことなく撒き散らしている。

凄まじい量の魔素が流れ込んだのだ。これまでいた魔獣は魔素を吸い込んで凶暴化していることだろう。


「セレーネ?」


セレーネの腕を掴んだままだったルカがもう一度かけた声に、ゆっくりと振り返った彼女は、オレンジに燃える瞳をさらにぎらりと揺らしてルカを睨んだ。


「呼び捨ては止めてくれる?馴れ馴れしいわね」

「…お前は誰だ」

「私は私よ。別に誰でもいいでしょう」

「良いわけないだろう。彼女に何をした」

「あなたには関係ないわ」

「その瞳が、対価なのか?」

「は?」

「セレーネの瞳は綺麗な水色だ。そんな色じゃない」

「うるさいわね!やっと人形(ひとがた)を手に入れたのよ!黙ってて!」


セレーネはルカの腕を振り払うと前触れもなく火炎を放った。

躊躇いの無い攻撃を悟ったルカは素早くセレーネを掴んでいた腕を離すと距離を取る。

突然現れた炎はルカの腕を舐めるように這い上がるが、先ほどの結界がまだその効果を保っていたのかその体に触れることはない。


「セレーネじゃ、ないのか…?」


セレーネの側にいたコルネリオ様から力無く呟きが漏れ、その声に視線をやるとコルネリオ様が呆然とセレーネを見つめていた。

セレーネはコルネリオ様に視線を向けると、にっこりと美しい笑みを浮かべて腰を折った。


「コルネリオ様。ここまで連れてきてくれてありがとうございます」

「セレーネ」

「そこで見ててくださいね」


笑みを絶やさずに顔を上げたセレーネは、徐に腕をあげると呪文の詠唱すらなく唐突に魔法を放った。

だんっ、と大きな音と共に、コルネリオ様が後ろにそびえていた大木に叩きつけられる。


「くはっ」


コルネリオ様は小さく呻いて信じられないものを見るようにセレーネを見つめ続けるが、肩に矢のようなものが刺さっているかのように、叩きつけられた大木にその体を縫い止められている。


「貴様っ」


木に張り付けられたコルネリオ様に気を取られていたが、突然それまで静観を決めていたレオがセレーネを切りつけた。

がしかし、バチバチと火花を散らしただけでレオが振り上げた剣はセレーネを傷つけることはない。


「残念ね。結界を使うのはあなたたちだけじゃないのよ」


セレーネはレオに嘲るように告げると、笑みを浮かべた表情を崩すことなく私を見た。


「まずはあなたね。また結界をあちこち張られても困るもの」


言い終わるやいなや、魔力が動く気配がする。

その気配を感じると同時に無意識に体が動き更に結界を重ねると、その直後に重たい衝撃がすぐ側の空気を震わせた。

お互いに結界を張った状態では攻撃を放っても傷つけることはないだろう。


「やっぱりこれだと分が悪いわね」


セレーネは一瞬考え込むように呟くと、片手を上げた。

その途端に、背後の森がぞわりと蠢く。


「…?」


森の不穏な動きに緊張して様子を伺っていると、更に森がざわりと大きな音をたてた。

その音と共に現れた大きな影に思わず目を見張る。

ルカもセレーネのただならぬ様子に、問いただすのは諦めたのか、素早くトーコの側に走り寄って警戒している。


「うふふ。私一人じゃさすがに不利だしね」


セレーネは相変わらず美しい笑みを浮かべたまま、更に魔力を放出したのかゆらりとオレンジの炎を纏った髪を揺らす。

森から姿を現したのは、先ほどの魔獣よりも更にひとまわり以上もの体格を誇る数羽の大鷲だった。


「魔獣を操ってる…?」

「そうよ?これだけ魔素が満ちれば楽だわぁ。ま、この子たちを倒してもまだいくらでもいるから、魔力が尽きるまで頑張ってね」


思わず漏れた呟きに、セレーネがにっこりと答えると、その声を合図にしたかのように、魔獣が一斉に襲いかかり、バチバチと結界同士が反発する音が響く。

エドの方を見れば、エドが結界を張っているのだろう、レオが結界に守られながら大鷲相手に切りかかっている。


「ルカ。あいつらもみんな核は頚?」

「いや。心臓と頚と半々だ」

「レオが相手しているやつは?」

「あれは…頚だ」

「そう。ルカ、こっちに来てる奴らは時間稼げる?」

「あぁ。結界を削ぐくらいだけど」

「充分よ。トーコをお願い」


ルカはトーコをその背中に庇って頷いた。

私たちに向かって大鷲が2羽、飛びかかろうてしてバチバチと結界を反発させている。

セレーネの目的は洞窟から放たれる魔素の解放だ。

そのために私の結界を解くのだろう。

結界も魔力が尽きればいずれほどけてしまう。

魔力が枯れる前に彼女を何とかしなければ。


エドとレオを見やれば、若干押されながらもレオが大鷲と結界を散らして鍔迫り合いをしている。


「レオ!頚を狙って!」


叫ぶと同時にレオの剣に結界をかける。

バチバチと火花を散らす音が更に大きくなり、レオが切りつけた大鷲の頚の辺りの空気がゆらりと緩むのを感じた。


「鎌鼬!」


その緩みに捩じ込むように魔法を放つと、狙いどおりに渦巻いた風がブーメランのように大鷲に襲いかかり、その頚を落とす。

大鷲は悲鳴もあげず、二つに別れたその巨体が地面へと叩きつけられる。

振り返ってルカとトーコを見ると、相変わらず2羽の大鷲がお互いの結界を削ぐように火花を散らしている。


「ルカ!」

「こいつら心臓だ!」


ルカの叫びを聞いてルカとトーコに再び結界を重ねたその時、ぐらりと視界が歪んだ。

ずーんと目の奥から鈍い痛みが頭へと広がっていく。

僅かに疼く痛みを振り払ってルカとトーコを守る結界を更に強化させると、反発する力が勝ったのだろう、二人に取りついていた魔獣の結界が揺らいだ。


「稲妻!」


揺らいだ結界をこじ開けるように光の矢を放てば、結界をかわして魔獣を貫いた。

2羽とも電撃の影響か巨大な体躯を痙攣させているところに、ルカが止めを刺して仕留めていく。

しかし今の攻撃でかなり魔力を消耗したためか、頭痛が更に重みを増して頭の中に響いてくる。


───まずい。魔力が枯れてきている。


洞窟から魔素が漏れないように幾重にも掛けた結界でかなり魔力を消耗している。

このままでは魔力が枯渇して倒れてしまう。

その一瞬の焦りを見透かされていた。


「今よ!」


セレーネが叫ぶと同時に、更に現れた大鷲が数羽私に向かってくる。


「ルゥ!」


ルカが私に向かって走ってくるのが見える。

ダメ、トーコから離れないで。

そう叫びたいのに声が出ない。

結界を張らなくては、そう思っても頭痛はさらに酷くなり、集中することができない。

ばさり、と大鷲の翼の音がやけに近く聞こえて、私は目をつぶった。


「──────ダメ!!」


大鷲からの衝撃を覚悟して身を固くしたその時、トーコの叫ぶ声が聞こえた気がしたけれど、それを確かめることは出来ず、私は白い光の奔流に飲み込まれた。


誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

訂正機能が素晴らしすぎてありがたいことこの上ないです。


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