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魔法使いと侍女の物語  作者: にしのかなで
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いきなりですか!

成年の儀の後、教会に話をつけに行った少尉は満面の笑顔で帰ってきた。


「明日ーーっ⁉︎」


「ええぇっ!こ、心の準備が・・・」


「だってさ、これから忙しくなるんだろ?なら式と籍だけはすませちゃえよ。うちも、オブリー伯もそのうち家族が増えて構ってやれなくなる時期がくるだろうし、披露宴はルディの仕事が落ち着いてからにすればいいと思うんだよね。な、ハース秘書官ルディの予定ってどうなってんの?」


「少尉の仰る通り、この時期を逃せばあと一年はなんやかんやで忙しいですね。僕も賛成です。」


「私達もいいんじゃない?って思うわ。実はね、フェンリルが三人目がお腹にいるんですってだから式だけでもやりましょうよ。」


「でも、そうだカリン!君はどうなのさ⁈」


唖然とした表情でいるカリンに声をかける。婚約も突然だった、それに式までやっつけ仕事のようにするのはやはりショックだろう。まだ衝撃を受けているカリンの目の前で手をひらひらさせる。


「おーい、カリン?カリ・・・え?ちょ、カリン⁈」


やっと瞬きをしたかと思うと彼女の纏う空気が違う・・・これはもしや・・・。


「相変わらずうるさいな、魔法師よ。」


「え・・・ハプトマン様ですか?」


「娘はいまハーヴェイ神と話している。結論から言おう、明朝そなたとカリンの婚儀を執り行う。ところで魔法師、」


そう言ってカリンに降りてきたハプトマン女神はルディを見据えた。


「長きに渡り娘を護り寄り添ってくれたことをコレの両親が感謝している。あの二人には可哀想だがこの先も娘ともお互いとも顔を合わすことは禁じている。だが、それを承知でコレの母は娘を産み出した。常世の世界で幸せになることを祈ってな。お前はなかなか責任が重いが任せて大丈夫か?」


ルディは迷わず答えた。


「大丈夫です。これまで以上に大切にします。あの!彼女のご両親にはお伝え願えますか?」


「なんと?」


「カリンを産んでくださりありがとうございますと。」


ふわりとカリンに重なりハプトマン女神が微笑んだ。


「よかろう、特別に伝えておいてやる。」


ホッと息を付くとカリンが正気に戻った。


「よかった、カリン!今ハプトマン様が・・・カリン?」


ポロポロと涙を流す婚約者を見てルディだけではなく周りも狼狽える。まさか、ハーヴェイ神には反対されたとか⁉︎


「お、父さんとおか、お母さんを遠くから見せて頂きました・・・っわた、私のせいで会えなくなっているのにっふ、二人には繋がりが見えました、それで、それで・・・私の事を愛してるっていつも考えているってっ・・・‼︎」


ルディがカリンを抱きしめる良かったね良かったと繰り返し囁く。周りのものは目の前の女神の降臨やカリンの見てきた話しに驚きながらも皆、優しい穏やかな気持ちになっていた。


「すみません、皆さん。ちょっとカリンを休ませてきます。」


「ええ、落ち着くまで側に居てあげて。ここは片付けておくから。」


すみませんと言いながらカリンを抱き上げ家の中に入る後ろ姿を見送ってアナスタシアが涙を拭いながらさあ、明日の準備をしなくっちゃと先頭を切って立ち上がる。それに続き皆がそれぞれ腰を上げ片付けを始める。料理は全て公爵家からなのでオブリーが魔法で片付けたあと、お家までの魔法だよとフェンリルの娘二人に小さな灯りを出して渡す。二人は喜びはしゃぎながら帰って行った。


「さあ、ヤン!明日はしっかり頼むわよ今日はこれ以上飲まないで。」


と、妻に釘を刺されまた明日とヴィグリー夫妻も帰りそれに続き最後にオブリー夫妻がガウス家を後にする。


「大変、使い魔をどれだけ飛ばせばいいかしら?」


「とりあえず、公爵家とガウス夫妻にはもう出さなきゃな。それっ」


オブリーが杖を振るとフクロウが二羽飛び立った。穏やかな気持ちで皆が帰った後、ガウス家の居間ではルディが用意したお茶をカリンが飲んでいた。隣に座るルディに緊張しながらも問いかける。


「あ、あの結局明日のお話はどうなりましたか?」


「ん?ああ、君がハーヴェイ様と話している間にハプトマン様が君に降りてきてね、明朝10時・立会人はヴィグリー夫妻だよ。」


「ええっ!き、決まっちゃったんですか⁉︎」


「うん、ごめんいつも急で。でもさ、ハース秘書官が把握してる予定通りこの先忙しくなるんだよね。それに婚約したからって安心して放っておくって、言い方悪いけどまぁそうなったら君を不安で辛い思いをさせると思うんだ。それなら僕も他の男に横取りされるのは嫌だし、長い間独りにさせるにも婚約者と奥さんじゃ結構違いがあると思ってさ・・・君の思い描いた式とは違うかもしれないけど・・・」


「いいえ!私はルディ様がそれを望むならついて行きます。ただ、なんていうかあまりに急展開でまだ心の準備もできてないのがちょっと・・・不安です。」


声が小さくなったカリンの肩を抱き寄せ自分にもたれかけさせる。


「うん、正直僕も不安だよ。でも、今日ハプトマン様に誓ったんだ君をこれまで以上に大切にするって。」


「・・・はい。」


「じゃあ、今日はもう寝ようか。


「///」


「え?ど、どうしたの赤いよ?熱かな。」


ルディが額に冷たい手を置くとますますカリンが赤くなる。


「あ、あのっ!明日はお式を挙げるんですよね?」


「うん。」


「そ、それって夫婦の誓いを立てるんですよね?」


「だね。」


ああ、もうこの人は肝心なとこで落ち着いてんだが気づいてないんだが・・・。


「あの・・・「カリン」・・は、い。」


「怖い?」


俯いて頭を横に降る。すぐにそのままルディの胸に抱き締められた。


「無理はしなくていいから。僕は待つからさ、君はいつも通りにしていてよ。」


「はい。」


「じゃあ、休もう。」


「はい、戸締り確認してきます。」


「僕は裏を見てくるよ。」


それぞれ異常なしということでお互いの寝室の前で独身最後のおやすみの挨拶を交わし、ベッドに潜り込んだ。カリンはハプトマン女神の降臨もあり疲れていてすぐに眠りに落ちた。一方癖っ毛の魔法師はベッドのサイドテーブルから小さな箱を取り出し中を確認しテーブルの上に置き明日に備え眠りに入った。翌朝早くに起きたカリンはルディのための湯浴みの準備をしていた。そこへアナスタシアとフェンリルがやって来る。


「ああ!やっぱりっ。あなたね、今日の主役はそんな事しないの!さ、昨日のベールはどこ?」


カリンの手を引きズカズカと二階に上がると彼女の部屋に入る。フェンリルがベールを見つけカリンに新しい下着と一緒に持ってくるよう指示し、そのままルディの部屋をノックする。


「ルディさま〜、おはようございます。カリンはオブリー邸で準備します、湯浴みはお一人でされるのがよろしいんですよね?あの、後でオブリー伯がいらっしゃいますので用意なさっておいてください!」


ドアが開きルディが顔を出す。着替えてはいるが癖毛に寝ぐせがつきフェンリル達の予想通りの姿だった。その姿にため息をつき湯浴みをしたら後はオブリー伯に任せてと言いアナスタシアと二人でカリンを連れ去って行った。うわ、今日も僕のために湯浴みの用意をしていてくれたのかとカリンに申し訳なく思いながら慌てて下に降りると既にオブリー伯どころか養父母まで来ていた。そして花婿のための準備が始まる。一方連れ去られたカリンはオブリー家で公爵家から来た侍女に念入りに磨き上げられ王太子妃考案特製の香油で、乾かした髪を丹念に梳いたあと丁寧に髪を結い上げられていく。それが終われば顔に化粧が施され段々と鏡の中の自分が別人に見え始めてきた。


「さあ、カリン。王太子ご夫妻からのお祝いよ。」


アナスタシアが見せたのは真っ白な花嫁衣装だった。妃殿下がカリンのためにデザインしてくれたのてあろうシンプルでそれでいて華のあるドレスはカリンにピッタリだった。そして揃いの白い靴を履きオブリー邸の客間に控える。そこには公爵夫人と参列出来ない宰相の代わりにアーウィン執事がいた。


「奥様・・・今日はこんなにしていただいて。」


「いいのよ、カリン。うちの使用人は家族も一緒。出来ることは皆にしているのよ、遠慮しないで。」


四人の子を産んだとは思えない可憐さの残る笑顔でカリンに祝福を述べる。そこへ自身も着替えたフェンリルがルディが教会に入ったと知らせに来る、参列者達はでは自分達もと出かけようとする。


「え?あっ、あの私はどうすれば?」


アナスタシアが振り返った。


「あらやだ、言い忘れてたわ。あなたは最後にエスコートしてくださる方がいるからもう少し後でね。」


去って行くアナスタシアを見送りながら小首を傾げる。


エスコート?誰が⁉︎


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