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魔法使いと侍女の物語  作者: にしのかなで
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新婚の魔法使い

祝宴はオブリー邸で行われた。白い花嫁衣装から淡い水色のカクテルドレスに着替えたカリンは女性陣に囲まれ初夜の心得を受けていた。


「いい?緊張するだろうけど心配しないで、旦那様の言う通りにしていればいいからね。」


「大丈夫よ、ルディは優しいしカリンにはベタ惚れだから乱暴なことはしないわ。」


「そうそう。」


「うわ〜、カリンも人妻かぁ。ね、どうだったか教えてね⁉︎」


まだ成年したばかりの友人が騒ぐ。

モソモソとあまり喉を通らない食事をしながらカリンはさて、なんとな〜く友人達から聞いてはいるが花嫁の最初の仕事とも言えるこの「初夜」とやらはこれ以上あまり深く聞かずにルディに任せるのが一番だと考えながら緊張していた。


一方、男性陣は昨日に続き上機嫌で飲んでいる。


「なあなあ、ハース秘書官殿。この魔法師さんの新婚休暇は何日もらえるの?」


「あのぉ、それがですね。明日から魔法省の方にしばらく籠って頂くことになってまして・・・」


「はっ⁉︎マジで‼︎」


「ああ、そうでしたね・・・アレックス王子の魔具を新しく作らなきゃいけないんです。」


ルディが遠い目をして力なく言う。それに被さるようにオブリーが


「そうだった・・・私も明日から警備の結界強化をするのでしばらく帰りが遅いかも。」


魔法師達のスケジュールを聞き少尉が憤る。


「ちょっと!新妻放っといてそんなんでいいわけ?」


「よかないですよ。でも、結婚自体が急でしたから仕方ないです。」


「帰れ」


「は?」


「明日からしばらく会えないんだろう?やっと自分の嫁さんにしたんだ今日はもう帰って少しでも長く一緒にいないと。」


既に目の座っている少尉の提案にそれもそうだと、オブリー達もうんうんと頷く。結局ルディはその場から放り出され湯浴みして待ってろと、少尉の言う事を聞く事になる。そのころ女性陣も動きがあった。ルディの予定をオブリーが伝えてきたのだ。アナスタシアが慌てて公爵家から借り出している侍女に命じてこちらも再び磨き上げられる。


ああ・・・お嫁さんって大変、と思いながら言われるがままなすがままに身を任せる。そして、フェンリルが用意しておいたワンピースを身に付け新しい夜着と明日朝の朝食を持たされ女性陣にそっと送り出される。アナスタシアの作った明かりを持ちフェンリルが家まで送って行く。


「フェンリルさん、これからもお世話になりますが今までたくさんの事を教えていただきありがとうございました。感謝しています。」


歩きながらカリンが謝辞を述べるとフェンリルが馬鹿ねぇ、それじゃなんだか私があなたのお母さんみたいじゃないといいながらガウス家の門の前で振り返りカリンを優しく抱きしめる。


「おめでとう、カリン。皆があなた達を祝福してるわ、あなたは長い間ルディ様専属侍女だったから夫婦になると今までと勝手違って戸惑うことがたくさんあるだろうし、あの方はお忙しい方だから寂しい思いもすると思う。もちろん、喧嘩だってね。だけど色んな事を積み重ねて夫婦になっていくの、どちらかが我慢してればいいってもんじゃないのよ。カリンはすぐ我慢して他人を優先するからそれだけが心配、寂しい時は寂しいってちゃんと伝えるのよ!さ、ルディ様が待ってるから今夜は二人きりでゆっくりしなさい。何も心配いらないわ。」


カリンはフェンリルをぎゅうっと抱き締め返した。


「ありがとうフェンリルさん。おやすみなさい。」


「おやすみ、カリン」


フェンリルと別れふぅーっと息を吐き門を開ける、玄関までのアプローチに等間隔に魔法で明かりが灯されているのを綺麗だなとながめながら玄関をガチャリと開けて鍵を締める。


「おかえり、カリン。飲み物を持って行くから先に上がっといて。」


台所でルディが言う。


「あ、はい。」


階段を上がり自分の部屋に入り夜着に着替えてからさて、ルディの部屋に行けばいいのかしらと考えていると廊下から


「カリーン、ごめんドア開けて。」


と、声がかかる。慌てて廊下に出るとルディが自分の部屋を頭で指す。はいはい!と、ドアを開けると普段はしない香の匂いがした。そしておそらく公爵家の侍女達がセッティングしたであろういつもと違うルディの寝室。途端に緊張感が増す。


「はい、どうぞ」


と、カップを渡されとりあえず手近な椅子に腰掛けるとルディはカップを片手に部屋のカーテンを閉め飲み干したカップを魔法で消すとカリンに近づき手を取る。


「カリン、今日すごく綺麗だった。」


「あ、ありがとうございます。」


「でね、話があるんだけど」


と、ベッドの上にカリンを座らせる。


「あの、お話って・・・」


明日からしばらく帰れない事、それが終わっても王子の生誕一周年の祝いまで殆ど休みのない事など仕事のスケジュールを報告しながらルディが欠伸をする。ああ、色々あってお疲れなんだわと思ったら不意にカリンを抱き締めると小さな唇に二度目の、今度はしっかりと唇を落とし


「やっと、僕だけのものになった」


そういうと糸の切れた人形のようにカリンを抱いたままベッドに倒れ込み


「あぁ、少尉め・・・」


と、何やら少尉に文句を呟き何とか開いた瞳でカリンを見つめ頬を撫で


「でも、僕の奥さんだ・・・」


と、そこまで頑張って寝息をたて始めた。そういえば、香の匂いに紛れていたがと近づくとアルコールの匂いがする。少尉はザルだがルディもそれほど弱くはない、そこを皆にいいように飲まされたのだろう。カリンはなんとか腕から抜け出し上掛けを二人で被る。


「ふ、ふふ。なんなのこれっ!」


おかしいのとちょっと残念なような腹が立つような気持ちでルディの髪を撫でつける。多分、明朝一番慌てるのは彼だろうその様子を想像するのも面白かった。

明日からしばらく帰れない・・・か。うーん、この埋め合わせはどうしてもらおうか。そう考えるうちにカリンも疲労から眠りに落ちた。明日の朝食の心配もないのだ、フェンリルさんの言う通りゆっくりしよう。翌朝、目覚めた魔法師は隣で眠る新妻をみて真っ青になった。気配でカリンも目が覚める。


「あ、おはようございますルディ様。」


「お、おはようカリン」


カリンはスルリとベッドを抜け降り着替えてきますねと消えて行った。そして二人はいつものように朝食を取りルディはいつも通りカリンの笑顔に見送られ出勤する。王宮についてまず少尉が待ってましたと、声をかけてきた。


「よ!新婚さん。どうよ、しっかり別れを惜しんだかい?」


朝から明るく話しかける少尉に対し、ああ殺意とはもしやこういう感情なのか?と、自問しながらズイと少尉に近付くと杖を出し詠唱なしに魔法をかけた。


「え、え?なにいまのっ⁉︎」


無言で立ち去る魔法師に問いかけるが答えはない。その日から不機嫌な魔法師にかけられた魔法で少尉の身に何かしらの小さな不幸が重なる嫌がらせが続いた。


「「「ええぇっ⁉︎」」」


「誰よ、大事な日にそんなに飲ませたの!」


「多分、うちの馬鹿亭主だと思う・・・ごめんカリン‼︎」


「いえ、うちの旦那も結構飲ませてました、でもまさかそこまでとは・・・」


三人の先輩人妻に散々謝られ慰められながらも、カリンは


「いえいえ私は大丈夫ですが皆さんのご主人様に何かあれば言ってくださいね、多分ルディ様が一番ショック受けてますから何するかわかりませんので・・・。」


途端に三人は顔色が変わった。カリンに執着し、やっと手に入れたのに何事もなく朝を迎えたルディの心中は手に取るように解った。


「私はいつまでもお待ちできますから。」


と、天真爛漫な笑顔で言うカリンに三人の夫人はいや、あなたの旦那は待てないから・・・とは言えなかった。そうして二人が正式な夫婦になるのはまだもう少し後のお話し。


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