魔王様がいく!!
田中朝子は異世界トリッパーである。とはいえ、召喚されたわけでも、前世持ちというわけでも、気が付いたら異世界(ある意味これが一番近い)というわけでもなかった。なぜならば、彼女を異世界に送り込んだのは、送り込まれた先の魔王様だったからだ。地球に転生した元魔王様の体を探す旅に出るお話。
目の前に迫る牙。理性を失った赤い目。
「アサコーっ!!!危ない!!!」
「逃げろー!」
仲間達の声は届くが、おそらく彼らの援護は間に合わないだろう。逃げようにも今の体勢では逃げることも迎え撃つことも、防御も間に合わない。朝子は覚悟を決めて目を閉じた。
アサコ・タナカ・メルトウェルズは異世界トリッパーである。本名を田中朝子。メルトウェルズはこのノーザンリースという世界で朝子を庇護下に置くために彼女を養子とした、シュナーザ・メルトウェルズ伯爵の家名である。
なぜ朝子がこんな異世界に来てしまったのか。それは魔法が使われるこの世界に召喚されたとか、実は勇者でしたとか、前世はこの世界の人間でしたとか、そういうことは一切なかった。朝子はれっきとした地球生まれ日本育ち。前世も魂も関係なく、ただちょっとした不運のために地球から異世界に送り込まれてしまったのだ。
田中朝子はちょっと疫病神属性の、ただの女子高生だった。幼い頃からトラブルメーカーというか、どうにも周りの人間を不幸にするようにしかみえないことが起きていた。おかげで両親とは死別。住むところもとうとう失い、バイトもクビになり、高校にも通えるかどうか危ういほど追いつめられていた。現代の女子高生がこんな路地裏で段ボールにくるまれているってどうよ……とか考えていたその時、その人は彼女の目の前に現れた。
「おいお前、オレが拾ってやろうか?」
そんな犬猫を拾うように言わなくても。とか、なんか男前ですね。とかいろいろ思うことはあったが、朝子はその手を取ってしまったのだ。同じ高校の制服を着た、同級生の【少女】の手を。
超高級車に乗せられて、あっという間に連れて行かれたのは、拾い主である少女の自宅。超高級高層マンションだった。ドラマでみたような黒服の人がドアを開けると、朝子はおずおずと降り立った。反対側からさっさと降りた少女は朝子の手をとるとすたすたとマンションに入り、迷うことなく最上階のボタンを押し、あれよあれよという間に2706と書かれた番号のかかる部屋に入れられ、玄関を超えてリビングのソファにぽすんと押されて座らされた。
「……」
「……」
しばらく無言でみつめある。朝子にしてみれば気になることはたくさんあった。めちゃくちゃ広いこの部屋とか、窓の外の景色綺麗ですねとか、ちょっとした現実逃避でもあったが。しかし少女は朝子から目を逸らさなかった。いや、じっくりと上から下まで品定めのような視線はある。
「……あの」
「……」
「……同じクラスの西園寺桜子さん……ですよね」
「……一応な」
「一応?」
西園寺桜子。名前からしてお金持ちそうな名前だが、実際にお金持ちのご令嬢であった。明るく柔らかそうにウェーブした髪と、ぱっちり大きな目。形の良い唇。誰もが思う、美少女である。なぜしがない公立高校に通っているのかわからないほどの名門の家のお嬢様。学校では知らぬ者がいない人物が目の前にいることに、朝子は非常に混乱していた。
桜子はするりと背を向けて、キッチンに入る。そして温かい煎茶を朝子の前に置いた。朝子はチラチラと桜子を窺いながら、いただきますと煎茶に口をつける。ひさしぶりのお茶の味だ。冷えた体に染み渡る。それをみて、桜子は暖房のスイッチを入れた。
「いくつか確認したいことがある」
「は、はい」
「お前、天涯孤独の身の上だな?」
「えっと、はい」
「つまり、お前になにかあっても気にする人間はほとんどいないってことだな?」
「そう……ですね」
そんな聞き方あるのか?というほど率直な物言いだった。
「病気を持っているとか、精神に異常を持っているとか、そういったことはないか?」
「野宿で何日か生活できるほど健康体です」
「ふん。まあ一応健康診断はさせておくか」
声まで美しく、可愛らしい。可愛いと美しいを両方兼ね備えた声ってなんだろう。朝子は耳が喜ぶのを感じながら、桜子をみつめる。学校での桜子はめったに話さない、おしとやかな生徒だった。たまに話しても一人称は私。いつも穏やかに笑っているような人だったはずだ。だが目の前の桜子は、その桃色の唇からは似合わないオレ、という一人称をつかい、目は睨むように細められて勇ましい。
ふと、クラスの女子が話していたマンガの話が蘇る。
「あの……もしかして西園寺さん、実は男だったりとか?」
由緒正しいお家にはいろんな変わったしきたりがあることもあるという。もしや桜子もそういった事情で女装しているのかと、半ばありえないと思いながら朝子は尋ねた。
「はぁ?オレはれっきとした女だ。今は、な」
そう言って桜子はセーラー服をまくりあげた。
「え、ええ?!すみません。ごめんなさい!」
しっかりとした胸の膨らみをみて朝子は目を背ける。いくら同性とはいえ、その行為は男前すぎる。
「さてと、まあわからないことは多いと思うが、話さなきゃなんにも進まないからな。おい、しっかり聞けよ、田中朝子」
「は、はい……」
「オレの前世は魔王。ノーザンリースという地球とは異なる世界で死に掛け、この世界に転生してきた」
「…………は?」
朝子の脳内には、中二病という単語がぐるぐるとまわっていた。桜子はそれを見て取って、ちっと舌打ちする。
「マンガやアニメといったサブカルどもが発展しすぎるのも考え物だな。イメージはさせやすいが、信用させるにも頭がわいてると思われる」
いやいや、発展していなくても頭がわいていると思われそうだということは、朝子は口に出さないでおいた。
桜子はふかふかの朝子の反対側のソファーに座り、足を組む。
「まあ、貴重な魔力だが仕方ないな」
そう言って桜子は掌を掲げると、そこに光る玉が現れる。それをひょいっと朝子に投げた。
「え、え?!」
それを受け取った朝子はそれが、科学によるものではないと知った。温かみのあるその玉は電球でも、機械による光源でもない。しかも微妙に浮いている。
「そのまま手から離してみろ」
朝子が言うとおりにすると、その玉で宙に浮き続けた。桜子が指を振ると、くるくると動き出す。そして指を止めると宙に静止した。上から吊るような紐もない。朝子がおそるおそるその玉を手で持ち、押しつぶすとぐりゃりと潰れるが、手を離すと元に戻る。
「これは……?」
「魔法だ。本物のな。この世界とは少し法則が違うが、まあそんなことはどうでもいい」
桜子が手をおろすと、その光の球は弾けて消えた。まるでシャボン玉のようだ。
「まだ半信半疑か。まあ良い。いきなり親しくもない人間からの言葉を信用しろと言われても困るだろうからな。だが話は聞いてもらう。ここからが本題だ。しっかりと聴け。さっきオレは死に掛けたと言ったな?」
「はい」
「言葉通りだ。ノーザンリースで俺は死に掛けた。体を七つに裂かれ、それぞれ封じられた。オレを殺そうとした奴は、あとはオレの魂を消すだけだった。だがただ消されるのも癪でな。体は完全に死んではいないが、魂だけでそいつの手が届かない転生の輪に入ってやった。それでオレの魂は生き延び、こうして地球の日本の西園寺桜子として生まれたんだ」
「輪廻転生って奴ですか」
「そうだ。よく聞く話そのままだからわかりやすいだろう?」
桜子はにやりと笑うと髪を払う。
「逃げたのは確かだが、やられっぱなしってのは癪だ。だからオレはノーザンリースに帰り、自分の体を取り戻したい。ところが、だ。今オレの体は地球のモノ。ノーザンリースの魔力を生み出すようにはできていない。今のオレは魂だけで魔力を生み出している。さすがのオレの魂だからな、普通ならすぐに帰れるほどの魔力を生み出しているんだが」
「だが?」
「オレの魂が強すぎて、オレが入れるほどの時空の裂け目を作るほどの魔力を作るにはあと50年かかる」
「50年?!」
「脆弱な人間の体だからな。50年経つ前に死ぬかもしれない。そこでだ」
桜子はびしりと朝子に指差した。
「お前、先に行ってオレの体を集めてこい」
「…………。…………は?」
「一つでも封印を解くことができれば、オレと元の体が繋がり、一気に魔力を生み出すことができる。そうなればオレは帰れるという寸法だ。オレ自身が異界に渡れないだけで、お前程度ならそれほど魔力を使わずに送ることもできるしな」
「…………」
どうだ、いい考えだろう、とでも言うように桜子はドヤ顔しているが、朝子はげんなりとした。そりゃ桜子は良いだろうが、いきなり異世界に送り込まれて封じられた魔王の体を探せなんて頼まれて、はいそうですかと簡単に了承できるもんでもない。
「お前の力が必要なんだ」
お断りします、と言いかけて、桜子のその言葉に朝子は口を噤んだ。人生の中であなたの力が必要だ、と言われることなんて、何回あることだろうか。疫病神と言われ、自分によくしてくれた人達まで不幸が及んできた人生の中で、これから何度必要だと言ってもらえるだろうか。たぶん、今のままならこれ一回きりではないかと、朝子は思った。だったら、その一回に精一杯応えるのもいいのかもしれない。
「……わかり……ました」
「よし!じゃあ、田中朝子」
そのあとすぐにノーザンリースに送られたわけではない。いろいろと準備があるとかで、それから1年間朝子は桜子の元で世話になる。朝子が傍にいることで、西園寺家の会社が潰れかけたり、地震に見舞われたり、雷が落ちてマンションが焼けたり、そのた細々した不幸が襲ってきたが、それら全てを桜子は跳ね返してきた。決して朝子を追いださず、わかりにくいがずっと庇い続けた。
家もなく、お金もなく、行くところもない朝子が受けた恩は計り知れず、朝子は絶対桜子の体を取り戻してみせる、と密かに心を決めていたほどだった。ただしその分いろいろこき使われもしたが。それでも朝子には異世界に行って過酷な運命に立ち向かう覚悟をするには十分な1年だった。
ただし、異世界に送る作業はそれはもう乱暴だった。まず事前連絡はなく、ちょうどトイレに行こうとしたときであり、しかもそばに桜子がいたわけでもない。まったくの無防備な瞬間に、転送は行われた。
そして朝子はこの異世界に来てしまったのだ。この、ノーザンリースに。
ノーザンリースは剣と魔法がある、まさにファンタジーな世界であった。のちに養父となる、剣の訓練中であったシュナーザ・メルトウェルズの上に落ちた朝子は混乱の極みの中、とにかくトイレを探し求めた。そのときの必死な形相はのちに仲間となるその場にいた騎士達の語り草になるのだが、それはまた別の話。
ノーザンリースには主に9つの国が存在し、そのうちの1つであるリトアイセン国の国境砦に落ちた朝子は、まず砦の牢屋からこの世界の生活を始めた。登場の仕方や服装や言動をみて怪しまれたわけだが、異世界の人間としてはそれも当然の行動だったのだろう。やがて魔物討伐部隊に混ざるようになり、なんやかんやと魔法と剣を駆使して生き延び、はや10年。魔物討伐の遠征に乗じて魔王の体を探すものの未だ見つからず、結婚もせずにアラサ―を迎えてしまう悲劇に見舞われながらも、桜子への恩を忘れずにいた。
そろそろ別の国に行って探す方がいいのかという考えも過り始めたころ、国境付近で魔物が狂暴化する事件が多発する。その討伐に訪れた朝子は、これまでの経験を踏まえても、とにかく異質な魔物達に苦戦していた。
この世界の魔物はとにかく群れない。同族でなければ互いを食い殺し、そもそも同じ種がたくさんいる魔物のほうが少ないほどだ。だが、今回狂暴化した魔物はとにかく種類が雑多で、しかも統率のとれた動きをしていた。仲間達も初めての経験に苦戦しながらも、街に魔物を近づけるわけにはいかないと、奮戦していたときの出来事である。
数多くいる魔物の中で、一際大きな魔物いた。その魔物だけは朝子にとって、以前に遭遇したことのある、因縁の相手。ぐにゃぐにゃとした体の中に、牙のある口が大きく開かれる。
「アサコーっ!!!危ない!!!」
「逃げろー!」
仲間達の声は届くが、おそらく彼らの援護は間に合わないだろう。逃げようにも今の体勢では逃げることも迎え撃つことも、防御も間に合わない。朝子は覚悟を決めて目を閉じた。
そのとき、ドゴーン!!という音が響き、風が駆け抜ける。朝子がおそるおそる目を開けると、彼女の目の前には、懐かしい後ろ姿があった。
「魔王様!」
「ずいぶんと時間がかかったな、朝子」
「え、でもどうして?私まだ魔王様の体みつけてませんよ?」
「……」
セーラー服を着た華奢な美少女が、片手に炎の玉を浮かべながらぐるりと周りを見回す。朝子も周囲を確認すると、仲間達や仲間と戦っていた魔物達が倒れていた。しかしそのさらに周りの魔物達は大量に存在する。それらが倒れた人間に喰いかかろうとしたとき、桜子の火の玉それらを燃やし尽くす。
すると桜子は凄絶な笑みを浮かべた。久しぶりにみたものだが、朝子にはわかる。桜子はものすごく怒っている。
「こいつら、オレの体を喰ったな」
「え?!」
朝子は驚きの声を上げた。
「もともとない理性が更にない魔物。オレの体を喰って力を増したんだろうよ」
「え、でも封印されてたんですよね?」
「オレの体はランダムで定期的にこの世界の封じられる場所を移動している。たまたまこいつらがいるところにオレの体が現れて喰ったんだろうさ。封じられているとはいえ、魔王の体だ。力は増す。そして今はお前がちかづいたことで封印がとかれているしな」
「あ、そうですよ!封印解けって言ったのに、解き方教えないまま送られて、私怒ってるんですからね!」
「はぁ?お前が近づいただけで解ける。そのために、1年かけてじっくりオレの力にお前の体を馴染ませたんだからな」
「え!それこそ聞いてないですよ!」
「言ってないからな」
桜子はにやりと笑うと、近くに倒れていた仲間の手から剣をとる。
「オレの体、返してもらうぞ」
そういうと、桜子の背後で丸い闇が広がった。そしてそこに、周辺にいた夥しい数の魔物の体から、小さな黒い塊がびゅんびゅんと闇に吸い込まれていく。そのたびに、桜子の体が脈打った。そして徐々に、背と手足が伸び、顔つきと肌の色が変わり、最終的には黒い衣装をまとう美青年がそこに立つ。だが、笑みを浮かべるその表情は、朝子にとって見慣れたものだった。
「ふん。オレの体とはいえ7分の1だとこんなものか。まあ、この雑魚どもには十分だがな」
そこから起こったのは、ただの魔王の遊びだった。楽しそうに魔法で蹴散らし、剣で薙ぎ、足で蹂躙する。ありがたいことに、仲間達には気を遣ってくれているようで、被害はおよんでいない。その間に仲間達の息を確かめると、全員気を失っているだけのようで安堵する。
そのとき背後から殺気が膨れ上がり、朝子は咄嗟に斧を振り返り様振り下ろした。先ほどのどろりとした、赤く濁る窪んだ目をもつ魔物が身をひく。そこにすばやく身をかがめた魔王が滑り入り、吹き飛ばした。
「強くなったじゃないか、朝子」
「そりゃ、10年も経ちますからね」
「ときに朝子。その髪と目、どうした?」
「これは……染めました」
朝子の髪は黒髪から緑色に、目は赤色に変化していた。
「オレに嘘はきかねーぞ。おまえ、なにか混じってんな?」
朝子はびくりと肩を震わせる。まだこの世界に来たばかりのころ、魔物の呪いにかかり、キメラと同じ体になった。一応見た目は人間の形を保っているが、内臓や肌、目や髪の一部は魔物のものになってしまった。おかげで力や生命力は増したが、人間が通常持たない内臓も腹の中にあるらしく、そこがなにか異常を示せば治療法がわからないために迂闊に手をほどこせないとも言われたことがある。
要するに、純粋な人間ではなくなってしまった。キメラ混じりという存在だ。
「それ、アイツか」
どうして魔王にはわかってしまうのか。先ほどから執拗に朝子を狙う魔物。それが朝子に呪いをかけた魔物である。魔王は目を眇めた。いつの間にか他の魔物は全て倒れている。
「オレの体もコイツだけ返してねぇな。朝子に関わったことで、オレの魔力に馴染んだってところか?」
魔王は剣をかざし、全身に力を込める。
「光栄に思えよ、このオレが少し本気を出してやるんだからよ」
魔物はどろりと体を解けさせ、地面に染み込んでいく。
「魔王様!下から来ますよ!」
「わーってるよ」
魔王は傷だらけの朝子を抱き寄せた。
「この地に散らばる血の亡者ども。魔王クルス・ドラクロワの名のもとに命ずる。従え、カスども!」
その場に倒れていた魔物の血という血、崩れた肉という肉、裂けた骨という骨が浮かび上がり、禍々しい赤黒い光に包まれる。
「恨みがあるならそいつを喰らえ。イグシリアーデスガーター(怨嗟の災禍)!」
その光が地面に吸い込まれた瞬間、その場所が抉れていく。土が消え、岩が消え、そして魔王の足元に迫っていた魔物を、他の魔物の頭蓋骨が食い荒らしていく。とにかく、血に慣れた朝子にとっても吐きそうになる光景だった。
最後に残ったのは、一歩先から抉れた深いクレーターと倒れ伏した仲間達だけだった。血の跡らは綺麗に消え去り、あんなにグロテスクな光景が広がっていたとは考えられない澄んだ空気が漂う。
最後の魔物から出てきた黒い影は魔王に吸い込まれ、そしてしゅんっと魔王は桜子の姿に戻った。
朝子はその姿をみて、ぷるぷると肩を震わせる。
「なっんで魔王様はそんな若い姿なんですか!私なんてもう、アラサ―ですよアラサー!」
「仕方ないだろ。童顔なうえに身長が156cmから延びなかったんだから」
「え、もしかして魔王様もアラサーなんですか?」
「ちゃんと等しく時間が流れているからな」
「じゃあなんでセーラー服着てるんですか!」
「似合うから良いだろう?それにセーラー服って萌えるだろうが。男どもにはたまらんだろ、ん?」
そういって妖艶さとあどけなさという対極なものをどういうわけか漂わせた桜子はしゅるっとリボンをほどいて朝子に顔を近づける。胸元が少しみえるチラリズム。ついでに薄桃色に色ずいた白い肌からは甘い香りがする。
「ちょっと、私を誘惑しないでくださいよ!やるなら男性の前でやってください!」
「オレが男にやったら気持ち悪いだろうが!オレは男には興味ねーよ!」
「魔王様、性別の観念がごちゃごちゃになってます」
「……」
「……」
桜子はリボンを結び直し、かすり傷だらけの朝子のほおを撫でる。
「長い間世話かけたな」
「なにいってるんですか。体はあと6つもあるんですよ?まだまだこれからです」
そう言って笑う朝子に目を見開くと、桜子はにやりと笑った。
「そうか。それは楽しみだな」
「というか、7つ集めるってなんだかあれみたいですね。集めたら願いがかなうやつ」
「さすがにそんな効果はオレの体にはねーよ」
「なんだーつまらない。願いが叶うなら、体を元に戻してもらおうと思ったのに」
「……。戻そうと思えば戻せるぞ?お前の体にはオレの魔力を馴染ませてあるからな。なにせ魔王の魔力だ呪いの耐性はぴか一だぞ」
「え?!そんな、今までの私の苦悩は?というかどうやって!」
「…………ふむ」
桜子は一瞬考えると、わたわたとする朝子のあごを掴みさげ、唇を合わせた。
「!?……っふ。はぅっ……?!」
2度ほど啄まれた口元を覆い、ぺろりと唇を舐める桜子を驚愕して朝子はみつめる。
「お前、オレの魔力コントロールできてないみたいだったからな。やっといてやった」
はっとして髪をみると、黒に戻っている。
「呪いは、解けた……?」
「あー、解けた解けた。あとついでに、もし体を全部みつけられたら、オレができるかぎりのことで、お前の願いなにか叶えてやるよ」
風に吹かれてなびく髪と、太陽の光が絶妙な位置で。10年会える日を待ち続けた人が目の前にいることを噛みしめながら、朝子は頷いた。
「それじゃあ願い、考えておきます!」
2人の旅はまだまだこれからだった。
これ、なんていう小説なんでしょうね。ある意味ガールズラブなのか?いや、でも中身は……。非常に悩む作品です。
ここまで読んでいただきありがとうございました!