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「あ、ルゥ、おかえりなさい 」


エドに伴われて部屋へと戻ると、既に身支度を整えたトーコが笑顔を向けた。

一瞬手を繋いだ私たちを目を見開いたものの、何も無かったかのように部屋へと迎えられる。

部屋に入るタイミングで、ずっと握られていたエドの手をそっと外した。

しかしこちらも驚くことに何故かレオまで部屋にいる。


「ただいま戻りました。レオ、朝からどうしたの?」

「ルゥに人探しをして欲しかったそうよ。朝からたたき起こされちゃった」


驚きを隠さずに問うと、レオよりも先にトーコが憮然とした表情を隠さずに言った。

人探し?とレオを見ると、苦笑いというより渋面を浮かべている。


「あぁ、彼なら井戸を探していたそうだ。じきに戻るだろう」


エドがレオに告げると、レオは驚いたように私を見た。


「会ったのか?」

「昨日保護した彼なら、井戸を探していたようなので案内しましたよ」

「…そうか。部屋に居ないから心配したんだ。居場所がわかったなら問題ない。トーコ、朝から悪かったな」


レオはそう言うと、エドに一礼してさっさと部屋を出ていった。


「では、私も失礼。あぁルゥ、討伐が入らなければ今日の午後私の部屋に来てくれ。たまには一緒にお茶でも飲もう」


エドもにこりと笑顔を浮かべると、トーコもね、と告げると返事は聞かずに部屋を出ていった。


「…。いつも思うけど本当に一方的よね…」


トーコが毒気を抜かれたように溢した呟きに、私も小さく頷いた。


「それにしてもルゥ、こんなに早くから殿下と何処に行ってたの?顔真っ赤だし。何があったの?」

「急に距離を詰められて驚いただけよ。何もないわ」


やはり顔が赤くなっていたらしい。

私はデビューすること無く王太子の婚約者に指名された。

その王太子にエスコートされることも殆ど無く、結界の維持に明け暮れていた。

たまに引っ張り出される夜会も王太子の婚約者として扱われたので、男性が寄ってくることもなかった。

そのため男性との距離の掴み方がよくわからない。

あんな風に急に距離を詰めて来られると、どう反応していいのかがわからなくなってしまうのだ。

私は誤魔化すように顔を反らしてトーコに告げた。


「ずっと一緒にいた訳じゃないわ。井戸の帰りに会ったから送ってくれたのよ」

「井戸に?」

「夢見が悪くて…。ちょっと早く目が覚めちゃったの。だから気分転換も兼ねて井戸に顔を洗いに行ったんだけど、」


不思議そうに目を丸くするトーコに、一度言葉を区切って急がないように気をつけて続きを告げた。


「…彼に、会ったわ」

「彼。昨日の?」

「そう。ちょうど井戸で会ったの」

「あぁ。それでレオナルド様が血相変えて探していたのね」


トーコは納得した、という様子で頷いていた。

レオが慌ててルカを探している様子が目に浮かび、私も苦笑をもらした。


「きっとそうね。でね、彼も、協力する気はないと言っていたわ」

「!」


驚きを隠さずに目を見開くトーコに頷き、静かに告げた。


「3人で、ここを出てしまったらどうか、と提案されたの」


◇◇◇


ルカが顔を洗って部屋に戻って暫くすると、誰かの訪いを告げるノックが響いた。


「はい」

「失礼する」


短い応答と共に身を滑らせるように部屋へ入ってきたのはレオナルドだった。

確かここに詰める騎士団の副長だったな、とルカは記憶を探る。


───昨晩、ルカが目を覚ますと見知らぬ部屋に寝かされていた。

一瞬見慣れない部屋に体が緊張したが、ルカは自分が魔獣の群れと遭遇して闘っていたこと、数の多い魔獣に難儀して体力の限界を迎えた頃に騎士団と思しき集団が加勢に来たことを思い出した。


おそらく騎士団に保護されたのだろう、清潔なベッドに寝かされていたあたり、それは決して希望的観測でもない。

つらつらと倒れる前のことを思い出そうと記憶を辿っていると、控えめなノックと共にガチャリとドアが開いた。

ルカが目覚めているとは思わなかったのだろう、ドアを開けた長身の男は、ベッドに身を起こしたルカを見て目を見張った。


「すまない。まだ眠っているかと…」

「いえ。助けて頂いたんですね。ありがとうございます」


ルカが小さく頭を下げると、男は持っていた盆に載せていた水差しをグラスと共にサイドボードへと置いた。


「あの、ここは」

「第二騎士団の詰所だ。魔獣の群れに囲まれていたところを保護した。名前を伺っても?」

「ありがとうございます。僕はルカと言います。町の警備隊に勤めていましたが、今は職を辞して旅の途中です」

「私はレオナルド。第二騎士団の副長を務めている。魔獣相手に体力が尽きるまで闘っていたんだ。癒えるまでゆっくり養生してくれ」


レオナルドと名乗った男は、爽やかな笑みを浮かべてルカを労った。

目覚めたときに飲めるよう水差しを置きにきただったのだろう、まだ疲れが抜けていないところを失礼した、と彼は早々に部屋を出ていったのだった──


それ以来この部屋に人の訪れは無かったが、一晩休ませて様子を見に来たのだろう。

手には朝食を載せた盆を持っている。


「調子はどうだ?」

「はい。すっかり回復しました。ありがとうございます」


レオナルドが昨晩と同じ、爽やかな笑みを崩さずにルカに尋ねる。

この笑顔であの少女を恐喝したなんて信じられない、そんな事を考えながらルカは笑みを返した。


「ところで、旅の途中と聞いたが、一人で?」


レオナルドは笑みを浮かべたままとルカに質した。

笑みを消した訳ではないが瞳は鋭さを増していて、探るような視線がルカに刺さる。


「はい。西へ向かっていたのですが、道に迷って魔獣に遭遇してしまいました」

「慣れているように見受けたが、討伐の経験があるのか?」

「故郷の町で警備隊に勤めておりましたから、その時に」

「そうか。旅の途中でなければ是非討伐に加わって欲しいところだな」

「すみません、先を急いでおりますので…」

「それは残念だ。しかし中途半端な休息ではこの先の旅路も持たないだろう。発つ前に十分に養生してくれ」


レオナルドは朝食をテーブルに置くと、ありがとうございます、と礼を述べるルカに笑みを向けて部屋を出ていった。

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