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望みを叶える

 物心ついた頃から俺は大概のことはそつなくこなせた。

 神になった今でもそれは変わらない。むしろ増えたくらいだろう。

 これが俺の人間だった頃から持っていた才能かは分からないが、俺以外の神を見ていてもそれほど器用ではないようだ。

 そいつらにしても努力すれば何とかなるかもしれないが、どうにも神になると努力という物が嫌いになるようだ。

 そしてそいつらは自分の努力不足を棚に上げ、平然とこんな言葉を吐く。


 ――自然の摂理、そして運命だと――


 俺に言わせれば、そんなものは無い。

 神の力を持つ者に不可能は無いからだ。

 あるとしても、それは現状で不可能なことであり、やがていつかは可能に変わる物だ。だから俺はハッキリと言える。


 俺に不可能は無いと――





「ふざけるな!」


 耳長エルフの姉妹の内の妹らしき方が俺に食って掛かる。

 まぁ、仕方ない。

 突然現れて、神様などと名乗れば、俺だって気狂いだと思う。

 だが、別にこの姉妹にどう思われようが俺には関係ないんでな。


「何が神だ! どうせお前も私たちを奴隷にするつもりなんだろう!」


 俺には奴隷にする価値があるとは思えんのだがな。

 顔はまぁ良い方だろう。薄汚れてはいるが、元の肌は白く滑らかで、金糸のように輝く髪も綺麗ではある。手足は細く長いが、病的な感じはしない。

 まぁ、その程度だ。


「悪いが、お前ら程度は見飽きている」


 何千という世界を治めているのだから美男美女など見慣れている。

 まぁ、それでも一般的な感覚で言えば良い方だろう。


「見慣れているですって! こいつやっぱりエルフを囲ってるんだわ!」


 ああ、そういう風に解釈してしまったか。弁解するのも面倒なんだが、どうしたものか。

 俺に対して警戒し、沈黙を保っているお姉さんの方が何とかしてくれるかな?


「やめなさい。リーシア」


 俺の期待に応えてくれて姉の方が妹を抑える。姉の方が状況を分かっているようで何よりだ。

 躊躇いもなく奴隷商人たちの息の根を止めた男なんだから警戒しないといけないよな。

 そういうことを考えず俺に食って掛かった妹の方が大物だから、俺としては好ましく思うがね。


「この人は危険よ。刺激しないで」


 姉の方が妹の前に立つ。

 タイミングを見つけて、妹を逃がそうって腹なんだろうが意味がないな。


「余計なことはしない方が良い。どう考えても俺の方が速いぞ。お前を殺すのに一秒もかからんし、妹がどんなに速かろうが、俺よりは遅いだろう? 逃がしたところで無駄だ」


 まぁ、無駄だからといって挑戦するなとは言わんがね。

 無駄だからと諦めれば可能性は生まれないのだから。


「俺は耳長が好きではないが、好き好んで殺すほど嫌ってはいない。とって食うつもりは無いのだから、少し冷静になってくれると助かるんだが」


 俺がそう言うと、姉の方は諦めたのか警戒を緩める。

 完全に警戒を解いてはいないが、それはまぁ良いだろう。俺の方とて、信頼してもらう気もないわけだしな。


「……貴方の望みは何ですか?」


「別にたいしたことじゃない。ここが何処だとか、この世界についての情報を聞きたいというだけだ。答えてくれたら、お前らの望みを何でも叶えてやろうじゃないか。これでも神様、大抵のことは出来るぞ」


 姉の方は疑いの目を向けているな。まぁ、妹の方は違うだろうが。


「だったら生き返らせてみせろ!」


 ほら来たぞ。

 興奮しやすいガキだが、利口ぶったガキよりは見ていて面白い。


「お前ら人間に殺された私達のパパやママ、村の人達を生き返らせてみせろ!」


 まぁ、そんな願いが来るとは思ったよ。

 見た感じ、村ごと襲われてあれこれ大変という話だろう。良くあることだ。


「神様なんだろ! やって見せろよ! どうせできないくせに、偉そうなことを言うな!」


「やめなさい! リーシア!」


 俺がいつ偉そうなことを言ったかな?

 出来ることを出来ると言うのが偉そうなことなら、俺は黙っているしかないな。なにせ――


 俺には不可能が無い。


「不可能と決めつけるなら、前払いでもしてやろう」


 詠唱は……必要ないな。

 千や万の大出力を要求される場合なら安定し、一人二人だと厳しいが、それでも不可能というわけでは無い。


『月天神水ソーマ』


 術式を構築し発動する。その瞬間に俺の中の力が一気に消費されるが、放っておけば回復するものなので気にすることは無い。

 術式によって俺と耳長の姉妹の間に水たまりが生じる。二人の怯えが感じ取れるが、これはそんなに怖い物じゃない。怯えずに見ていてもらいたいもんだ。


「村の人間と家族のどちらが大事だ?」


「何を急に――」


 答えられないなら適当にやらせてもらおう。

 生じた水たまりは縦横2m程に広がる。

 後はここに必要なものを投入するわけだが――


「この世界は魂の管理が雑だな」


 水たまりに投入するのは死んだ生物の魂。

 俺は耳長の姉妹にへばりついた魂の断片を引き寄せ、術式で生み出した水たまりに投入する。

 俺の治める世界だったら魂は完全に集積され、保管されるので、引っ張り出すのに手間がかかるが、この世界はそうではなく生きた人間に断片が張り付くので容易のようだ。

 これは俺にとって、良い情報だな。


「何をしているの……?」


「そちらのリーシア嬢の望みを叶えてやるのさ」


 本来だったら、もっと簡単に出来たんだがね。指を鳴らせば、どんな人間だって生き返らせることが出来るくらいだ。でもまぁ、今はそんな力が無いのでこんな面倒な方法を取らざるを得ない。

 もっとも、面倒と言っても殆ど一瞬なんだがね。ほら、もう完成だ。


「嘘……」


「まさか、どうして……」


 耳長の姉妹は目を丸くして水たまりを見ている。

 まぁ、見ずにはいられんだろうな。なにせ、その中心に死んだはずの知り合いが現れたのだから。


「こいつはお前らの知り合いだろう?」


 底の浅い筈の水たまりから浮きあがるように現れたのは年老いた耳長の男。

 俺の勘では、姉妹の住んでいた村の村長か何かだろう。

 俺の『ソーマ』は生を創り出す術式であるから、命を元に戻すなど容易い。

 生き返らせるだけなら、もっと効率が良い術式があるんだが、それは使用不可の状態にされているから仕方ない。


「前払いはこれでいいか? 俺の頼みを聞いてくれれば、お前らの生き返らせて欲しい奴を全て生き返らせてやるぞ」


 耳長の姉妹の俺を見る目が媚びる物に変わっていく。

 まぁ、仕方ないだろう。永遠に失われたと思っていた物が戻ってくるかもしれないのだから。

 俺の機嫌を損ねたら、二度と帰ってこないかもしれない。それを思えば、俺に媚びるのも仕方ない。


「もう少し気骨があると面白かったんだが、これはこれで好都合か」


 ここで俺に媚びずに対等な交渉者でいてくれれば、もっと望みを叶えてやっても良かったんだがな。

 まぁいい。今は、この世界の事を知れるだけで満足するとしよう。


 俺としては、もっと心の強い奴に会いたかったが、それは今後の楽しみとしておこう。

 今はそんなことよりも情報収集だな。





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