ボードゲームカフェとボードゲーム会
今、静の目の前では仄がボードゲームカフェへ灯を誘っている。
曰く、
・1人で行っても同士がいていつでも遊べる。
・美味しい軽食が楽しめる。
・準備室に無いボードゲームを遊べる。
等々。
「店舗が増えたり、プレイスペースを拡大している店がある一方で、立地や品数の影響で閉店しているカフェもちょこちょこあるね。」
飲み物を買ってきた猛が会話に加わる。
「でも都内はあちこち増えるほど人気があるのね。」
灯は興味津々といった様子だ。
「今はたくさんのボードゲームカフェが出来てますが、先生はどこで遊んでいたんです?」
猛は対面で先程プレイしていたゲームの片付けをしている土井先生に質問を投げかけた。
「ボクの頃はボードゲーム会がメインだねぇ。」
「ボードゲーム会…ですか?」
傍観していた静が思わず口を挟んだ。
先生はタイルを整理する手を止め、生徒たちの方を見た。
「うん、市や区の公共施設の一部屋を借り切って半日とか日がな一日ボードゲーム三昧するんだ。公共施設だと参加人数にもよるけれど1人あたりの参加料は300~500円だね。部屋を借りている時間内なら好きなだけ滞在出来るからボクはいつも6時間以上遊んでたね。」
仄が驚いたように声を上げた。
「随分安いんですね~。」
「その代わり食事や飲み物は各自調達…近くの店に食べに行ったりコンビニで買ってきたりして済ませるね。ゲームも自分たちで持ち寄って遊ぶんだ。勿論手持ちがない人は手ぶらで参加しても問題ないよ。」
灯が心配そうに言う。
「じゃあ誰かがたくさんゲームを持っていないと遊ぶゲームが無い!なんてことも?」
土井先生はニコニコしながら首を横に振った。
「公共施設を借りてボードゲーム会を開催する人は、複数人から成るグループ…サークルで運営していて、その中の1名以上はたくさんボードゲームを持参するからその辺の心配はいらないよ。それ以外にも誰かしら新作のゲームは持ってくるものだしね。」
猛は得心が行ったように頷く。
静流がふと沸いた疑問を口にした。
「ボードゲームカフェより安くて長く遊べるのに、話題にならないってことは廃れてしまったんです?」
「いや、今もボードゲーム会はあるよ。ただお店みたいにちゃんとHP作っていたり告知していたりする所は少ないからCM力の差だろうね。それから圧倒的に男性参加者が多く、男性陣はほぼ常連だから女性で初参加する場合は少し敷居が高く感じられるかもしれないね。あとカフェほどオシャレ感がないのがね…。」
「ああ…だから芸北先輩と道垣井先輩はボードゲームカフェなんですね…。」
”オシャレ感がない”というのは女子高生には大きな要因のように感じられる静。
「私は単にボードゲーム会というものがいつどこで行われるか、知らないだけです~。」
「うん。カフェは店休日と営業時間に気を付ければ”自分の好きなタイミングでボードゲームが楽しめる”からね。一方ゲーム会は普段社会人している人達が土日のどこかで施設を予約するから、日時は固定だし、HPやSNSで情報を仕入れる必要があるんだよね。」
ハタからみると何をしているのかが分かりにくいボードゲーム会。
それを開放的なビジョンに転換したのがカフェという存在なのだろうか。
「ちょっとボードゲーム会ってのに興味が沸きました。」
土井先生はボードゲームの箱をしまいながら嬉しそうに
「お、夢川君もすっかりボードゲームファンだねぇ。ゲーム会は複数のボードゲームを”このゲームで遊びたい人?”と、候補に挙げてメンバーを募っていくつかの宅分けをしていくのが基本だけど、ゲームに慣れた人がプレイ層の習熟度を鑑みてルールが分かり易くて楽しいゲームを選んでくれたりもするから安心だよ。」
と語る。
静はサポート体制の充実に感心しつつ
「俺ちょっと難しいゲームもしてみたいです。」
と背伸びもしてみる。
そんなお年頃だ。
すると土井先生の眼鏡置くの瞳が鋭さを増した気がした。
「夢川君は難しいゲームで勝ちたいかな?」
「そりゃ…やるからには勝ちたいですが…。」
男はそういうもんでしょ。
『冷たい料理の熱い戦い』はボロ負けだったが。
すると先生は再び奥の棚に向き直り、新たなボードゲームを取って机の上に置いた。
「難しいゲームは戦略要素がたくさんあって面白いんだけど、経験差が勝敗に大きく出てしまうんだ。ゲーム会に来る人達はやり込んでいるからそう簡単には勝てないかもね…。勝ちたいなら少しここで練習するといいよ。明日簡単な戦略ゲームをするからルールだけ読んでおいてね。」
渡された説明書には『Splendor』と書かれていた。