冷たい料理の熱い戦い
『冷たい料理の熱い戦い~DIE HEISSE SCHLACHTE am kalten Buffet』
作者:アレックス・ランドルフ
発売:ラベンズバーガー社/1990年
絶版だが『ウミガメの島』というタイトルで2014年にリメイク。
目的:料理タイルを積み重ねたゴールの周りのマスをスゴロク形式で一周して、中央の料理タイル(得点)を獲得しよう。
得点は1点~7点までランダムに積まれているよ。
得点の合計が最も高いプレイヤーが勝利となるよ。
手順:1.サイコロは1~3個のうち任意の個数を振る。
サイコロの目の合計が8以上になってしまったらスタートに戻る。
出目の合計は振ったサイコロの個数を乗算出来る。
例):⚁⚀⚂と出たら(2+1+3)×3 で18マス進める。
2.他のプレイヤーのコマがあるマスに止まったら、そのプレイヤーの駒の上に自分の駒を置ける。
下のプレイヤーが自分の手番で移動する時は、上に乗ったプレイヤーが指示するサイコロの個数を振らなければならない。
そして上に乗ったプレイヤーの駒も一緒に移動する。
もしそのままゴールに辿り着くと、上に乗ったプレイヤーが料理タイルを持っていってしまう。
3.ゴールに辿り着いたらまたスタート地点に戻り、サイコロを振ってゴールを目指す。
「30年前のゲームなのにラノベみたいなタイトルですね。」
「感心するトコそこ!?」
静の感想を軽く笑いながらも、猛は円形のタイルや駒を箱から取り出していく。
「じゃあ自分の色を決めてくれるかな?まず夢川君から。」
ウェイターらしき男性が描かれた6色の木製の駒が並べられる。
「えっと緑にします。」
「アタシは紫!このゲーム初めてプレイするね。」
と灯。
「私はオレンジで~。リメイク品の『ウミガメの島』はボードゲームカフェでプレイしましたわ~。」
「僕は青にしよう。夢川君は双六は知っているよね?」
「はい。サイコロ振って出た目分だけ自分の駒を進めるゲームですよね?」
「そう。この『冷たい料理の熱い戦い』もサイコロを使って自分の色のコマを進めてプレイするから、手順がとても分かり易いゲームの一つだよ。
「へぇ、そうなんですね。」
にこやかに返事しつつ、静は内心ガッカリしていた。
―何だ、双六か。大して面白くはないよな…。
しかしこの静の予想も、ボードに描かれたテーブルを一周する頃には変わることになる。
「ちょっ。芸北先輩! 今乗らないで下さいっ。」
基本的なルールは双六なのだが、それに追加されているいくつかのルールのために一喜一憂することになるのだ。
「うふふ~。これで夢川さんは私の言いなりですわ~。」
小悪魔的なセリフだが、ふんわりおっとり言われると可愛いだけだ。
いやしかし、実際これから仄の取る行動は悪魔そのものなのである。
「では夢川さん、サイコロを2個振って下さい~。」
「うぅ…。」
コロンコロン。
「1、2、3、4、5、6…はい、7点のロブスター料理いただきました~。」
「ああ~…狙っていたのに…! また最初から回らないとならないのか…(泣」
目の前でトンビが油揚げ…もとい、仄に高得点タイルを掻っ攫われてしまった静の失望は大きい。
「残りの得点タイルの枚数も少ないし、勝負に出てサイコロを3個振って一気に移動するのもアリだよ。…リスクは高いけれど。」
「アタシはぴったりゴールマスに止まれたから2枚貰うねっ。」
(優しいフリして皆鬼畜だ…。)
こうして静の初ボードゲームは最下位で終わるのであった。
ゲームを片付けて学校を出た4人は、三手に分かれて帰ることとなった。
徒歩圏内の猛は門を出て北東の住宅街を目指して、自転車通学の灯は颯爽と南へ向かい、静と仄は最寄り駅のある西へと向かっていた。
夕日が空を赤く染め上げている。
「いかがでした~? 楽しめましたか~?」
背の低い仄は、上目遣いで静の顔を覗き込む。
―ちょっとそれ反則です、先輩…。
夕日が赤くなった自分の顔も染めていることを願いながら
「負けちゃいましたけど面白かったです。」
と素直な気持ちを静は答えた。
「最初は、サイコロ振って進むゲームにサイコロの数を掛け算するとか、自分の駒に他の人の駒が乗ると上に乗ったプレイヤーに従うとか…何でこんなルールが追加されているんだろう?ってピンと来なかったんです。」
仄は笑みを浮かべて先を促す。
「得点が稼げていない時に大勝負に出たり、自分の思い通りにいかないもどかしさがあったり、双六みたいなのにすごくエキサイティングなゲームでした。ゲームの進行も自分の気持ちも大きく揺れて…何だかとっても満足した感じです。」
「ふふ、それなら良かったです~。」
微笑んだかと思うと仄は急にうつむき、
「実は学校を出る前…夢川さんがトイレに行かれた時に坊坂さんから注意されたのです…。”夢川さんは初めてなんだからもっと花を持たせてあげないと”って…。それで半生してたのです~。ごめんなさい~。」
急に萎れて頭を下げる仄に、静は慌てて両手を振った。
「いやいや、サイコロなんて運でしょ? 接待ゲームなんて無理があるし。 プレイ中に皆がサイコロの目に振り回されてて、それを見ているだけでも楽しかったですよ! マジで!」
頭を下げていた仄が顔を上げる。
「本当ですか~? イヤな思いしてませんか~?」
瞳を潤ませて静を見つける仄に、もはや駒を乗せられていなくても逆らうことなど出来ない。
「ホントに楽しかったです。」
すると仄は安堵の表情を浮かべ微笑んだ。
「良かったです~。夢川さん、明日も一緒に遊びましょうね~。」
「…はい!」
(…ん? これかキャッチなのか…?)
上手く誘導されたのか、天然なのか。
小悪魔なのか、天使なのか。
リアルで芸北先輩に乗られたいと思いつつも女性の怖い一面を見た気がした静であった。
イメージが掴みやすいよう紹介ページへのリンクを用意しました。
ページ中間付近に動画もあります。
冷たい料理の熱い戦い
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