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カラスのカー君。

 わたくし、日頃の食生活の不摂生から生活習慣病である糖尿病を患っております。主治医からは一に運動、二に食事って言われておりまして、運動嫌いなのではありますが、少しでも血糖値を下げるべしだと一念発起し、半年ほど前から散歩を日課にすることにしたのであります。幸いなことに自宅が嵐山にほど近い桂川の堤防沿いにあるため、その堤防に設けられた自転車遊歩道を利用すると風光明媚な河川敷の景色を眺めながらの散歩コースになるわけなのです。ちょうど桂川にかかる松尾橋と嵐山の渡月橋を渡る形にすると一周5キロほどの周回コースというわけなんです。5キロって距離は、わたくしの足で早歩きすると1時間ぐらいですので運動時間的にも最適であります。てなことで、健康管理のために平日は出勤前、休日は時間が空いた時をめどに歩き始めたのです。

 わたくし、何事をするにも、まずは恰好から入るタイプですので運動用のシューズからジャージ、さらにランニングするわけでもないのに、GPSつきのスポーツウォッチと新調し、もはや三日坊主ではすまされない状態に自分を追い込みました。はたからみたら完全装備のベテランランナーって感じです。それと、糖尿病の薬を飲んでる都合上、低血糖になる恐れがあるので、朝食代わりににもなるスティックパンやおにぎりなどを持参して散歩途中にある公園などで食べるようにしました。

 散歩するようになってから分かったのですが、最近の健康志向ブームなのか、老若男女を問わず散歩やランニングをしてる人が平日の早朝にも関わらずほんとに多いのには驚きました。すれ違うたびに、全然面識のない方に「おはようございます」とあいさつされるとふだんから濁った心のわたくしでも清々しい気分になれるものです。小一時間ほど歩いて、公園のベンチに座りながら朝食を取っていると、「あぁー散歩っていいなぁ」と生きてる実感がわいてくるのでありました。そんな感じで、ようやく人様に「散歩が日課です」と言えるぐらい月日が経ったある日のこと。いつものように堤防沿いですれ違う巨乳ランナーの「ボイン、ボイン」と揺れている胸を目で追いながら至福の散歩を楽しんでいますと、堤防横の斜面にいる一羽のカラスに目がとまったのです。ふだんはその辺にいても眼中にないカラスなのですが、そのカラスは人目につく行動をとっていまして目についたのです。それは、くちばしに茎ごと黄色い花を咥えておりまして、フラメンコのダンサーのようにちょこちょこと短い脚で左右を移動しているのです。おそらく遊んでいるのでしょうけど、なんとも滑稽でしてつい観察してしまいたくなります。散歩の足をとめてカラスの動きを見てますと、今度はなんと、わたくしの目の前に飛んできて堤防の柵にちょこんととまったのです。そして「アー」鳴くと咥えていた花をわたくしに差し出すようにしたのです。こいつ、わたくしに「ご機嫌取っているのか?」と思うとなんともかわいく思えて、つい朝食用のパンをポイッとカラスの方に投げやってしまったのです。農作物を荒らし、生ごみを漁って人間から、どちらかというと嫌われてるカラスです。カラスの方も人間に嫌われてるのは百も承知のはずで向こうからわたくしに近づいてきたのは謎です。思い当たるとすると、カラスは真っ黒なジャージを着ている自分を仲間だと思ったのでしょうか? などと考えてみてもカラスに聞かないとわかりません。まぁ、とにもかくにも理由はともあれ野生の動物が自分になついてくれたのは悪い気がしなかったので、勝手にそいつをからすのカー君と命名してやったのです。だが、このカラスに餌をやってしまったという軽率な行為がこのあと、とんでもない事態になるとは思ってもおりませんでした。

 次の日、いつものように堤防沿いを散歩してますと、二匹のカラスが飛んできました。一匹は恐らく大きさからカー君です。いや、カラスなんて、どれもこれも一緒にみえますからカー君かどうかはわかりません。で、もう一匹はカー君の連れ合いなのでしょう。その日からカー子と名付けました。わざわざ、わたくしを見つけて飛んできてくれたのだと思い、その日もパンを上げて自己満足しながら帰路につきました。

 さらに次の日、堤防沿いを散歩してますと4匹のカラスが柵にとまって「アっ、アー」と餌を催促してきます。さらに増えた二匹をカー吉、カー坊と名付けました。ぶっちゃけ、どれが最初のカー君かもわかりません。4匹になった時点でいやな悪寒がしますが帰路につきました。そして、最初のカー君と遭遇してから一週間ちょいが経った休日。堤防沿いを歩いていると、わたくしの上空でカラスが飛びながら「アー、アー、アー」と激しく鳴く声が聞こえます。頭上を見ると数十匹のカラスがわたくしの真上を鳴きながら滑空しております。もはや、ヒッチコックの鳥状態。えさをやるにも、もはやコンビニで売ってる7本100円のスティックパンでは賄えない数です。10匹以上になった三日後以降から餌はやってないのですが、わたくしの黒ジャージ姿を覚えているのか、はたまた顔認識でもできる能力があるのか、自分を見つけると、そこらじゅうからカラスが飛んでくるのであります。もはや、わたくしのボキャブラリーでは名前もつきてしまう数です。しかも、そのカラス達、いやカラス群は餌を投げるまで、激しく鳴きながらついてくるのです。そのカラスにたかられるわたくしの姿は見た人達の反応は度胆を抜かれて茫然自失状態であります。すれちがいざまに「おはようございます」とあいさつする変わりに「え!? あぁ?」と自分の上空を指さして感嘆の声をあげられます。またランニングをしている巨乳ランナーも思わず足をとめるほどの状態でありますわ。まさに、事情を知らない人からしたら、水木しげるもびっくりの鬼太郎がカラスを使って飛んでるような有様でございます。

 結局、散歩を数か月やめる事態になりもうしたでござる。そして、いまだにカラスを見ると恐怖を覚えるこのごろであります。チャンチャン。 みなさん、安易に野生動物に餌付けしないようにしましょうね。

PS、カラスは非常に頭のいい動物です。それは、鳥類の中では飛びぬけて脳が大きいことに関係していて知能は犬や猫以上とも言われております。また、カラスには天敵がほぼいない(鷹や鷲などの猛禽類が天敵ですが、都会にはいません)ので餌がある間は増え続けます。ですが、自然界は厳しく食物がほぼなくなる冬場を超えれるカラスは少ないらしく、カラスの死因の第一位は餓死なんだそうです。ってことで最後までお読みいただきありがとうございました。

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