妻の逆鱗。
皆様は、逆鱗って言葉を知っておられるでしょうかね。よくことわざで「逆鱗に触れる」のげきりんなのですが、この逆鱗の言葉の語源は想像上の生き物である竜にある81枚の鱗のうち、あごの下にある一枚だけ逆さに生えてるのだそうです。その逆鱗に触られると竜であるドラゴンは怒り狂って触ったものを殺してしまうということから、自分より立場が上の人の怒りを買うことを表すことわざとして知られています。まぁ、ようするに触れてはならないものだとわたくしは解釈しておるわけなのですけど、その逆鱗なるものがわたくしの嫁さんにもあるので困ってるわけなのです。いや、もちろん鱗が生えてるわけじゃないですよ。触れてはならないものがあるって意味合いでの逆鱗だと思ってくださいね。
それで、その嫁さんの触れてはいけない逆鱗ポイントなるものは、嫁さんの体型に関するものでして、ぶっちゃけ嫁さんは、骨太ぽっちゃり悪役女子レスラー体型なのであります。女子レスラーの北斗晶みたいな体型を想像してくださいませ。要約しますと太っておられます。
まぁ、もともと知り合ったときから痩せてる方ではなかったのですが、このような体型になられた根本的な原因は、嫁さんの食べるの大好きなところと、妊娠してるときに栄養取りすぎて太られ、出産後も体型が元に戻らなかったところだと旦那としては分析しております。少しでも健康面のこともあるので、嫁の機嫌のいい日などを見計らって、「最近、また太ったのとちゃうか? ダイエットしろ」などと言うと、まさに逆鱗に触れ状態になり、「糖尿のあんたに言われたないわ。それと、わたしは仕事で骨太になってるだけで太ってるのと違う。これ以上痩せたら仕事にさしつかえるんや」と言って、いらないことを言った罰としてわたくしは即興のコブラツイストや関節技をかけられ、苦しさでよだれが出るまで絞めあげられるのです。 ちなみに、嫁さんの仕事は父親が経営しているダンボール製造会社でパートとして働いております。本人が言うには、一日中、何キロもあるダンボールを荷卸しするので体力勝負な仕事なのだそうです。ですから日々、強制無酸素運動状態なわけでして……。大の男のわたくしにプロレス技かけられるのも納得であります。てなことで、我が家では、嫁さんに対して「太ってる」や「ダイエットしたら」などは禁句のNGワードでして順風満帆に過ごしたいなら絶対に触れてはいけないことなのです。だが、このことを知ってるのは家族とごく親しい人たちだけなので、他人はしるよしもありません。
ってことで、良かれと思って言ったことが、嫁さんの逆鱗に触れてしまった可哀そうな遊園地の係員のお話をいたします。
三重県にあるナガシマスパーランドという遊園地に行ったときの出来事です。この遊園地、関西圏では最大の絶叫マシーンが充実している遊園地でして、乗り物フリーパスもあることから人気の遊園地であります。うちの嫁さんは、この遊園地の数多くある絶叫マシーンが大好物でして、その出来事があるまでご機嫌でありました。とにかく、この遊園地に来たら、すべての絶叫系に乗らないと気が済まない嫁さんは朝から60分から90分待ちの乗り物を消化しましてテンションノリノリでございます。昼飯を食べてからこの遊園地で最大の人気を誇るスティルドラゴンなるジェットコースターに挑戦です。この、スティルドラゴンはギネス記録を三つも持つ化け物コースターでして、それゆえに120分待ちの長蛇の列に並びました。待ってる間も嫁さんは「楽しみや―」と子供のようにはしゃいであおります。わたくしは、どちらかというと絶叫コースターは乗った後にむちうちっぽくなるので、あまり激しいのは苦手であります。だって怖ければ怖いほど、体が力んでしまってむちうちになるような気がいたします。ですから、列がはけて徐々に乗る順番が近づいてくると「おぇー」っと緊張から吐きそうな感じがします。嫁さんは、そんな自分なんかおかまいなしで、さっき食べた昼飯の消化をうながしているのか「パン、パン」と張ったお腹をたたいております。この「パンパン」腹を叩くのは、最近始まった嫁さんの癖みたいなのですが、「恥ずかしいからやめてくれ」と言えない自分が情けないのであります。そうこうしているうちに、いつのまにか長蛇の列もはけ、いよいよ、わたくしたちが次に乗る順番になった時に事件が起きました。
それは、コースターに乗る人を係員が身長等の制限にあてはまってるかチェックするときに起こりました。係員はなんと、うちの嫁さんに「あのーすいませんお客様、妊婦の方は乗車の方をご遠慮してもらっています」と申し訳なさそうに言ってしまったのです。勿論、嫁さんは妊婦などではございません。ただ太ってるだけのご婦人なのであります。わたくしは、それを聞いた瞬間「あかん、こいつ、言ってはいけないレベルを一発で超えてしまいよった」と氷つきました。そんな失礼なことを言われた嫁さんをとっさに見ると、あまりの怒りからか、腹を「パンパン」たたきながら小刻みに震えておりました。そして、はじめは小さい声で「妊婦ちがうのですけどー」と言ったのです。まだ事の重大さを理解しえない係員は「はい?」と嫁さんに聞き返す失態をおかします。嫁さんは今度は係員の耳元でドラゴンの咆哮のごとく大きな声で「妊婦と違うっていってるやろう」と怒りスイッチ全開の模様です。ようやく事の重大さを理解した係員は「申し訳ありませんお客様」とひたすら平謝りです。しかし、こういったデリケートなことは謝られるとますます腹が立つのか、嫁さんからは殺気のオーラ―しか見えません。このままでは血を見るのじゃないかと危惧したわたくしは、係員のために体を張ったことを言ってやりました。「大丈夫、大丈夫、嫁さんのお腹の中にはうんちが詰まってるだけやから、気にすんなー」と、これぞ、ドラクエでいうところのメガンテであります。この捨身のわたくしの返しによって、係員は救われました。だが、それは怒りの矛先が係員から自分に向いたことを意味するのであります。「あんた、なにアホなこと言っとんねん」と嫁さんはその場でわたくしにスリーパーホールドですわ。遠のく意識の中で「なんでこうなるねん」思ったのはいうまでもありません。 ちゃんちゃん。