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相応の対応

 

 俺は部屋の中に出した銃器や自動車を消し去り、代わりに椅子を出すとそれに腰かける。


「さて、俺はこれからお前をどうするべきか、お前と話し合いたいと思うんだが、何か言いたいことはあるか?」


 俺は宙に浮かぶ球体に向かって話しかける。


『頼むからダンジョンコアを破壊しないでくれ』


 ――演技だな。俺の前に見えているダンジョンコアがダミーなのは間違いない。それが壊れた所でたいした問題は無いはずだが、それなのにどうして必死にそれを止めるのか。

 理由はおそらく、その方が身を隠しやすくなるからだろう。必死で破壊されるのを阻止する振りをすれば、ダミーであることを誤魔化せる。そのうえ破壊されたということになれば、自然とダンジョンへの注目は無くなり、一時的に安全は確保できる。

 その間はダンジョンを運営するためのポイント供給が停止されるが、それもほとぼりが冷めた頃にダンジョンを再開すれば済む話だ。


「どうやら、アレを破壊されると本当に困るようだな」


『ああ、ダンジョンコアは俺の命と繋がっているから破壊されたら死んでしまう』


 俺はダンジョンマスターの言葉を信じ込んだ体で話を続けることにした。騙されたふりをしたところで俺が困ることは何一つないわけだしな。


「とはいえ、それを壊して欲しいと思う者もいて、俺はそれを頼まれているから、どうしたものか」


 頼まれた事実などは無いので真っ赤な嘘ではあるが、この嘘を聞いてどんな対応を取るのやら。


『できれば見逃して欲しい。そちらの望むような見返りを提供できる自信はないが、可能な限り要望には応えるつもりだ』


「それでは俺が依頼を果たせなかった無能になってしまうな。俺は世間の評価を気にするタイプなのでどうしたものか」


『俺達は同じ日本人なんだから、同郷のよしみで見逃してはくれないだろうか』


 ――同郷か。日本人同士であるが、俺とこいつの日本はおそらく違う日本だろうから同郷というわけでもないんだがな。まぁ、それでも人種は共通しているので同じ括りにしても俺は問題ないと思うが、さてどうするべきか。


「一つ聞いておきたいんだが、ここで俺がお前を見逃すとして、その後でお前はどうする?」


『どうするというのは?』


「ずっとここに引きこもり、自分の生活の安定のために入り込んできた奴らを殺していくのかどうかってことだ」


『それは自分の身に降りかかる火の粉は払わないといけないから仕方ない。だけども、別に命を奪いたいわけでも無くて、上手く共存できるならその方法も模索したいと思っているわけで――』


 そうかそうか。まぁそういう生き方も悪くないな、うん悪くない。俺個人としてはそういう生き方も認めてやっても良いと思うが、でも駄目だな。


「それなら、お前を見逃してやるって訳にはいかないなぁ」


『……どういうつもりだ?』


「どうもこうもないだろう? 巣に閉じこもり、巣に迷い込んできた奴らを養分に変える虫みたいなお前と、夢と希望を胸に危険に飛び込む冒険者であれば、俺は後者を優先するってだけだ」


『それは困る。俺はどうすればいい』


「そりゃあ勿論、死ぬしかないな」


 そもそも、こういうスタンスの奴が俺は嫌いなんだ。

 生きるために悪事を為すことを俺は許す。だけど、しょうがないとか仕方ないみたいに自分に言い訳をしながら悪事を為すのは俺は気に喰わんね。


「人の命を仕方なく奪うくらいなら、自分の命を諦めてお前が死ね。それが綺麗な生き方ってもんだ。それが出来ないなら自分の汚さを理解して、それに相応しい生き方をするべきだ。言い訳をせずに自分が身勝手なゴミであることを自覚して、悪党として生きろ」


『…………』


 黙っていないでなんとか言ってほしいんだがね。


『…………仲良くできそうにないな……』


 交渉は決裂だろうな。まぁ、それは俺も望むところなので問題ない。好きになれそうにないタイプなので、むしろ、決裂して良かったくらいだ。これで心置きなく始末できるからな。


『もういい、帰ってくれ。アンタと話すことなんかない』


「おいおい、俺の話を聞いてたか? おまえは死ぬしかないって前提で話を進めてるんだぜ、こっちはさ?」


 話しながら、俺は術式を準備する。このダンジョンマスター生かしておいても俺にはそこまで得は無い。むしろ殺しておかないと、一生懸命頑張っている冒険者たちがこいつのダンジョンで殺されてしまうかもしれない。俺的にはそれの方が嫌だ。


『それがどうした。アンタに俺を攻撃することなんてできない。そこのコアを攻撃したところで俺を倒すことなんてできない』


 そりゃあそうだろう。ダミーのコアなんだから攻撃したって倒せないのは当然だ。しかし、ダンジョンマスター自身を攻撃できないってのは間違いだ。俺には攻撃する手段があり、俺はそのための術式を発動する。


 《雷征槍インドラ》


 俺の掌から雷が奔り、ダンジョンのフロアに拡散する。この一発で十分だ。例によって詠唱は無し、詠唱すると周囲の生き物を皆殺しにしかねない。


『何を――――っっっっ!―――』


 ダンジョンマスターの声が途切れる。おそらく感電死だろう。俺のインドラの術式が奴の魔力を通って奴まで届いて、それでお終いだ。

 魔力などのエネルギーを通り道にするという術はこういうダンジョンマスターに最高に相性がいい。

 なにせ、ダンジョンを運営していくためには不可思議なエネルギーが必要不可欠であり、そのエネルギーはダンジョンマスターから引っ張っているのだから、ダンジョンマスターへ雷を通すためのルートはいくらでもある。

 なので、ぶっちゃけると俺はダンジョン内に入れば、そのダンジョンの主を即殺できる。今に至るまでに殺さなかったのは、ミリーが一緒にいたのとダンジョンマスターに話を聞きたかったからというだけだ。


「しばらくしたら生き返らせてやるよ。その時は俺好みになるように教育してやる」


 既に聞こえてはいないだろうが、言っておこう。まぁ、単にカッコつけてみただけなんだがな。





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