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「3人、一緒?」


トーコは意味を噛み締めるようにゆっくりと呟いた。


「ええ。ルカに、ええと彼に協力するつもりがないなら、早めにここを出た方がいいと伝えたの。きっとエドは気がついているから。私も、いずれそうするつもりだとも」


真っ直ぐ私を見つめるトーコの目を見つめて、私は先を続ける。


「それで、ルカは私たちが引き合う限り、エドは私を離さないだろうと言ったわ。私がここに留め置かれる限り、その影響でルカやトーコの国外への移動も阻まれるかもしれないと。だから3人で一気に出てはどうかと提案されたの」


何も言葉を発すること無いトーコに、私はゆっくりと聞いた。


「私は、ここを出たいと思う。トーコは、どう思う?」

「私も、そう思うわ」


迷う素振りもなく、トーコはあっさりと答えた。


「さっきレオナルドに町に帰してと言ったの。でも彼は私が聖女だと前提にして話をしてきていたわ。帰せるわけ無い、役割を果たすべきだって」


やはり彼らはトーコを聖女と見込んで勾留していたのだ。

結界師、聖女、勇者がおそらく狙い通りに彼らのもとに集まったことになる。


「あいつらの言うままになってたら、いつまで経っても離れられないと思う。その前にさっさと出ちゃおうよ」

「ええ。明日の朝、ルカと落ち合う約束をしているの。その時に、全部決めましょう」

「そうなると、午後のお茶とか憂鬱ね。気付かれないように気を付けなくちゃ」

「そうね。暫くはこの件は忘れておきましょう」


少しだけ、先が見えたからだろうか。

トーコと私はクスクスと笑いあった。


◇◇◇


ピィィィ───


お昼を過ぎて少しした頃、村に警戒音が響いた。

私が村に来た日に聞いた警戒音。

魔獣の襲来を告げる音。


「…魔獣だわ」


トーコに告げると、彼女の瞳は不安に揺れていた。

それも仕方の無いことだ。

トーコはこちらの世界に来てから魔獣と直接対峙したことはない。

召喚される前に暮らした国でも、戦うことは無かったという。

それに召喚された時に知識として聖女であることを自覚はしたものの、現時点では聖女の力に目覚めた感覚も無い。

つまり、トーコは魔獣に対抗する術を持っていないのだ。


私は意識を集中させると部屋に結界を張る。

そしてトーコ自身にも。

聖女を守るための厳重な護り。これが本当の結界師の役割。


「トーコ。結界を張ったから、この部屋から出ないで」

「うん、わかった」

「村にも結界を張ってあるの。何重に守ってるから心配しないで」


不安そうに頷くトーコにそう告げて、私は外へと向かった。


「ルゥ!」


外に出ると、やはり飛び出してきたらしいルカに声をかけられた。


「さっきの警報は───」

「魔獣が村に向かって来ている警報らしいわ」


ルカの質問を遮るように答え、村の外へと急ぐ。

しかし森へと続く道が延びているだけで、魔獣の姿はない。


「上だ!」


警報を聞いて集まってきた騎士の声が響く。

視界が翳り空を見上げると、大鷲がその翼を大きく広げて日の光を遮って近づいて来たところだった。


騎士たちが弓をつがえて大鷲を狙うが、その剛毛に阻まれて貫くこと無く落ちていく。

淡いオレンジを纏った翼は、火の属性でも持っているのだろうか。


「…稲妻」


魔獣に気付かれないように、そっと詠唱すると、雷の矢が魔獣に向かって走った。

が、しかし。

勢いよく走った稲妻は魔獣に触れる直前で消失した。


「結界?」


魔法を弾く力に目を見張る。

よく見れば大鷲は包むような柔らかい光に覆われていた。

あの光が反射してオレンジの炎を纏うように見えていた。

弓が当たらないのも結界のせいだ。

何か特別な力がこの魔獣を守っている。


「あいつ、頚に核がある…」


隣で魔獣を見ていたルカが呟いた。


「頚?心臓ではなくて?」

「あぁ。あいつは心臓を貫いてもたぶん死なない。核は頚だ」


しかし核がわかっても結界があっては魔法も弓も役に立たない。

どうしたらいいのだろうか。

結界とて万能ではない。

何か方法があるはずだ。


その時、魔獣がちらりとこちらを見た。

翼に纏うその色と同じオレンジの瞳と目が合った。


「ルカ!」


咄嗟に叫んでルカに結界を張る。

私たちを目掛けて飛んできた魔獣がギリギリで間に合った結界を掠めてバチバチと音をたてた。

───もしかしたら、いけるかもしれない


「ルカ、あいつに攻撃できる?」

「また降りてくれば」


ルカは剣を構えて魔獣からは目を逸らさずに答えた。


「それならそのタイミングで攻撃して。それであいつの結界を剥がすわ」

「わかった。攻撃するなら頚を狙ってくれ」


結界同士の衝突に怯んだのか、魔獣は一度空高くに飛び上がった。

しかしオレンジの目は私とルカを捉えている。

急いでルカの剣に結界を張る。

続いてルカにもさっきより強い結界を。


「来るぞ!」


ルカが叫ぶと同時に、ぶわっと大きな翼が掠めてくる。

ルカは怯むこと無く剣を魔獣へ突き込もうとして、魔獣の結界が悲鳴をあげるように再びバチバチと結界が反発する音が響く。


結界には、結界を。

結界は物理攻撃や攻撃魔法も退けるけれど、それを上回る結界をぶつけられると反発して綻びができる。

そこをつけば、あの魔獣も倒せるはず。


その思い付きは、正しかったらしい。

バチリと一際大きな音を立てて、魔獣の結界の一部が揺らいだ。

ルカが突き込む剣に更に力を込める。


「…!稲妻!」


急いで紡いだ雷の矢が、魔獣へと走る。

細かい隙間をこじ開けるように魔獣へと光が刺さった。

しかし、綻びがまだ小さかったのか、致命傷を与える程ではなかったらしい。


魔獣は稲妻を払うようにばさり、と翼を鳴らすと再び空高くへと飛び上がり、暫く村の上空を旋回すると、ちらりとこちらを視線を向けると森の奥へと飛び去っていった。

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