表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/18

ダンジョンの主

 

「さて、戦う前に一つ聞いておこうか。お前は俺とどの程度まで戦う?」


 傷が治ったアークデーモンは俺を睨みつけているが、この程度の輩に睨みつけられた所で俺が怯むはずもない。なので、俺は気にせずに、そのまま話し続ける。


「喧嘩か殺し合いか、それとも手合わせか稽古か。まぁ、好きなのを選んでくれ」


 その選択の結果で俺に対して与えられるダメージの限界は決まるし、俺がお前に与えるダメージの限界も決まるわけだが――


「ふざけるなよ、人間。我を相手にそんな――」


 言葉の途中で俺は『ラーフ』を発動し、アークデーモンの両腕を消滅させる。


「ああ、すまんすまん。これを聞くのは人間だけだ。お前のような魔物とか魔族は基本的に殺す方向性なんで、選択の余地は無いんだ」


「貴様――っ!」


 腕を無くしながらもアークデーモンは翼を羽ばたかせて、俺から距離を取ろうとする。だが、多少距離を取ったところで意味は無い。

 俺は『ラーフ』を発動し、アークデーモンの翼を漆黒の球体で吞み込み消滅させる。

 人間相手なら一方的になりすぎるから使わないが、こういう魔族相手なら一方的にいたぶる展開になろうと罪悪感などは湧かないので、何の抵抗もなく消し飛ばせる。


「俺はお前らみたいな種族がどうにも好きになれないんだ。こればかりは体感時間で何百年生きていてもどうしようもない。もっとも、好きになる努力もしていないから、俺に非のあることでもあるんだが」


 だからといって、好きになる努力をしようとは思わない。

 なので、俺はこれから先も魔族やら魔物は嫌いなままだろう。だから、人間相手にするような加減をしてやろうという気にはならない。なんで嫌いな物に配慮する必要があるのかという話だ。

 俺は配慮する必要が無いと思うから容赦はせずに殺す。当然こいつも殺す。


「人間風情が調子に乗るなぁ!」


 腕と翼を失っても戦意は衰えないのかアークデーモンは魔力を放出すると、それを収束して弾丸のように俺へ向けて撃ちだす。


「人間ではないんだがな。まぁ、説明してやる義理もないか」


 俺は『ラーフ』を発動し、漆黒の球体で魔力弾を消滅させる。

 殺すことを最初に決めている相手なので見せ場などを作ってやる必要もない。

 これが人間相手なら負けても悔いがないと思える程度には見せ場というか、全力を出し切れる程度までは相手をしてやっても良いんだが、こいつはそういう相手ではないから、わざわざ攻撃に当たってやる筋合いも何もない。


「馬鹿な!? 貴様は一体何者だ!」


「答えてやる義理も無いな」


 もう少し面白いことを言ってくれていれば、答えてやっても良かったが残念ながら、お前はつまらないからダメだ。もっとも、魔族程度には期待もしていなかったが。


「お前らは本当に月並みな反応しか返さないから面白味がない。種族としてある程度完成されていて環境に適応できるから多様性が生まれにくいからだろうな。個性はあるんだろうが犬とか猫なんかの動物と同じ程度だろうな」


「我を愚弄するか!」


「今まで愚弄されていないとでも思っていたのか? 随分と察しが悪いな」


「小僧がっ!」


 アークデーモンは魔力を解き放ち、腕を高速で修復する。翼の方は諦めて腕を回復させることを選んだようだ。両腕が癒えると即座にアークデーモンは俺に向かって突っ込んでくる。

 ここで、逃げ出す選択が取れれば多少は評価が上がるが、思考が凝り固まっているせいでそれは無理なようだ。ハナから期待はしていなかったが、もうこいつは良いだろう。


『大法天ヴァルナ』


「口頭で禁則を発令。俺――カズキ・リョウへ攻撃を禁じる」


 発動した術式によって、俺を攻撃しようとしていたアークデーモンの動きが止まる。

 その隙に俺は手に一冊の本を出現させる。


「禁則を明文化。カズキ・リョウへの攻撃を禁じる」


 割とズルいとは思うが『ヴァルナ』にはこういう使い方もある。

 口頭で発した禁則は簡単な手順で、より強力な強制力のある条文に変更できる。

 口頭では効果時間が短いがこうすることで効果時間を延長でき、発した禁則に触れた者に罰を与えることも出来る。


「攻撃の意思を持ち、攻撃を行おうとしたため禁則に抵触。対象を罪人と認定。刑罰を執行――」


「貴様、何をした! 何が起きている!」


「――罪人には四肢を失うという罰が与えられる」


 俺の言葉が発せられた瞬間、アークデーモンの両腕両脚が引き千切れる。

 問答無用で相手を殺すということが出来るのだから、四肢を引き千切るなどは容易いことだ。


「この程度で我が!」


 地面をのたうち回るアークデーモンだが、魔力を集中させて四肢を治そうとしているようだ。

 しかし、残念なことに治そうと思って治せるようなもんじゃないんだ。


「なぜだ。なぜ治らん! なぜ手足が生えてこない」


「当たり前だろう。俺は罰を与えたんだぜ? 罰というのは苦痛を与えるのが目的ではなく、反省を促すことが目的の物だ。反省が無い限りは解けない」


 この場合は俺を攻撃しようとしたことを心から反省して俺に謝罪すれば、四肢を治すことは出来るだろう。まぁ、こいつが謝罪することは無いだろうし、俺も謝罪を聞いてやるつもりもないが。


「ふざけるな、人間風情が! 我にこのような真似をしてタダで済むと思うな!」


 だから、人間ではないんだがな。まぁ、言っていないから知る由も無いだろうし間違えても仕方ないか。

 そもそも、こいつは俺が人間であるから気に喰わないんではなくて、自分が屈辱を味わっているのが気に喰わないというだけで、ひいては俺が気に喰わないというだけで、人間であるということはどうでも良いだろうに。

 そういう自分の正確な感情の在処も論理的に把握できていないのでは、まさしく話にならない。そして話にならないのであれば、会話以外のコミュニケーションを取るしかない。


「不思議な話だな。お前はそんなザマで何ができる?」


 俺はアークデーモンの頭を踏みつけ、見下ろす。


「我が滅びうとも我が同胞が貴様を殺す」


「そうして、俺が殺される様をお前はあの世で見届けるというわけか。中々に良い趣向だな。俺には真似できそうもない」


 この手の阿呆はそんな脅しで相手が止まると本気で思っているのだろうか。

 定番ではあるが、命乞いをするならばもう少し誠実に媚びへつらうように命乞いをするべきだ。

 心が折れた弱い奴は好きにはなれないが、それはそれで可愛げがあるから見逃してやっても良いような気になるんだがな。もっとも、それも人間の場合に限る話ではあるが。


「待て、貴様! 我を滅すれば、何百もの同胞が――いや、このダンジョンの主が黙ってはいないぞ!」


「俺としてはお前が黙るのなら、他の奴がどんなに騒ごうとどうでもいいことだ」


 それに出てきてくれるなら、そちらの方が都合がよいので望むところだな。


「待て! 頼む、待てっ!」


「悪いな。お前にはたいして恨みがあるわけでもないし、言葉が通じる相手を始末するのは多少だが心が痛む。でもまぁ、死んでくれ」


 俺は踏みつけていた頭から足をどかし、『ラーフ』を発動する。

 漆黒の球体が発生し、アークデーモンを呑み込んで消滅させる。


 これにて戦闘終了。だが、一件落着というわけじゃない。

 俺はミリーをそのままにダンジョンの奥――とはいっても、アークデーモンと戦った部屋の隣へ進む。


「まぁ、予想の範囲内か」


 隣の部屋に入るなり、紫に輝く巨大な水晶が俺の目に飛び込んできた。

 これまでに進んできたダンジョンの規模と、先ほどのアークデーモンを使役するコストを考えれば、ダンジョンの最奥は近いだろうと思って進んだのだが、まさか隣だとは思わなかった。

 ここのダンジョンマスターがどういう方式でダンジョンを運営しているかは正確には分からないが、おそらくは獲得したダンジョンポイントを消費してダンジョンの拡張や魔物の使役などをしているんだろう。

 そして、そのポイントも中々に厳しいということも予測できる。でなければ、こんな中途半端な所にダンジョンコアを置いたりはしないからな。


「見ているんだろう? 少し話をしないか?」


 俺は水晶に向かって話しかける。水晶はダンジョンコアで間違いはない。

 指示を出すのはダンジョンマスターであるが管理の中枢はダンジョンコアで、これを破壊されるとダンジョンは機能を失う。

 その際にダンジョンマスターがどうなるかは場合によるので何ともないが、これは別に壊しても問題ないだろう。なにせ、偽物だからな。


 小狡いダンジョンマスターが良くやる手段だ。

 ダミーを置いて本体は絶対に到達できない場所に置いてある。ダンジョン内に直接置いてダンジョン自体に接続しなければダンジョンコアは機能しないが、ダンジョンと繋がってさえいればいいんで、人のたどり着けないような場所に置きでもすればダンジョンコアの安全は確保できる。


『――はじめまして侵入者の方』


 輝く球が現れ、宙に浮かんだそれから音が発せられる。

 どうやら、ここのダンジョンマスターは俺の知り合いではないようだ。

 俺の知り合いならば、侵入者なんて言い方はしないからな。

 まぁ、そうそう知り合いに会うことなんてのは無いだろうから、別に失望も何もない。


「はじめまして、ダンジョンマスター殿。名前で呼んだ方が良いか?」


『結構です』


 おやまぁ、つれないね。

 まぁ仲良しこよしをしにきにたわけでもないから別に構わないがな。


「では、俺も名乗るのはやめておこうか。お互いに名乗らずともお喋りくらいは出来るだろうしな」


 俺の皮膚に何かが微かに触れるような感覚が生じる。

 おそらく『鑑定』でも使っているんだろう。相手の能力を見るという『鑑定』はダンジョンマスターになる奴は好んで取得しているから、使うこと自体はおかしくもないんだが、自分の素性は明かさないくせに相手の素性を探ろうとするっていうのはあまり行儀の良い行いじゃないな。

 どうやら、このダンジョンマスターの上等な品性の持ち主ではないようだ。そんな相手に俺の情報を見せてやるのも面白くはない。もっとも公開していないプロフィールを覗かれること自体、俺は嫌なんだが。

 なので、俺は偽の情報をダンジョンマスターに見せることにする。

『鑑定』を使う奴への対策くらいは幾らでもあるが、今回はこの程度にしておこう。


 さて、良い具合に騙されてくれるだろうが、これからどうするか。

 今の段階では始末しようって気分にもならないし、とりあえず話を聞いてからどうするか決めるとしよう。出来れば、楽しい会話になると良いんだがな。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ