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森の中に一人で佇む少女は、眉間に皺を寄せると忌々しげにふう、と息を吐いた。

瞳にはオレンジの光が宿り、静電気を帯びたように広がった美しいハニーブロンドの髪は炎を纏うように瞳と同じく淡いオレンジの光の揺らめきに包まれていた。


「あんなに何重も結界を張って…。どれだけ過保護にしてんのよ」


眉間の皺を緩めること無く吐き捨てるように呟くと、それまで彼女が纏っていた炎のような揺らめきが凪いだ。


───まぁ、しょうがないか…。収穫はあったんだし。結界には結界を、とはねぇ…。


ニヤリと唇を歪めたその時、背後から近づいた男性が声をかけた。


「セレーネ」


少女は振り返ると、それまで浮かべていた凶悪に歪めた笑みが嘘のように可憐な笑顔を男性に向ける。


「コルネリオ様」


コルネリオはゆっくりとした足取りでセレーネに近づくと振り返ったその細い体を抱き締めて頬を寄せた。


「探索は終わったかい?この奥に夜営にちょうどいい場所があったよ。もう暗くなるから、今日はそこで休もう」

「はい。魔獣の洞はこの近くで間違いありませんわ。明日にでも辿り着けると思います」


セレーネも嬉しそうに淡い水色の瞳を細めてコルネリオの腕の中で隙間を埋めるように更に身を寄せた。


「セレーネは聖女の力を使うときに美しいオレンジを纏うんだな」


コルネリオは愛しそうに掬い上げた髪ひと房に口づけて呟いた。


「はい。神のご加護です」


セレーネはにっこりと笑みを浮かべてコルネリオの胸に顔を埋めた。

その笑みを浮かべた瞳に、オレンジの光が歪に宿っていることには、コルネリオは気づかなかった。


◇◇◇


「ひとまず、撃退できたのかな」


森の奥へと飛び去った魔獣を見送って、ルカがポツリと呟いた。


「そうみたいね。でもまた来るんじゃないかしら」


ルカと並んで魔獣が消えていった空を眺めながら私も呟いた。

あの大鷲の魔獣は余力を残していた。

けれど結界が破れればその限りではないと判断したのだろう。

そして魔獣は明らかに知性を持って私とルカを狙っていた。

騎士たちもそれがわかったのだろう、弓矢を下ろして見守っていた。


「あんなに知能の高い魔獣が複数で空から襲撃してきたら危ないわね」

「確かに」


暫く並んで空を見上げて、魔獣の再来襲が無さそうな様子を確認して部屋へ足を向ける。

トーコの様子も心配だ。

エドは朝、午後にはお茶を、と言っていたけれど、この分じゃ忙しくなるだろうから無理だろう。

もし誘われても、今の魔獣の襲来を理由に部屋で休ませてもらっても失礼には当たるまい。

ああ、でも魔獣の様子を聞かれるかもしれないな。

つらつらとそんな事を考えながら、私は部屋へと戻った。


◇◇◇


私はごろり、とベッドの中で寝返りを打った。

既に夜が更けているけれど、今日の魔獣の襲来で興奮しているのか、なかなか眠気がやってこない。


魔獣が飛び去った後、部屋へと戻った私たちを、トーコは飛び付く勢いで迎えてくれた。

部屋を出ないで、と私の出掛けの言葉を守って部屋で待っていてくれたが、ただ待つのは苦痛だっただろう。


私たちが魔獣と戦う様子を窓から見ていたらしく、トーコは無事でよかった、と泣き出しそうな様子で呟いた。

その後、やはりエドには魔獣の様子を尋ねられ、何者かの結界によって物理・魔法の攻撃共に無効化されていたと告げると絶句していた。

結界をぶつけることで中和させる必要がある、と至急結界を扱える魔術師を手配するように伝えてエドの部屋を後にすれば、すっかり日も暮れていた。

食事と清拭を済ませて早々に眠るべくベッドに横になったけれど、なかなか寝付けずに今に至る。

明日の朝にはルカと落ち合う約束をしている。

早く休まないと、と再び寝返りを打った時だった。


「ルゥ、まだ起きてる?」


トーコの小さな声が聞こえた。


「えぇ。トーコも眠れないの?」

「うん。…今日の魔獣さ、一瞬だけど、何回か私を見たの」


驚いてトーコが眠るベッドへ体の向きを変えると、トーコが真剣な表情で私を見つめていた。


「本当に一瞬だけど、目が合ったの」


不安に瞳が揺れてはいるものの、宿す光は強い眼差しで、トーコは続けた。


「なんかね、力に目覚めていないかを、確かめに来たみたいだった。私、このままでいいのかな。レオナルドが言ってたみたいに、勝手に役割を決められるなんて腹が立つんだけど、何の力も感じられない自分が不安なの」


息を継ぐと、トーコは絞り出すように呟いた。


「私、ルゥたちと一緒にいていいのかな」


私は身を起こすと、トーコを見る。

未だに不安に揺れる瞳を暗闇の中で見つめて、できるだけゆっくりと告げる。


「魔獣がトーコの何を探りに来たとしても、私がトーコを護るべきであることに変わりはないわ。聖女の力は必要な時に授かるはず。まだ力を感じないのなら、まだその時ではないのよ、きっと。」

「…そっか」

「だからそれまで、一緒に居ましょう」

「…うん。ごめんね、ルゥ。変なこと言って」

「大丈夫よ。今日は疲れたわね。早く休みましょう」


うん、と小さく返事をすると、トーコは毛布にもぐり込んだ。

私ももう一度ベッドへ横になって目を瞑った。


───結局、朝まであまり眠れなかった。

少しうとうとと微睡んだだけで、夜明け前に目が覚めてしまったのだ。

もう少し眠ろうにも目が冴えて、どうせ眠れないのなら、いつでも出立できるように荷物をまとめておこう、と起き上がるとやはりよく眠れなかったのか、一緒に起き出してきたトーコと二人、音を立てないようにこそこそと荷物を片付けた。

とは言え、トーコも私もこの村には身一つで来ている。

ブレロの街で買った着替え数枚を纏めたら終わってしまう。

必要最低限のもは身に付けることにして、ポシェットのような小さな鞄に入れて身に付けると、身軽でいいね、と笑いながら私たちは練兵場へと足を運んだ。

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