第4話 訂正中
あの事故から3週間が過ぎた。意識を取り戻してからは18日目だ。
今日は事故後、初めて「改 春樹」と会った。
彼は元気そうに振りまいていたが、僕からは他人に等しかった「上原」の死は大きく心をえぐっていたのだろう、傍から見てもそう感じさせる独特な雰囲気を出していた。彼は僕に比べれば軽傷だったため、一足先に退院をするそうだ。
今日会いに来てくれたのは、退院前に助けてくれたお礼を言うためだそうだ。一緒に彼の家族と亡くなった「上原」の遺族が来ていた。
彼とその家族は僕にお礼を言ったが、それはどこか作った表情をうかがえるものだった。
助けた甲斐があったと思うと同時に、どう返答すればいいのかという息苦しさに襲われた。
少なくとも僕は彼の友達を救えなかった。ここで素直に「どういたしまして」や「助けられてよかった」といっていいものだろうかと思ったからだ。その時、僕は沈黙してしまった。そして空気の重圧に耐えかねてか、「上原」の母親が僕にお礼を言ったきた。助けようしてくれた行動に対しての気持ちで言ってくれた。
うれしさと同時にまた大きな釘が刺さったような気持ちに苛まれた。。衝動的だったとしても僕はあの時助けるほうを選んでいたと思う。その罪悪感に耐えかねてこのタイミングで言わなければいいのに僕は言ってしまった。
「僕はあの時恐らく助けるほうを無自覚に選んでいました。僕にとって「上原」は他人に等しかった。だからそのお礼の言葉を向けられるような立場にありません。すみませんでした。おまけにこの3週間僕はずっと失くした腕の子ばかり考え、「上原」のことから離れ楽になろうと努めていました。責任から逃れたいがためにです。謝ったところで何も帰って来ません本当にすみませんでした。」
いろいろな感情が渦巻きすべてを吐き出した。どうしようもなくいやな気分だった。ただこうでも言わないともっと罪悪感が生まれるやうな気がした。だから言った。
次の瞬間左の頬に強い痛みがはしり顔が右をむいた。向き直ると「改 春樹」が悲しいようなおこっているような悲痛な表情で顔を真っ赤にして睨んでいた。
「きみは・・・君はそんなことを考えていたのか・・・人間として・・・・・」
今度は彼は右の頬を殴り病室の戸を乱暴に開けて出て行った。それを追うように「上原」の遺族もこちらを睨んだ後出ていき、「改 春樹」の家族がおろおろとして僕のほうを複雑そうに眺め、彼らもついに出て行った。病室にはどうしていいか分からなくなった看護師と僕が残った。