無口に踊ろう
清田蛍×芹沢神楽
「あら、清田さん、どうされました? こんな時間に教室へ」
勉学とは無関係な私物や落書きで汚れた教室。傾いた太陽に照らされ、真っ赤に染まったその中心に彼女はいる。
物静かに、嫋やかに、芹沢神楽はいた。
たった一人で、寂しげに踊りながら。
「…………」
名を呼ばれた彼女の同級生、清田蛍は、静かに自分の机を指差した。
「お忘れ物ですか?」
「……」
無言で頷く。
「本当に物静かな方なんですね」
「……」
蛍は申し訳なさそうに俯いた。
神楽は、蛍の手を取って強引にその小さな身体を引き寄せる。突然のことに驚き目を丸くする蛍に、神楽は優しくささやいた。
「折角だから、私と踊ってくださいませんか?」
「?」
「初めてでも大丈夫ですわ、私がリード致します」
「!?」
「最初は私に合わせて動くだけで良いですわ、そう、ちょっとぐらい遅れても問題ありません」
「……!」
「お上手ですね、今度は私が合わせますので、自由に動いてみてください」
「…………! ……!!」
「凄いですね…………ふふ、もう少しだけ、このままでも……よろしいですか?」
蛍は、笑顔で大きく頷いた。
ほんの数分のことだったが、とても長い時間を共に過ごしたように思えた。太陽は落ち切ってもいない、まだ教室は赤く染まったままだ。
それでも、太陽は止まらない、少しずつ、落ちていく。もう少しだけ、もう少しだけ、待ってほしい、神楽は、願った。
そんな彼女に、蛍は静かに笑ってあげた。
落ちていく太陽を眺めながら、二人は静かに踊り続けた。