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異世界サンダリア


 今、俺達は奴隷商人たちを殺した場所から多少移動した地点にいる。死体となっていたとしてもあいつらの顔などは見たくないという姉妹の要望と俺の都合の為に場所を移ったというわけだ。


「この世界はサンダリアと呼ばれています。そして、この地はウォーレリア王国です」


 エルフの姉妹は俺が死者を蘇らせることができると分かった瞬間、俺に服従し、今は俺の質問に答えてくれている。

 別の世界でも良くやるが、やはり人を従わせるには死んだ奴を生き返らせるのが一番だ。大切な相手を生き返らせてやるだけで大抵の奴は俺の言うことを聞くようになる。


「話は聞いているので、続けてくれ」


 姉の方の耳長エルフの話を聞きながら、俺はこいつらの村の人間を蘇らせる。

 やり方は簡単だ。この世界では死者の魂を回収するようなシステムが存在していないので、死者の魂はそこらに漂っており、簡単に引っ張ってくることができる。

 俺はその魂から生前の情報を読み取り、生命の水を生み出す『ソーマ』の術式で生前の肉体を構築し、その中に死者の魂を入れれば、それで蘇生完了だ。

 難点と言えば、肉体を新しく作っているので、元の肉体は残ったままなことだが、それに関しては我慢してほしい。


「サンダリアという名には何か由来があるのか?」


 俺は尋ねつつ、エルフの女を一人蘇生し、その辺に寝転がせておく。

 これで十人くらいか。もっと効率よく蘇らせる術もあるが、力の制御ができない今の俺がそれを使うと、おそらくこの世界が誕生した時から、今に至るまでに死んだ人間全てを蘇らせてしまいかねないため、気軽に使用することはためらわれるな。


「申し訳ありません。由来までは……」


「それは誰も知らないのか、それともお前の学が無くて知らないのか、どっちだ?」


 俺の世界のエルフは大半が森の奥に引きこもっていて、社会の知識が乏しい。

 この世界のエルフがそうであるとは限らないが、見た所は田舎者であり、この世界の一般常識を把握しているかは怪しいものだ。


「おそらく誰も知らないと思いますが……」


 姉のエルフは俺の機嫌を窺いつつ答える。

 俺の機嫌を損ねれば、知り合いを生き返らせてもらえないかもしれないのだから必死だろう。


「じゃあいい。他の話しだ」


 由来があるならば、この世界を創った神に繋がる手掛かりになると思ったのだが、分からないなら仕方がない。


「そうだな、次はこの世界の神様の話が良い。知っているなら聞かせてくれ」


 エルフの姉妹は怪訝な表情で俺を見る。

 俺が神だと自ら名乗ったのに、神様の話を聞きたがるのは変だと思ったんだろうな。


「言っておくが、俺はこの世界の神じゃない。この世界の神ではないんだから、この世界の神の事なんかは知らない。だから、お前たちに聞きたいんだが、いいか?」


 俺が尋ねると二人は頷く。

 下手なことを言って俺の機嫌を損ねたくないのは分かるが、そこまでかしこまらなくても良いんだがな。

 まぁ、舐めた態度を取られるよりは良いと思うことにするか。


「この世界は六色むしきの神々が治める世界だと言われています」


 姉のエルフは俺という存在に対しての疑問を押し殺して、つらつらと語りだす。


「赤の神、青の神、緑の神、黄の神、白の神、黒の神。それぞれが協力し、この世界を維持しているのだと、私は聞きました」


 神が六柱か。どうせ世界を管理するために作られたモブだろう。神々として君臨し、この世界を管理するためだけに作られた存在だ。

 俺と同じ経緯で神になった奴の世界であるならば、六色の神というのは隠れ蓑で本当にこの世界を創った神はただ一人だけのはず。

 自分の存在を公にしたくないのと世界の管理が面倒だから六色の神とやらを作って、世界の管理を任せているに違いない。


「治める神ではなく、この世界を創り上げた創造神のような存在はいないのか?」


 俺が尋ねると姉のエルフは気まずい表情で答える。


「申し訳ありません。私は聞いたことが無くて……」


「そうか、ならいい」


 だったら、六色の神とやらをあたってみるか。

 そいつらから情報を引き出し、創造神を探すとしよう。

 もしも、そいつらが自分たちの創造神を知らないというなら、どうするか――


 ――殺すしかないな


 この世界を管理する者たちが消えれば、創造神とやらも出てきてくれるだろう。

 管理しなければ簡単に世界は滅ぶのだから、管理者が殺されることを防ぐために俺の前に姿を現すだろう。

 その時を狙って仕留めればいいだけだ。


「どうかなさいましたか?」


 姉の方が心配そうな顔で俺を見てくる。俺の機嫌を損ねたのかが心配なんだろう。

 機嫌が悪くなっていないからこそ、お前の話を聞きながらエルフどもを生き返らせてやっているんだが、その辺りを察してほしいものだ。


「いや、なんでもない。お前が気にすることじゃない」


 とりあえず、大まかな方針は決まったが、問題はそれを遂行するための手順だ。


「六色の神というのと関係が深い場所はどこだ?」


「すみません、それもちょっと……」


 知らないということか。まぁ仕方ない。

 あまり社会と関わらずに生きてきた部族なんだろう。


「私たちは、その……緑の神を信仰していて……ですけど、神殿などには行ったことがなくて……」


 姉の方は気まずい表情で俺にそんなことを告げる。

 目の前にいる俺が神であるば、別の神を信仰していることを告白するのは俺の気分を害するとでも思っているんだろうか?

 別に俺はそんなことは気にしないんだがな。まぁ、それを教えてやる義理もないし、恐れてもらっている方が都合が良いので訂正することもない。


「でも、アンタの方が凄い神様よ!」


 俺が生き返らせた村人たちの様子を見ていた妹の方のエルフがそんなことを言った。

 その眼には俺への崇拝の念がハッキリと見て取れるが、別にエルフから崇拝されたところで何とも思わないな。


「リーシア、無礼よ」


 まぁ、確かにアンタは無いな。

 だが、目くじらを立てて怒るようなことでもない。

 俺からすればエルフなんかは犬と同じなのだから、無礼な態度も俺に向かって吠えているだけとしか思わないし、吠えてくる犬に対してキレるほど俺は狭量でもないんで、まぁ無礼くらいは許してやる。


「別に構わないさ。堅苦しく振る舞うのも難しいんだろう。無理はせずに気楽にしてくれ」


「良いってさ、お姉ちゃん。やっぱり良い神様よ、この人」


 神様と言っておいて、次の瞬間には人呼ばわりか。

 まぁ、元は人間だったし、生物学上も人間であるから間違ってはいないんだがな。


「信じた所で何もしてくれない緑の神様より、この人のほうがよっぽど良い神様だわ」


 妹の方は完全に崇拝が入ったかな。

 姉の方はまだ俺に警戒しているようだが、何もする気が無いことくらいは察してほしいものだ。


「最後に聞きたいんだが、この辺りに人の多い都市はあるか?」


 この二人があてにならない以上、別の誰かから話を聞いてこの世界の神について知りたいのだが――


「えっと……確か、私たちが逃げてきた場所は、それなりに大きい都市でした」


「そこの名前と位置は?」


「ラザロスという名前で、確かここから西の方だったと」


 聞いておいてなんだが、あまりあてにはならないな。

 逃げてくる途中で方向にズレが生じてしまっているかもしれないので、ここがラザロスの東だという確証はない。なので、西の方角が分かり、西へ向かったとしても、ラザロスという都市には辿り着かないかもしれないな。だが、まぁそれでも充分な収穫か。


「お前たちに聞きたいことはもうないな。まだ知りたいことはあるが、お前たちからはもう充分だ」


 俺は最後にエルフの子供を生き返らせて作業を終わらせる。

 全部で56人といったところか。これが少ないか多いかは集落の規模も分からないので判断がつかないな。


「あの、お待ちください! 何か至らぬ点がございましたら改善いたしますので、どうかご容赦を!」


 姉の方のエルフが急に土下座して切実な叫びをあげた。

 なぜ、急にそんな行動に及んだのか、大体は想像がつく。


「別に機嫌が悪くなったとかじゃない。蘇生をやめたのは、お前の村で死んだ奴はこれだけだからだ」


 思っていたよりも俺が生き返らせた数が少なくて勘違いしたんだろう。

 何も知らないことに腹を立てて、生き返らせる作業をやめたように見えたに違いない。

 だが、それは違う。生き返らせることをやめたのは死んだ者がこれだけだからだ。


「つまり、他の奴らは生きている。逃げ延びたか、それともお前たちのように奴隷になったかは分からないが死んでいないことだけは確かだ」


 俺のその言葉を聞いた二人の顔に僅かに希望の色が浮かぶ。


「それは、その……私たちの父と母が生きているということでしょうか?」


 俺は肯定の意味で頷きつつ、先ほどの必死な態度が理解できた。

 なるほど、この二人は両親が死んだと思っていたというわけか。しかし、実際には生きており、今は希望が見えてきたんだろうな。

 だが、生きているのがこいつらにとって最良であるとは簡単には言えないな。


「えっと、じゃあ、お母さんとお父さんを――」


 妹の方は言いかけて気づいたようだ。

 死んでいるのならば蘇らせてこの場ですぐに会えるが、生きているならばそれは無理であると。


「あの、それじゃあ、お母さんとお父さん、それと村の人で生きている人たちをここまで連れてくることって出来る?」


 妹の方が俺に対して縋るような眼で頼んでくる。

 だが、そんな目で見られたところでな。


「出来なくはないが、それは駄目だな」


「どうしてよ! 何でもできるんでしょ!」


「何でもはできるが、好んでするかは別の話だ」


 で、俺にとっては、お前たちの身内やらを何やらを連れてくるのは好んでするようなことではないということだ。その辺りを察してくれると助かるんだが――


「あの、私の家族や知り合いが奴隷になっているかもしれないんです。それでも助けてはいただけないんですか?」


「分かってないな。その可能性があるから助けないんだ」


 俺の答えに対して二人は理解が及んでいないようだった。

 まぁ、これに関しては理解できる人間の方が少ないかもしれないからな。

 無理に理解しろとは思わないが説明は一応しておこう。


「奴隷なっている場合は既に買い手がついているかもしれない。支払いだって済んでいる可能性がある。それなのに俺が奴隷になった奴をここに転送したらどうなる? 買った奴は丸損だ。返金だって買った商品が無くなってしまったら不可能だしな」


「でも、それは奴隷を買う人が悪いのであって、仕方ないかと」


「奴隷を買うのが悪いというのはこの世界の一般常識か? それともお前らが売られる立場だから、奴隷の目線に立って言っているのか、どっちだ? 奴隷を買うのがこの世界において悪事として認識されるのならば、俺はお前らの身内をここに転送するのは構わないが、そうではないんじゃないか?」


「それは……」


「普通の人間が、悪意無く普通の買い物として奴隷を買っているのならば、金を払って買ったものを奪うのは可哀想だろう? 少なくとも俺には可哀想に思えるな」


「別にいいじゃない! どうせ奴隷を買うなんて碌な奴じゃないわよ!」


「それなら悪徳商人とかじゃなく、一般人がふと売りに出されている奴隷を目にして一目惚れし、寝食を惜しんで働き貯めた金で惚れた奴隷を買ったとしても、お前らはその一般人の気持ちを踏みにじって、ここに転送しろと言うのか?」


 別に言い争う気はないんだが、俺としてはこいつらのために窃盗までしてやる気はないんだよ。

 俺が自分のために人を盗むのは良いんだが、コイツラの為となるとちょっと抵抗がある。どうして、さほど関係が深くない奴らために俺が悪事を働かなきゃいけないのかと思うわけだ。

 こいつらを奴隷商人たちから助けたことだって、それは俺の都合があったのと、あの奴隷商人たちの振る舞いが気に食わなかっただけであり、こいつらが可哀想だとかいう気持ちは殆ど無かった。


「なんにせよ、金銭によって取引が成立しているんだ。奴隷が人か物は俺にとってはどうでもいいが、人が金銭のやり取りをして手に入れたものを盗むような真似はしたくないな」


 俺はそれだけ言い終えると、二人に背を向け歩き出す。

 二人から聞くべきことは聞き、二人の為にやるべきことはやった。もう、この二人に用は無い。


「あの、どちらへ?」


「ラザロスへ向かう」


 もう少しこの世界の情報を集めなければどうにもならない。より多くの人から話を聞き、情報を集める必要がある。

 そのために俺はラザロスという都市を目指すわけだ。


「え、ちょっと待って! 私たちはどうするのよ。私のお父さんとお母さんは!」


「そいつらは死んでいないから俺の管轄外だ。お前たちが自力で探すんだな」


 生き返らせてほしい奴らは生き返らせたんだから約束は守った。これで充分として欲しいな。

 奴隷になっている同胞は購入者と相談して買い戻してくれ、村が滅んだ後、別の場所で新しい生活を送っている者もいるだろうから、そいつらとも相談してくれ。

 俺が転送なりなんなりして、ここに連れてくるのはそいつらの事情とか都合を完全に無視したものとなるので、自分勝手過ぎて好みじゃない。


「そんな、私たちはどうすれば! こんなところで何十人もの人たちと一緒に置き去りにされたって」


 俺がそこまで面倒を見なくてはいけないのか?

 生き返らせた時点で俺はお前らの情報提供に対する対価は払ったようにも思うんだがな。

 俺に対して縋りたい気持ちは分からなくもないが、俺としては今はこれ以上関わったところで面倒なだけだ。


「あちらに行けば森がある。エルフなら森の中は庭のようなものだろう? そこで落ち着くまで過ごすと良い」


 俺は立ち止まり、振り返ると俺が転移して降り立った森の方角を指で指し示す。


「それでも困ったことがあれば、ラザロスにでも来るといい。おそらくはそれなりに滞在することになるだろうからな」


 これだけ伝えておけば、今度こそ充分だろう。

 そう思い、俺は再び二人に背を向けて歩き出す。


「待ってよ! 神様だった、もっとちゃんと助けてよ!」


 充分助けてやったというのに、俺にまだ何かしろっていうのか?

 悪いがこれ以上は御免だ。


「あの、最後にお名前だけでもお聞かせください」


 そういえば名乗っていなかったな。

 ラザロスに訪ねてこられても、名前が分からないのでは探しようがないな。


「私はフィーア、妹はリーシアと申します」


「俺は○○○○だ」


 口を開いて言葉を発したが、どうやら俺の言葉は届いていないようだ。俺が振り返って姉妹の方を見ると、二人ともキョトンとした表情で首を傾げている。

 どうやら俺の名自体がこの世界のルールにおいて禁忌とされていて、発せられた名は意味の通じない言葉に変換される。もしくは単純に音が届かなくなるようだ。

 神としての名、神名といわれるそれを名乗れないということは、自らの神名の詠い唱えることによって発動するいくつかの術式、もしくは権能が使用できないということだ。

 まぁ、その大半が使うことが憚られるようなものなので、使えなくなったところで大きな問題は発生しないだろう。


「カズキ・リョウだ」


 俺は名乗れない神名ではなく人として名を伝える。

 名字で呼ばれようが性で呼ばれようがどちらでも構わない。日本にいた時は、どちらも下の名前のようだとからかわれていたが、異世界であればどうなるんだろうな?


「カズキ様ですね。何かあった時は伺いますので、よろしくお願いします」


「ちょっと、お姉ちゃん! あいつを行かせて良いの!?」


「良いのよ、リーシア。あの方にも何か為すべきことがあるのでしょうから、これ以上引き留めてはダメよ」


 姉の方は賢いね。

 これ以上煩わしい思いをさせられたら、俺がキレる可能性もあると考えて引いたんだろう。


「心配せずとも、助けを求められれば助けてやるよ。エルフは好きというわけではないが、この世界に来て初めてマトモに言葉を躱した相手を見捨てるほど薄情ではないんでな」


 とはいえ、この世界に来て初めてマトモに言葉を躱したというだけの間柄なのだから、何があっても助けてやれるほどの情は持てないな。そこのところを勘違いしないで欲しいものだが、まぁ大丈夫か。


「それじゃ、またな」


 俺は別れの挨拶を口にするとエルフたちを背にして、その場を立ち去った。






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