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越千高校ボードゲーム同好会へようこそ

 芒種の季節。

大分蒸し暑くなってきた6月初旬。


高校にもクラスにも馴染んできた静は、教室前面の時計を見た。

―あと5分で授業が終わるな。


 本日の授業が全て終わると、今日はもれなく二年の先輩が静を迎えに来ることになっていた。

その先輩と知り合ったのは昨日、ほんの偶然であったのだ。


 たまたま掲示板のポスター貼替を作業が目に入り、たまたま端にあった変わった同好会の告知が目に入り、たまたま背後にその同好会に携わる二年生がいただけのことだ。


 帰宅部で、先輩の「良かったら一度見に来てよ。明日終業後に迎えに行くから。」とのお誘いが断れなかった静は、大人しく先輩を待つことにしたのである。


 正直面倒くさいとの思うが、どんなものか興味もある。

 最近メディアで取り上げられている様子だと、わりと流行っているようだし、面白いのかもしれない。


 「おい、夢川。二年生がお前のこと呼んでいるよ。」

教室扉から声を張り上げられ、静は少し断頭台に上る罪人のような気分になる。

一部のクラスメイトから”二年に呼び出しされるって何したんだ?”と目線で訴えられているからだ。


「お待たせしました…あれ?」

荷物をまとめて廊下に出ると、昨日勧誘してきた背の高いイケメンとは違う人物が立っていた。

すっきりショートカットにくりっとした眼、すらっと手足が長く、静よりちょっと背が低い少女だ。


 「昨日坊坂君に同好会体験に誘われた一年生で合ってる? 坊坂君が準備に追われているから代わりに迎えに来ましたっ。

道垣井灯(どがいあかり)です。よろしくね。」


先輩が微笑むと、今度は妬みの視線が送られてくる。

早々に移動するのがよろしかろう。


「俺は夢川静(むかわしずる)です。よろしくお願いします。早速案内してくれますか?」


 口早にまくし立て、教室を後にしたのだった。


  「道垣井先輩はその…一年の時からその同好会に参加しているんです?」


 大きな瞳でじっと見返してこられるとどうにも落ち着かない静は、どぎまぎしながらあたりさわりのない会話を試みる。

「ううん、同好会自体が出来たのが2月くらい?だったみたいで…私は友達に誘われて4月から参加してるの。だから夢川君と同じ初心者だよ。」

―うっ…笑顔が眩しい…。


 静は痩せ型寄りの中肉中背、顔立ちは並み、頭の出来も並み、運動神経も並み の印象に残りにくい平々凡々とした人間だ。

美少女と並んで歩いていると嬉しい反面、どうにも引け目を感じてしまう。

昨日同好会に誘ったイケメンがこの先にいると思うと尚更である。


 まぁ恋愛感情の欠片も無いからこうして笑いかけてくれているんだろうな…と胸の中で独り言ちた所、灯がすっと腕を持ちあげた。


  「あ、あそこだよ。資料準備室。」

と、灯が指差したのはⅠ、Ⅱと2つある準備室の内Ⅰの方だ。

(部活じゃないから部室は貰えないってことか。資料準備室Ⅰって古い方だよな…)


社会科の先生方や最新の教材は資料準備室Ⅱに移動していて、Ⅰは時代の流れでお蔵入りした教材が放り込まれているような場所だ。

(同好会で集まるには手ごろな部屋だろうな。)


 その資料準備室Ⅰのドアハンドルに手をかけようとした瞬間、内側から扉が開けられた。


「や、いらっしゃい。」

「あ、ども。…コンニチハ。」


 人好きのする笑みを浮かべて扉の向こうに現れたのは社会科の土井先生だった。


ⅠとⅡの部屋を間違えたか?と思い、教室のプレートを見比べるが、どう見てもⅠの方だ。

先輩が部屋を間違えた?さてはイタズラか!?等と固まる静の背後から灯が声を掛ける。


「土井先生、もう来ていたんですか。」

「テスト問題作りがあるから一通り説明したら戻るよ。ちょっと抜けてきただけ。」


止まっていた静の頭が灯の方を向いた。

「顧問…ですか?」

「同好会とは言え、準備室を使う以上は指導者が必要だからねぇ。」

静の問いに、先生は体を脇に避け、2人に入るよう手招きしながらのんびり答える。


 「うわ…。」


 一歩踏み入れ、静は感嘆の声を上げた。


 整理されてきっちりと押し込められた古い教材が左右の棚にあり、奥の棚だけ明らかに教材とは異なるカラフルで、日本語や外字のタイトルが書かれているらしい箱が並べられていた。

 部屋の中央にはクッションマットが敷かれた大き目なテーブルが1つ、周りをぐるりと椅子が囲んでおり、神の長い女の子が1人小冊子を読んでいる。

 机の手前側、両角近くには古いサイトキャビネットがあり、その上にペットボトル等が置かれている。


 奥の棚からいくつかの箱を吟味していた昨日のイケメンが静に気付いて歩み寄ってきた。


「ようこそ、ボードゲーム同好会へ。」

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