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城塞都市ラザロス

 

「あそこがラザロスになりやす」


 随分と三下の口調が板についてきた奴隷商人たちに道案内をさせて、俺はラザロスという名の都市が見える位置に到着した。

 道中で俺に対して舐めた口を利いてくることが多々あったので、躾をしていたら思ったよりも時間がかかってしまったが、ひとまずは無事に到着したので何よりといったところだろう。


「思ったよりも大きいな」


 見た所、四方を外壁に囲まれた都市で、中央にはそれなりの大きさの城が見える。

 都市の大きさと人口が必ずしも比例するわけではないが人口は十万近くといったところだろう。

 文明レベルから考えれば相当な規模の都市だ。


「へい、ラザロスはウォーレリア王国の北にある魔王領との戦における補給の拠点としての役割を期待されているとか、役人どもが自慢げに語っていやした」


 魔王領ねぇ。

 また新しい言葉が出てきたが、現状では俺にとって必要な情報ではないな。

 ただまぁ、俺が今いるらしい国のウォーレリアと魔王領が敵対関係であることくらいは意識しておいてもいいかもしれないな。


「俺達にゃ、戦のことは分かりやしませんが、とにかく人や物が集まってくるんで商売しやすい場所でさぁ」


 それは良いな。俺の求めている情報が手に入るかもしれない。

 さっさと案内してもらいたいものだが、若干気になることがある。


「市内に入るのに通行証はいるのか?」


 こういう都市は市内に入るのに制限を付けている場合もあるからな。

 素性の明らかでないものを市内に入れて問題でも起こされたらたまらないだろうから、予防のためには必要ではあるので、文句を言う気は無いが面倒くさいのは困るな。


「それに関しては俺たちに任せてもらえりゃ、何とでもなりやす。えーと、神様は大船に乗った気でいてもらえりゃ――」


「カズキ・リョウだ。俺を呼ぶ時はその名前で呼べ。名が分からないと不便だろう?」


「へへ、こりゃあ、すいません。名前を知らなきゃ口裏合わせもままならないで、教えてもらえると助かりやす」


 大船に乗ったつもりでいてくれとは言うが、こいつらが裏切る可能性もある。だがまぁ、そんなことを気にしても仕方がないし、裏切ったところで困りはしないので放っていても良いだろう。


 そうして、俺は奴隷商人たちの後についていきラザロスの市内へと入っていく門の前に辿り着く。

 門の前には市内に入る者を吟味するように門番が立ちはだかっているが、問題は無さそうだ。


「ちょっと話をつけてきやす」


 奴隷商人は一人、門番に近づいていく。

 俺のそばには奴の仲間が残っている。話を聞いたところ、こいつらは護衛だそうだが、それにしては腕の方はたいしたことがない。俺の気分が乗っていれば鍛え直しても良かったのだが、こいつらには悪いが気分が乗っていないので、そういうことをしてやるつもりはない。


「問題ないようなんですがね。どうにも、あの門番は物入りのようでカズキの旦那にちょっとお願いしたいことが――」


 奴隷商人は戻ってくるなり、遠回しに金を無心してきた。なるほど、袖の下を渡して門を通してもらうという手筈か。

 別に金でなくても良いんだろうが、少し試したいこともあるので、金にしておこう。


「この国の貨幣は持っているか? 心配するな、お前らの金を使うわけじゃない」


 俺はそう言って、奴隷商人たちから貨幣を受け取る。

 受け取った貨幣は金貨、銀貨、銅貨を一枚ずつ。それらを俺は手に取り、眺める。

 特別な仕掛けなどは何もなく鋳造の貨幣だ。魔力なんかを付与してあるものだと多少は面倒だったが、これならば問題はない。


「何倍にして返して欲しい?」


 俺はからかうように奴隷商人たちに尋ねる。

 俺の問いの意味が分からないのか、キョトンとしていて答えが返ってこないので俺は勝手に決めることにする。


「そうだな、十倍にしてやろうか」


 俺は受け取った貨幣と同じ物を作りだし、手の上に出現させる。

 金貨が十枚、銀貨が十枚、銅貨が十枚。受け取った十倍の数の貨幣が俺の手の中に溢れる。


「いや、え、は?」


「成分の含有率も完全に一致するのでバレる心配もない。それを渡してこい」


 この世界の貨幣価値に俺は興味がないので、贋金をどれだけ流通させても抵抗はない。

 俺は金を手渡して奴隷商人を門番の元に送り、成り行きを見守る。すると、俺たちの市内への通行はすぐに許可された。

 金の力はそれが有効な奴にはとてつもない効力を発揮するのだから、当然と言えば当然だ。


「旦那とはこれからも仲良くしたいもんだぜ」


 門を通る中、俺の隣を歩く奴隷商人は馴れ馴れしく話しかけてくる。


「それは、そちらの心がけ次第だな」


 真面目に人生を生きていくなら仲良くしてやってもいいが、そうでないなら付き合いはこれっきりだ。

 そんなことを考えながら歩いている内に、俺たちは門を抜け、市内へと出る。


「ようこそラザロスへ、神様」


 俺の視界に広がるのは雑然とした活気ある街並みだった。

 石畳の道路にレンガ積みの家、少し辺りを見回せば屋台や店が立ち並んでいる。

 人々の顔に暗さはなく、皆が一様に日常を精一杯に生活しているのが分かる。


「なるほど、中々いい所だ」


 まさしくファンタジーの世界といった具合に華やかだ。


「でしょう? 俺は王国中を旅していたが、ここほど活気のある所はそうはない」


 そうだろうな。なにせ、この街はファンタジー・・・・・・なのだから、活気も出るだろう。

 まぁ、俺にとって困るようなものではないので別に構わないし、ここに生きている人間にとっても困るようなものではないので問題はないだろう。


「この都市で人や情報が集まる所はどこだ?」


 良い街ではあるが長居しようという気も起きないので、俺は速やかに用事を済ませようと奴隷商人に尋ねる。

 必要な情報はこの世界の神についてだが、それを知っているような奴はどこにいるのやら。


「人や情報なら冒険者ギルドがありやすぜ。あそこで冒険者として登録すれば、通行証の代わりにもなるギルドカードって奴を貰えますし」


 冒険者ギルドか。

 まぁ、なんというか本当になんというかだな。

 別にあっても良いが。しかしなぁ……。


「どうかしやしたか?」


「いや、なんでもない。場所を教えてくれるか?」


「へい、でしたら、俺たちが今いる通りを真っ直ぐ進んで、一番最初に見える一番大きな建物でやす」


 ふむ、都市の入り口から真っ直ぐ伸びる大通りに面した建物か。

 随分と儲かるんだな、この世界の冒険者というのは。まぁ、何処の世界も儲かると言えば儲かるが。


「俺たちは事務所に戻らにゃならんので旦那とは一旦お別れですが、用事が済んだ頃にお迎えにあがりやす」


 随分と子分ぶりが板についてきたが、使いやすい人材がいるのは有り難いことだ。


「俺の名はゴラン。奴隷商人ゴランと言えば、ラザロスでもそれなりには名が知れてるんで、街の奴に聞けば俺の事務所には辿り着けると思うんで、何かあったら来てくださいや。歓迎しやすぜ」


「後で寄らせてもらおう」


 俺はそう言ってゴランと名乗った奴隷商人と別れ、冒険者ギルドへ向かうことにした。

 どうせ、ろくでもないことが待っているだろうが、だからといって向かわないわけにもいかない。

 おそらくは、この選択が正解である以上は向かう他ないからだ。まぁ、冒険者ギルドに着いた後は俺の好きにさせてもらうので面白くはなくとも我慢は出来るだろう。

 願わくば、何か刺激的なことが起こって欲しいものだ。そうすれば多少は気が紛れるだろう。










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