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下僕を作る

 

 俺はエルフたちと別れたが、だからといってすぐにラザロスという都市に向かうわけじゃない。先に向かうべき場所がある。

 俺が向かう先は、エルフの姉妹を捕らえようとした奴隷商人たちを殺した場所だ。


 俺がその場所に戻ると、この場から離れた時と変わりなく奴隷商たちの死体が草原に横たわっていた。

 さほど時間が経っていないこともあって奴隷商たちの死体に損傷はない。

 これならば、エルフたちを生き返らせるよりは楽だろう。


 俺は『ソーマ』の術式を発動し、命の水を生み出すと死体となった奴隷商人たちの口に流し込む。これで肉体は生命活動を回復するだろう。そうして生命活動を回復した肉体に対し、辺りに漂う死者の魂を押し込む。

 これで奴隷商人たちも生き返るだろう。

 別に殺したままにしておくほどの恨みはこいつらにはない。あのエルフの姉妹を追いかけていたのだって、それが仕事なのだから仕方ないだろう。

 ただまぁ、こいつらの振る舞いに品性が欠けていたのは気に入らないんだがな。


「……一体、なにがあった……?」


 奴隷商人が目を覚ました。

 状況が分からずに周囲を見回している。つい先ほどまで死んでいたんだから困惑すのも無理はないだろう。

 奴隷商人が目を覚ますと、その護衛達も次々に起き上がり周囲を見回す。

 そして俺の存在に気づく。


「テメェ……!」


 何が起きたかは分からずとも、死ぬ直前にみた俺の姿は憶えていたようだ。

 奴隷商人たちは殺気を隠さず、俺に向けてきている。


「まぁ、落ち着けよ」


「テメェ、俺たちに何をしやがった! あのこ娘どもはどこだ! どこに隠しやがった!」


 随分と興奮しているようなので、俺は『ラーフ』の術で護衛の頭を闇に喰わせて消滅させる。

 何が起きたか分からないまま、仲間の一人が首からを上を失い崩れ落ちるのを目の当たりにして、奴隷商人たちは自体が呑みこめずに硬直する。


「落ち着けよ」


 俺がやったと察したのか、奴隷商人たちは一様に怯えた眼差しを俺に向けてくる。


「て、テメェ、何もんだ?」


「何者と尋ねられてもな、名はカズキ・リョウ。職業は……神様だと言ったら信じるか?」


 別に隠す必要はないので名乗る。

 俺が神だと知られて、この世界の六色むしきの神とやらが動き出してくれば、それはそれで好都合だ。


「ふ、ふざけんな! 俺達を馬鹿にしてるのか!」


 俺は護衛のもう一人の頭も『ラーフ』の術によって生まれた闇に喰わせた。


「俺が神であるという前提で話をしたいんだがな」


 俺は殺した二人を元通りにして生き返らせる。

 これで俺が神かそれに準ずる存在だと理解してもらえただろう。

 もっとも理解ができたせいで怯えてしまったようだが。


「お、俺たちが何をしたって言うんだ! 俺たちは何もやってねぇ! ただエルフの奴隷を捕まえようとしただけだ! 裁きを下すっていうならもっとひでぇことをやってる奴がいるだろうが!」


 ああ、そのことか。

 俺を哀れなエルフを助けに来たとでも思っているなら大きな勘違いだな。


「俺がお前らを裁く? エルフを虐げていたというだけで? そんな下らないことをする気は無いさ。俺はただ、お前らから話を聞きたいだけだ」


「だったら、何で俺達を……こ、殺したんだよ……」


「ああ、それは躾だ。お前らのエルフへの振る舞いが粗暴に過ぎたから反省を促したというだけだ」


「やっぱりエルフの味方じゃねぇか!」


「違う違う。俺にとってはエルフの生き死にはどうでもいいが、お前らの生き方はどうでもいいことではないということだ」


 俺は、こちらの真意が読めずに戸惑っている奴隷商人たちに丁寧に説明することにした。


「お前たちだって、子供が犬や猫の小動物を虐めていたら咎めるだろう? 俺にとってはお前たちがエルフにしていた振る舞いがそれと同じだ。お前たちは子供でエルフが犬や猫。お前たちの方が強いのだから、殊更に痛めつけるような真似はせずに、強者として余裕を持って振る舞って欲しいんだよ、俺はな」


 イマイチ理解できていないようだが、まぁ良いだろう。


「ええと、それはあれか、奴隷を虐めなければ良いのか?」


「まぁ、現状はその認識で良いな。奴隷はどうでもいいが、お前たちの品性に関しては俺はどうでもよくないということだけは理解しておけばいい」


 俺はとりあえず近くの岩に腰かけて話を続けることにした。

 こいつらに対しては好きも嫌いもないので俺はこいつらと会話をする気は無い。一方的に話すだけだ。


「さて、話を戻すとしようか。俺は現状極めて困っている。理由を話したところで理解はできないだろうし、理解してもらう必要もないので、それについては話さないが、お前たちには俺を近くの町まで案内してほしい」


「神でも困るのかよ?」


「そりゃあ、困ることはあるさ。すべてが思い通りになるんだったら、俺が気分よく喋っている最中に、お前になど口を挟ませないからな」


 遠回しに黙ってろと俺は奴隷商人たちに伝える。

 意味が分かったかは判別できないが、黙ってくれたので良しとしよう。


「一応、言っておくが拒否権はあるぞ。俺と関わり合いになりたくないならば、それでも構わないが、手助けをしてくれたのなら見返りくらいは用意してやる」


 話ながら俺は術式を用いて宝石を生み出す。

 術式に用いるエネルギーは何でもいいんだが、とりあえずこの世界の人間と同じ性質の魔力を使うことにする。

 その理由は、この世界で俺の所有している術式を使うなら魔力の方が効率が良さそうというだけだ。


「ダイヤにルビー、サファイアにアメジスト、真珠もターコイズも何でも用意できる。俺の手助けをしてくれたなら、お前らの体重と同じだけの宝石をやるぞ」


 俺の手に現れた宝石を見るなり、奴隷商人たちの目が輝く。

 その輝きは欲に塗れたもので、見る者によっては嫌悪感を催すかもしれないが、俺にはむしろ好ましい。

 欲が無い人間などはつまらないからな。


「じゃ、じゃあ、アンタの案内を――」


 俺は言いかけている奴隷商人の頭にダイヤモンドを投げつけた。


「欲の皮が張っているのは嫌いじゃないが、警戒心が無さすぎるのは気に喰わないな」


 ダイヤが直撃した額を抑えている奴隷商人に俺は言う。


「もう少し怪しむべきだ。まずは俺が出した宝石が本物かどうか確認しろ。あとは本当にくれるのか契約書でも用意しろ。そして俺の言った体重と同じという言葉を気にしろ。そんな量を出せるか疑え、そして自分たちが宝石に変えられるっていう可能性も考慮しろ」


 俺の言ったことが分からずにキョトンとしているようなので、俺は奴隷商人の仲間を魔法で宝石に変える。

 自分のオリジナルの術式ではなく、前にとある世界で見たことがある程度の魔法だが、発動の仕方は何となく覚えており問題なく発動し、その結果、奴隷商人の仲間は宝石の彫像へと姿を変えた。


「こうなっていたかもしれないということは理解するべきだな」


 奴隷商人たちは俺の言っていることを理解したようなので、俺は魔法を解除し姿を戻してやる。

 宝石の像になっていた男は生身の姿になったが、何が起こったのか分からない顔で辺りを見回していた。


「さて、こちらはこれだけ手の内を見せたんだ。お前たちの返答を聞きたいな」


 混乱はしているだろうが、まぁそんなことは俺にとってはどうでもいいことだ。

 俺としては適当な協力者を得られればいいのであって、こいつらである必要は無い。

 なので、どんな答えを出されても俺としては構わない。嫌だと言えば、俺に会った記憶を消して、それで終わりだ。


「悩んでも良いが、時間は無限にあるわけじゃないぞ。それを踏まえたうえで速やかに判断を下すべきだ」


 そう言って俺は奴隷商人たちに決断を求め、その結果――





「ラザロスはここを真っ直ぐに進んだ先になります」


 奴隷商人たちは俺の手下になることを選んだ。

 長いものには巻かれろという考え方は個人的に好きになれないが、それは俺の個人的な嗜好の問題なので矯正するのも可哀想だろう。


「そこに入るのには何か手続きが必要なのか?」


「それはまぁ、ありますが全部俺たちに任せてもらえれば何とでも」


 奴隷商人たちは品性が感じられない笑みを浮かべながら俺の疑問に答える。

 こいつらが何を期待しているのかはだいたい想像がつくので、俺はこいつらの期待に応えてやることにした。


「ならば、頼むとするか。上手くいけば報酬を追加で払ってやろう」


 俺はそう言って、手のひらに金塊を作り出して見せる。

 すると、それを見た瞬間に奴隷商人たちの目の色が明らかに変わるのが分かった。


 金で動く奴は本当に分かりやすい。

 俺に対する恐怖も金の魔力の前では薄れてしまうんだろう。

 金になりそうな物を出し続けてやる限り、こいつらは俺の下僕も同然なので、それが悪いこととは俺の都合上は一概に悪いとは言えないな。


 とにもかくにも、この下僕共のおかげで俺の動きは取りやすくなるのだから、金の亡者であっても感謝はしても良いだろう。

 ただし、後で金よりも大切な物を教えてやるつもりだがな。







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