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「公爵令嬢は森に死す」の続編です。

見切り発車なので、のんびり更新します。

北の森に私を連れ出した馬車が離れて行った道から、目を離せずにいた。

北の森の魔獣の盾にするべく、集められた罪人を収容する贄の村の入り口はすぐそこだが、動くことが出来ない。


「いつまでそこに立っているつもりだ?」


馬車が倒れる音がした方向を、じっと見つめたまま立ち尽くしていた私に、声を掛けられたのはどれくらいの時間が過ぎてからだろうか。


振り返ると、金髪を短く刈り込んだ背の高い男がこちらに歩き寄って来るところだった。


「魔獣が、暴れたようですね」

「あぁ。あの数では助からないだろうな」


彼は私の隣に並ぶと、同じ方向に目を向けてそう呟いた。

綺麗な深いブルーの瞳が悼むように伏せられる。

美しい相貌が悲しげに歪められるのをぼんやりと見とれていると、顔をあげた彼が私の方へと体を向けた。


「君は、ここへ?」

「はい。王太子様の命にて、こちらへ移送されました。お世話になっても?」

「…案内しよう」


どうぞ、と自然な仕種で手を取られ、彼は私を優雅にエスコートして村の中へと入っていった。


◇◇◇


───パウジーニ公爵令嬢?


信じられない、と言った表情でこちらをまじまじと見つめる彼を、私は怯むこと無く見つめ返した。


「はい。私はルクレツィア・パウジーニ。パウジーニ公爵家の長女です。王太子の婚約者でしたが、王太子の命を受けた兵士によってこちらへと連れてこられました」


金髪の美丈夫に連れられて入った建物は、簡素ながら小屋と呼ぶには随分としっかりとした造りだった。

気づかれぬように、そっと村全体に魔獣を避ける結界を張る。


応接室のような、小さなテーブルとソファが置かれた部屋に通されると、そこに掛けるよう促される。

静かに腰を下ろすと、彼もテーブルを挟んだ向かい側に座り、私の身元を問うたのだった。


「何だって公爵令嬢がこんなところに…」


彼は信じられないものを見るように私を見やると、目元を大きな手で覆ってしまった。

どうやら私が贄の村へ送られるとの先触れは来ていなかったらしい。


「王太子殿下の邪魔にでもなったのでしょう。学園の恋人を王太子妃にと望んでいらしたようなので」

「ほう」

「今朝、学園に登校するなり王太子の使いに拘束されました。何を咎としたのかは分かりかねますが」

「心当たりも?」

「ええ。私が婚約者と言うだけで目障りだっただろうということくらいですね」


ただ彼女を愛したからという理由だけで私との婚約を解消することはできない。

だから私を北の森へと追放しようとしたのだろう。

贄の村へ追いやってしまえば戻ってくることなど不可能だ。

途中魔獣に襲われればより好都合、と。


北の森へ自ら入って行方不明になったことにでもしたかったのだろう、と淡々と告げると、彼は言葉を詰まらせた。


「失礼します」


彼が言葉を失っていると、会話が切れたタイミングと見計らったのか、お茶を乗せたトレイを持った男性が入ってきた。

いい香りのする紅茶をそっと差し出されて、思わず表情が緩む。

暖かい紅茶を一口飲むと、じわぁっと暖かさが広がって体を暖めてくれる感覚にこれまでの緊張も緩んでいくように感じた。


そんな様子を見ていた彼は、ふ、と表情を緩めると口を開いた。


「あなたのことばかり尋ねて、自己紹介もまだでしたね。私はエドガルド・ラウロ。この村を統括しています」

「え…」


彼の名前を聞いて、今度は私が絶句する番だった。


◇◇◇


大陸の北西に国土を持つラウロ王国。

国土の多くは森に占められ、北には急峻な峰を持つ山脈、その懐には魔獣が跋扈する大きな森が広がっている。

魔獣による被害が絶えない北の森ではあるが、連なる山脈と広大な森に支えられた水脈により、とうとうと水をたたえた河川と肥沃な平野をもたらしてくれる。

その北の森の恩恵とも言える平野に豊かな農地を持ち、そう大きくはなくとも農業を中心とした豊かな国である。


そのラウロ王国を統べるラウロ王には、年の離れた弟君がいる。

先代王のベルトラントは、長く王妃その人だけを愛していた。

愛し合った二人の間に授かったのが現王であるが、王妃は現王の出産後に体調を崩し、短い闘病生活の末にこの世を去った。


世継ぎがたった1人の王子とあっては、と周囲は再婚を度々奏上したが、先代王はなかなか頷かなかった。

しかし現王が10歳を過ぎた頃、立太子と共に国内有力貴族の令嬢との婚約を整えると、先代王はそれまで献身的に支えてくれた侍女との婚姻を発表した。

王に仕える侍女は貴族令嬢がその多くを占めるように、かの侍女も下位貴族の令嬢であった。

決して身分の高くない女性を後妻に迎えることに反発が無かったわけではないが、側妃ではなく愛妾とすることで決着が着き、その後暫くして二人の間に男児を授かったのだった。


「なぜ、王弟殿下がこんなところに…?」


そのラウロ王国の名を戴くのは、王族のみ。

私の目の前に座るその人は、現王の弟君、王弟殿下エドガルド・ラウロその人であった。







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