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創世パンゲア戦記  作者: 蒼蛇
3/5

第2話 病院にて


 気がつくと知らない天井だった。自分がどういう状況に陥っていたかゆっくりと思い出して来た。

 そうだった・・・友達を突き飛ばして・・・引かれたか、跳ねられたのか・・・

 勝手に状況整理をしつつ鼻が痒かったので腕を持ち上げようとした。僕は花粉症である。

「???」

 腕の感覚がない・・・と言うか顔が持ち上がらない。目の動かせる範囲で仰向けの体の前方を見るとどうやら包帯やギプスで手は固定されているようだ。首もあらかた固定されているのだろう。感覚がないのは麻酔かなんかだろう。

 ・・・あぁ、なんか眠くなって来たな。


 気づくと再び眠りに落ちてしまっていた。



 再び起きた時、僕の寝ている病室は暗くなっていた。おそらく外はもう夜なのだろう。?・・・麻酔が切れているのだろうか、感覚が戻っているとともに全身痛い。耐えられないほどではないがあちこち痛い。くしゃみをすると全身に痛みが走った。ちょうど腹筋が筋肉痛の時にくしゃみや咳をしてしまったような感じだ。

 そうだった。さっき起きた時はあまり深く考えないうちにまた、寝てしまったけれど、結構な大怪我なんだろうなコレは、後遺症とか残んないといいな・・・



 首のギプスは外れているみたいだったので起き上がることにした。首も麻酔だったのだろうかギプスのような感覚はなかった。こんなに早く首もからギプスを外されるのはおかしいことだしきっとそうだったのだろう。

首を持ち上げて全身を見ると病院でよく見る患者の人がよく来ているものを来ていた。なんて名前なのかなこの服・・・まぁいいか。

 ふと、左手を見ると明らかに右手に比べて短く感覚もいまだにない。手と言うより腕だけのように見える。

 「え?」

 二の腕より下の部分がなくなっている。

 「うわあぁぁぁぁぉぁァォァァァァアアアアアアアアアアアアアア」

 僕の、俺の、左腕が無くなってしまっている。


 この日、僕は左腕の二の腕より下を無くしてしまった。




事故後、目覚めてから一周間が過ぎた。事故からは10日経っていた。僕は3日眠り続けていたそうだ。




 時間もたったからかだいぶ精神的にも落ち着いてきていたが左腕の損失からくるマイナス的な感情は払拭されることはなかった。一週間の間、いろいろなことを考えた。腕がなくなったと気づいてから2日間はまともに考え事もできなかったが、3日目の朝、ふと前を歩いていた二人はどうなったのだろうと思った。左腕のことでショックを受けていたためなのか、最初に疑問に思うべきことを失念していた。



 食事を運んで来てくれる看護師に聞いてみたのだが、「春樹」のことは突き飛ばした甲斐があって助かったそうなのだが、隣を歩いていた「上原 智」のほうは亡くなったそうだ。看護婦の人に聞くまで「上原」の名前すら憶えていなかった。彼とは一度もしゃべったことはないが彼も助けられたんじゃないかと考えたが、不謹慎なのかもしれない、一人は助けられたのだと思う自分も少なからずいた。




 4日目以降は左腕のこと亡くなった彼のことを繰り返し考えていた。しかし、思案していて自分が嫌いになった。最初こそなくなった彼のことも押せていればと後悔していたが、左腕のことの方を気にしている自分に気づいてしまった。人間なんてそんなものなのかもしれないが、そうはなりたくはないという気持ちがぶつかり合い葛藤していた。衝動であり自分の意志で助けたのかわからない、それでも人を助けた自分に少し誇りを持っていいのではとも考えた。でも結局は自分がかわいいだけなのだと悟った。

 結果に良く表れているのではないだろうかと考えた、自分が助かる余裕があったのなら彼もやはり助けられたのではないかと。意識してしたとは信じたくないが助けたかったのは唯一の友達とも呼べる「改 春樹」だけでもう一人の彼を助けたいとは心の底では思っていなかったのかもしれない。




 左手のことが気になったのは環境によるもののせいでもあったのかもしれないと考えた。考えたくないことから目をそらすように。

 季節は春、花粉症の僕はやたら鼻や目がかゆかった。それにくしゃみをするたび全身に響く。病院なんだからもう少し何とかならないのかと思いつつ、鼻をかもうとするのだが、なにせ片手しかないので上手く鼻をかむことができない。片手がないことは自分の想像以上に不便なものだと気づいた。紙に何か書くにしても抑える手がないとうまく書けないし、病院は暇なので本を読むにしても一人ではページをめくるのすら困難だった。今まで普通にできていたことができなくなったり、難しくなったりしてこれからの人生に不安、恐怖を覚えた。




 確かに不安を覚えるに足ることではあるが、人の命と比べたら誰もが命というだろうし僕もそう答えたい。命が助かっただけ儲けものだろう。それにもかかわらず、腕ばかりを気にして環境のせいにしている自分が腹立たしかった。今はそれよりも嘆くべきものがあるはずだからだ。一週間こんなことを繰り返し考え、どこか正当性を求めていた。またそのことで悩むというようにどうしようもないことなのかもしれないが考え続けているのであった。














 「???」

気が付くと病院らしき場所で横になっていた。

 僕は[改 春樹]意識ははっきりしているようだった。

そもそもなぜ自分はこんな所で寝ていたのだろうか・・・・・・

 「・・・・・・」

そうだ、友達と話に夢中になっていてそれで横から車が来たことは覚えている。やはり跳ねられてしまったと考える線が当たっているだろう。

 それにしては体は動くし、車にはねられた割に言うほどの痛みは感じない。

 「いててて・・・」

 腰を中心にあちこち少し痛いが目立った外傷は両足の包帯だけのようであった。

まあ、動ける範囲だな、この調子ならあいつも無事かな。

周りを見るとデジタル時計があったので目を細めて見ると4月13日だった。約1日寝ていたようだ。

 1日何もお腹に通していなかったのでかなりお腹がすいていた。

その日の夕食時になると看護婦らしき人が病室の戸を開けて入ってきた。看護婦の女性は微笑みながら僕に話しかけてきた。「目を覚まされたのですね。元気になって何よりです。」と僕に言ってきた。

僕は起きた時からの空腹感があったので起きて早々に食事を頼んだ。

 


 しばらくするとさっきの看護婦の女性が戸を開け入ってきた。

お腹はすいていたので自分の経緯を聞くことは後回しにして早速食事を食べることにした。

病院食なので味は薄目であったが、なにせ昨日の事故後からろくにお腹にものを入れていなかったのだ、とてもおいしくいただくことができた。

「いただきます言ってなかったな、ごちそうさまでした」

 看護婦の女性は「おさげ致しますね」と一声発し病室を後にし用としていた。

様子見も兼ねてか僕が食べ終わるまで看護婦さんはそばにいてくれた。


 僕は聞きたいことがあったので「あの!」と声をかけた。

「はい、なんでしょうか?」


「あいつはどうしてますか?」


「・・・・・・」


「・・・え?」


「・・・大変申し上げにくいのですが 上原 智くんはお亡くなりになられました」


「・・・え?・・・・・・うそ・・・ではないんですよね・・・・・・。」


「・・・ええ」


「そう・・でしたか・・・・・・」


 僕はそう言いつつ涙を流していた。

 会って一週間と経っていない友達だったがどうしようもない悲しみがこみあげてきた。

その日は泣き続け疲れて寝るまでそうしていた。



 次の日、起きた時熱っぽさを感じつつも目を覚ました。昨日聞いたことは今でも信じたくはないが、幾分か気分を落ち着かせることはできた。そうか本当に死んでしまったのか・・・。

 これが悪い夢じゃないかとも疑ったが事実が変わることはなかった。昨日は泣き疲れるまでずっと泣いていたため鼻が詰まり体の痛みとも一緒になってすごくだるかった。時計を見るともう8時を回っていた。 

 


 少しすると、昨日と同じ看護婦の女性が僕の病室に食事をもって入ってきた。「大丈夫でしょうか」と困ったような申し訳なさそうな顔で訊ねてきた。「大・・・丈夫です」と言ったあと「一人になりたいので食事が終わったらしばらく入ってこないでくれませんか?」と少し強い口調で言ってしまった。看護婦の女性のせいであいつが死んだわけではないなんて分かってはいても人に感情をぶつけなければ耐えられなかった。看護婦の女性は「はい」と言い、僕が朝ご飯を食べ終えると静かに出て行った。朝ご飯の味は最悪だった。きっと本来の味はまずくはないだろうが、今日はまずく感じた。病室の毛布をかぶりその日は食事以外の時間そうして過ごした。













 あの事故から3週間が過ぎた。意識を取り戻してからは18日目だ。

今日は事故後、初めて「改 春樹」と会った。

彼は元気そうに振りまいていたが、僕からは他人に等しかった「上原」の死は大きく心をえぐっていたのだろう、傍から見てもそう感じさせる独特な雰囲気を出していた。彼は僕に比べれば軽傷だったため、一足先に退院をするそうだ。


 今日会いに来てくれたのは、退院前に助けてくれたお礼を言うためだそうだ。一緒に彼の家族と亡くなった「上原」の遺族が来ていた。

 彼とその家族は僕にお礼を言ったが、それはどこか作った表情をうかがえるものだった。

助けた甲斐があったと思うと同時に、どう返答すればいいのかという息苦しさに襲われた。

少なくとも僕は彼の友達を救えなかった。ここで素直に「どういたしまして」や「助けられてよかった」といっていいものだろうかと思ったからだ。その時、僕は沈黙してしまった。そして空気の重圧に耐えかねてか、「上原」の母親が僕にお礼を言ったきた。助けようしてくれた行動に対しての気持ちで言ってくれた。

うれしさと同時にまた大きな釘が刺さったような気持ちに苛まれた。。衝動的だったとしても僕はあの時助けるほうを選んでいたと思う。その罪悪感に耐えかねてこのタイミングで言わなければいいのに僕は言ってしまった。


 「僕はあの時恐らく助けるほうを無自覚に選んでいました。僕にとって「上原」は他人に等しかった。だからそのお礼の言葉を向けられるような立場にありません。すみませんでした。おまけにこの3週間僕はずっと失くした腕の子ばかり考え、「上原」のことから離れ楽になろうと努めていました。責任から逃れたいがためにです。謝ったところで何も帰って来ません本当にすみませんでした。」


 いろいろな感情が渦巻きすべてを吐き出した。どうしようもなくいやな気分だった。ただこうでも言わないともっと罪悪感が生まれるやうな気がした。だから言った。


次の瞬間左の頬に強い痛みがはしり顔が右をむいた。向き直ると「改 春樹」が悲しいようなおこっているような悲痛な表情で顔を真っ赤にして睨んでいた。


 「きみは・・・君はそんなことを考えていたのか・・・人間として・・・・・」


 今度は彼は右の頬を殴り病室の戸を乱暴に開けて出て行った。それを追うように「上原」の遺族もこちらを睨んだ後出ていき、「改 春樹」の家族がおろおろとして僕のほうを複雑そうに眺め、彼らもついに出て行った。病室にはどうしていいか分からなくなった看護師と僕が残った。




 

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