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恩師がエロ坊主なれば弟子はエロおやじ。

 年末年始と言えば、忘年会や新年会といったように、なにかとお酒を飲む機会が多いですよね。今回はそんな飲み会での目くそ鼻くそ的な出来事をお話したいと思います。それは、年も明けまして、そろそろ二月に入ろうかという時期に行われた新年会をかねての親睦会でのエピソードでございます。まぁ、どこの職場でもあると思うのですが、飲み会好きの上司がいるせいで、「ライン作業はチームワークや」という理由で親睦会が多いのですよ。その日も、もはや仕事はじめから一か月も経っていて「いまごろ新年会じゃえーねよ」と強制参加をよぎなくされた同僚たちの不満の声があるなか行われたのです。飲み会の場所は、京都一の繁華街である四条河原町(祇園や先斗町などがある地域)近辺の居酒屋です。この場所が選ばれたのは交通の便がいいのと二次会になってもお店選びに困らないからなんです。ただ立地条件が良い分、参加費が高くなるってのが相場なのですけど、その飲み会の参加費は飲み放題つきで3000円と破格の安さです。最初に3000円と聞いた時は、会社がいくらか負担(工場では様々な活動成果に応じて報奨金があります)してくれてるのだなと思っていたのですが、幹事に聞くと「そんなもん、前の宴会で使いきったわ。安いのは幹事の腕や」と言ってきたので嫌な悪寒が走りました。

 それで、案の定、わたくしの嫌な予感は的中し、その居酒屋で出される宴会コースメニューは料理が冷えてるし、不味いし、少ないといった最悪三拍子がそろったものでして、ほぼ宴会料金の大半を占めてるだろうと思われる飲み放題の生ビールでさえも、普段飲んでる生と違って水で薄めてるのちゃうかというぐらいビールの味が水っぽいのですわ。そんなものだから、場のあちこちから幹事に対して不平の声がしてきて、もはや親睦がはかれない展開になっていったのであります。見かねた上司がコースメニュー以外のものを「単品で頼んだらいいよ」と幹事に助け舟を出してなんとか総崩れにならなかったのですが、なにぶん、上司の懐具合を心配して料理の追加しなっかったので腹が減ってたまりません。帰りにラーメンでも食ってかえるかと同僚と話していたら、先輩の関本さんが「二次会いこうやーちょっと遠いけど安くていい店知ってるでー」とのこと。「キャバっすか?」と同僚の一人が関本さんに聞くと「アホ、キャバより安いしエロいおねーちゃんおる店や、しかも焼き肉食べ飲み放題じゃ」と聞いてたものから「うぉー」と雄叫びがあがるほどの桃源郷を思わせる二次会先ですわ。

 ということで、「エロいねーちゃんがいる店」ってのがメンバーを集めたのか、二次会には7名の有志が参加することになりました。その店は伏見という京都の中心部から少し離れたところにあるので割り勘タクシーで行くことにしたのですが、不評だった居酒屋を出ようとした時に、何やら酔っ払いが店の入り口付近で騒いでいるのが目に入りました。その酔っ払いは趣味の悪いカラフルなシャツを着て頭はスキンヘッドの丸坊主です。かなり酒がはいっているのか完全に目が座っており、パッと見た感じ堅気の人には思えない風貌をされております。そして居酒屋の店員に対して「おいーこの店の入浴料はなんぼじゃーわれ。金ならもっとるわい」と言って、手に諭吉を握りしめてわめいております。「だから、総込みでなんぼでやれるんじゃ」と周りの迷惑などおかまいなしで酔っ払いはひつこく店員に絡まれております。この酔っ払いの言ってることから推察すると、どうやらこの居酒屋をソープランドと勘違いしてるようです。なんとも「酒は飲んでも飲まれぬな」と説教してやりたいような酔っ払いなのですが、この酔っ払いの顔には、わたくし見覚えがあったのです。見た瞬間は気がつかなかったのですが、声に聞き覚えがあり面識のある人物だと分かったのです。それで、この居酒屋をソープランドと勘違いして面前で「入浴料なんぼじゃ」とわめいてる御仁の正体なのですが、この御仁は高校時代の宗教の先生であります。わたくし、実は高校はとある宗教が必修科目であった(京都には多く存在する宗教学校法人)仏教系の私立高校に通っておりまして、そのときに仏教の教えを説いてたのがこの御仁だったわけです。ですからこの酔っ払いの頭がつるつる頭なのも剃髪されてるわけでしてこの人は正真正銘の坊主なのであります。ちなみにわたくしが通っていた高校は規律がとても厳しいお寺が経営してる学校でして、そのお寺の名前を聞けば誰もが知ってるような名刹寺院であります。学校名を出したいのですけど、出すと京都の闇社会から消されてしまいそうなので控えさせてもらいますわ。しかし、この酔っ払い坊主の変貌ぶりには驚きですわ。当時の酔っ払い坊主はお釈迦様の教えを丁寧に授業中に説明され、ことあるごとに「人の道にそれたことはしてはいけないよ」と竹刀を片手で持ち歩きながら居眠りしてる生徒に容赦なく「喝っ」と言って竹刀を振り下ろしていた立派なお坊さんだったのです。同級生たちは嫌々ながらも単位欲しさから恩師と慕っていたのに、それがいまや「入浴料なんぼじゃー、早くやらせろー」とは何たることでありましょうか。スターウォーズに例えたら、マスターがダークサイドに落ちて暗黒シス教になったようなものです。パダワンだったジェダイの騎士の教え子はこれでは道に迷ってしまいますよ恩師様。てなことで、このエロ坊主はどうしようもない奴ですので、教え子だとばれないうちにわたくしは居酒屋を退散して、関本先輩がおすすめの二次会先に向かったのであります。

 タクシーに乗ること20分あまりで、関本先輩おすすめの二次会先につきました。店はイメージしていたものと違い空き地に簡易なバラック小屋をいくつか並べたようなしょぼい作りで、店の宣伝をするピンクに塗られた看板だけが目立つようなものです。そのピンク色した看板には「業界初ノーパン焼き肉、桃色カルビ学園」と書かれております。なんともセンスのかけらさえないぼった風俗臭漂う安易な店名でございますわ。でも、ここまで来て学園に入学しないわけにはいきません。わたくしたちは興味本位で桃色カルビ学園に入店、いや入学いたしました。店に入ると強面の用心棒をかねているボーイから校則ならぬルールが説明されます。ボーイの低い声でのルール説明によると、まず、店内に入ってから90分の焼き肉食べ飲み放題コースがスタートしますとのこと。なお延長はなしの入れ替え制とのこと。続いて、肉を運んでくるコスプレ従業員の身体にはいかなる理由があろうと触れてはいけないとのこと。そして、コスプレをしている従業員のスカートの中を直見してはいけないとのこと。見たいときはテーブル席に書かれてるオプションを利用してください。最後に飲食物やオプションを注文されるときは必ずテーブル席にあるボタンでボーイを呼び出してその者にオーダーしてください。直接コスプレ従業員に注文されても応じかねなすとのこと。と説明があり、手短な説明が終わると、すぐに飲食店とは思えない仕切りカーテンの中を通されテーブル席にご案内されました。店内に入ると、ジャマイカンなレゲエ音楽がBGMの中、「いらっしゃいませ、どうぞ」とどこからともなくするボーイの声でお出迎えです。ボーイの声の発信源が確認できないのは、この飲食店、店内がむちゃくちゃ暗いのです。わざと照明を抑えているのか、とにかく暗く、明かりらしい明かりといえば各テーブルに設置されてるランプ型の照明のみな感じです。まぁ、すぐに店内が暗くしてる理由はわかるのですが、とても焼き肉を食べるような店でないことは入って数十秒でわかるお店でございます。ボーイにテーブル席に案内されて各々が着席すると、皆が初めての体験からの不安感で無口になり軽い緊張感に包まれてるような気がします。そういう雰囲気を察知したのか、この店に連れてきてくれた唯一の体験者である関本さんが「さぁービール飲もうぜ」と言って生ビールを人数分注文して二次会が始まりました。ほどなくすると、ミニスカート姿の女子高生のコスプレをしたおねーちゃんが注文したビールをテーブルまで運んできてくれて有志からは「ウォー」と軽く歓声が上がります。そして、その頃には薄暗い照明にも目が慣れ店内の状況が分かるようになりました。店内は意外に広くテーブル席が20近くありました。その中をナースやテニスルックにミニスカポリスといったコスプレをしたおねーちゃんが忙しそうに肉やらビールを運んでいる姿が見えます。一連のボーイやコスプレねーちゃんの動きを見ていて、だいたい店のシステムが分かったわたくしは、乾杯のビールを飲みつつ店のメニューに目を通しました。メニューにはロースやカルビといったお決まりの肉の種類と飲み放題で頼める酒とソフトドリンクが書かれております。だが、ここはノーパン焼き肉店であり、普通の焼き肉店にはない裏メニューというべきか特筆されるオプションメニューが書かれております。そのオプションに書かれているものは、手鏡3000円、ペンライト2000円、焼き焼きコスプレギャル5000円となっております。どれもこれも一見しただけではよくわからぬ要説明なメニューばかりであります。だが、すぐにこの店の売り上げを支えてるオプションの意味がわかることになりました。それは、この店の店名にもなってるカルビがミニスカポリスによって運ばれてきたときです。わたくしはこのミニスカポリスが本当にノーパンなのか確認したい衝動にかられたのであります。ですから、ついポリスのスカートを「本当にノーパンなのか」と独り言を言いながら、頭を下げて覗いてやったのです。すると、その様子をどこで見ていたのか知らないですが強面ボーイが飛んできて、「お客さん、直見はダメですよ。見たかったらオプションの手鏡を通してください。次やったら退場してもらうことになるのでお願いします」とのことですわ。なるほど、ここでの手鏡なのかとボーイに注意されつつも妙にオプションの意味に納得していたところ、隣にいた後輩が「ノーパンだったのですか?」と、この場でボーイに注意を受けた勇者であるところのわたくしに聞いてきました。それで、わたくしは「たぶん、はいてない」と報告すると、メンバーから歓喜の声があがったのです。ですが、実際のところ、店内の照明に目が慣れてきたとはいえ、おねーちゃんの下半身部分は暗くてよく見えないってのが実情であります。その瞬間、もう一つのオプションであるペンライトも理解したのでありました。ということは、最後のオプションである焼き焼きコスプレギャルとはなんぞや? ってことになるのですが、このオプションは飲食物を運んではすぐにバックヤードに戻ってしまうコスプレギャルをテーブルに注文した肉が焼けるまでチャージしてくれるものでして、それまで飲食物を運んでくる一瞬の間に話しかけてもガン無視のコスプレギャルが笑顔で世間話程度に応じてくれ、なおかつテーブルで肉を焼いてる間はオプションの手鏡とペンライトを駆使して見放題となるわけです。なんともしらふで考えるとドアホなシステムなのですが、その時はこの画期的なシステムに夢中であります。気がつくとわたくしたちはコスプレギャルをチャージして、各々に手鏡やペンライトのオプションを注文したのであります。もはや焼き肉を食ってる場合ではありません。というか、食欲と性欲は両立などしないのであります。どっちを選択するか迷っていた脳もこのオプションによって吹っ切れたのであります。オーダーが入ると直見防止の見張り担当のボーイから「手鏡入りましーた」や「ペンライトありがとうございます」と他の客を煽る注文確定の声が店内に響きわたるのでした。

 そして、楽しい90分食べ飲み放題の時間はあっというまにすぎ、お会計となったのですが、請求額を見て皆一気に酔いが覚めました。その額なんと7人でサービス料込で14万円なり。てか、なんぼオプション利用しとんねんって話ですわ。ひとりあたま2枚の諭吉を払いつつ、何度もテーブルチャージして親しくなった麻美というミニスカナースの名刺をお土産にしながら、二次会はお開きになりました。皆、やや消化不良のなか、三次会に行く気力もうせ現地解散となり、わたくしは比較的家が近いものとタクシーに乗って帰宅いたしました。

 次の日、コスプレ焼き肉の夢を見ていたら、嫁さんのがなり声でたたき起こされました。「あんたーカルビ学園の麻美って誰やねん? 昨日風俗いったんか? よくそんな金があるなー」とお怒りでございます。いくら、嫁さんに焼き肉店だといっても「そんな店あるかい」と信じてもらえません。 そして、嫁さんに罰として、マン地固めをされながら「あぁ、恩師よ、わたしもダークサイドに落ちてしまいました」とよだれをたらしながら悶絶したのでありました。ちゃんちゃん。

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