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魔法使いと侍女の物語  作者: にしのかなで
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カリンの成年の儀

秋が来てアナスタシアとイェンナの調子も順調で、王子アレクサンデルは首も座り王宮のバルコニーからの国民へのお披露目が控えていた。

成年の儀に必要なもは何かとカリンはパン屋の娘マリーに相談に行くことにした、マリーは同い年で話も合う。お互い家の仕事で忙しくなかなかゆっくり話せないが、カリンにとって同年代の貴重な友人の一人だと思っている。


「まずね、その日の朝は薄いクッキーみたいなものを焼いて食べるのよ、これは焼かなくても売っているから。あと朝飲んでいいのはお水だけ、それから親戚や近所の人が麦の穂を一房ずつ贈ってくれるの。で、8時には教会に行って頂いた麦を神様に捧げるのね。それから司祭様のお話を聞いて皆で並んで一人ずつ司祭様の祝福を受けて葡萄酒を一口飲むのよ。あ、服装は白っぽいもので、大体みんな真っ白や生成りのワンピースが多いわね。で、ベールは編んだのよね?後は・・・そうだ!サンダルは持ってる?やっぱり白いのだけど一緒に買いに行く?」


コクコクと頷いて二人は街にでた。儀式の後は収穫祭が始まって賑やかになるでしょ?食べ物を持ち寄ったり作ったりしてみんなで囲むのよ、とマリーが話す。


「カリンは不思議ね、親も親類もいないのにたくさんの人に好かれてるわ。そうそう、あなたの婚約を聞いて泣いた男は何人もいるんだから。」


「やだ、マリーったら。そんなことないでしょう?私、親しい男の人はいなかったわよ。」


「・・・ホンットその辺疎いわよねぇ。いい?街で挨拶をかわすでしょ、買い物でお店の人と話すでしょ?そんな人たちがこぞって成年の儀の後告白をするために順番争いまでしてたのよ。」


「まっさかぁ〜」


ケラケラと笑うカリンは以前にもまして綺麗になった。


「もぉ、ホントだってば!酒屋のルイーズも言ってたもの、ヤケ酒飲みに来る客が多くてお陰で繁盛したって。」


ふふふ、とカリンが笑う。


「なあに?」


「マリーだって好きな人がいるんでしょう?マリーの人気もなかなかだからルイーズはまた繁盛して喜ぶわね。」


「んもぉっ///」


きゃあきゃあとはしゃぎながら街を歩く二人はいたって普通の娘だった。婚約式をあの後改めて慎ましく行ない晴れて侍女ではない普通の娘になったカリンは時々こうして街に出てマリーを通じて増えていく友人達と交流をする。それはルディが望んだことだった。若くして人妻になれば同じ年頃の娘と同じようにはいかない。家庭を守る義務が生じてくる。それでなくとも今まで侍女として働いてきたのだ、婚礼までは自由に過ごして欲しかった。


そして、成年の儀の朝が来た。

朝早く起き出したカリンはまず身体を清め髪に香油をつけ簡単に結い上げてみるが、王宮に招かれた時より伸びた真っ直ぐでサラサラの髪はなかなかうまくまとまらない。そこへフェンリルが訪ねてきた。長年の付き合いで困っているだろうと髪を綺麗に結い上げお祝いだからと髪飾りをつけてくれた。それから一本目の麦の穂を渡すとカリンがマリーに習った焼き菓子のようなものを作り始め、フェンリルはルディの朝食を手伝ってくれた。その間に起きてきた主がフェンリルに礼を言っていると外が騒がしくなり窓から覗くと新しいガーデンテーブルが運び込まれている、家具職人のフェンリルの夫からの贈り物だった。騒ぎ声は小さな姉妹で庭の芝生の上を走り回っている。そうして小さな叫び声が笑い声に変わるとヴィグリー夫妻が訪ねてきた、少尉が小さな妹の方を抱き上げ姉のセシーはイェンナのお腹を撫でて話しかけている。オブリー夫妻が麦の穂を職場や公爵家から預かった分もあると大量の束を持ってきた。ハース秘書官がわざわざ駆け付け彼と彼の母からだと麦の穂を渡す。それからこれをと王太子夫妻からの祝いの手紙と麦の穂がやはり渡された。そうしているうちに焼き菓子が焼き上がり三枚を食べ残りは客人に振る舞う、コップ一杯の水を飲んだところにマリーが呼びに来た。


「カリンそれ持ち切れるの?」


と、心配されるくらいの麦の量だがそれでも一人で持って行くのが習わしだ。魔法省職員からもいくつか届いているので確かに量が多い、それでもカリンはハース秘書官に上手い束ね方を習い麦の重さの分皆の気持ちを抱きながら教会へと運んだ。入り口にはヨハンナ・ベルがいて祝福してくれた。ようやく正面に立つハーヴェイ神の像の前に麦を降ろしマリーと席に着く。その姿をチラチラと振り返り見る少年らがいたが入口付近にルディの姿を見つけると慌てて前を向いた。


儀式は静かに厳かに執り行われ最後の葡萄酒を一口飲み干すと目の前に笑っている少年姿のハーヴェイ神を見た気がした。飲み干したものから順に教会を出て家路に着く。


「カリン、今日は何にもしないでいいから。私たちに任せておいて。」


アナスタシアの言う通り帰ると既に屋内外に祝いの準備ができていた。料理は公爵家からの贈り物で、飾りなどはオブリーの魔法によるものだった。


賑やかな祝宴の席でカリンが嬉しそうに笑っている。それを見ているだけでルディも幸せだった。


「で、ルディ結婚式はいつなんだ?」


小さな姉妹をあやしながら少尉が聞いてくる。実は今ルディの頭を悩ませているのはそのことだった。


「それが、アレクッス王子のお披露目があるでしょう?その管理者なのでしばらく魔法省に詰めなきゃいけないんですよ。その後は冬の成年の儀に備えないといけないし。」


「えー、おいおいその間カリンちゃんは放ったらかしかい?」


「ん〜、悩みどころなんですよね。なにせアレックス王子の身の安全第一ですから仕事上。それに僕、昇任試験も受けなきゃいけないんですよ。これはカリンのためですけど、特Aランクになっておけば爵位は拝命しないでも同等に近く扱われるのでどうしても社交の場に出る場合や長期留守にする場合の家族への警護がついたりするそうなんです。」


「そりゃ、いつになるかわかんねーな。」


「はは、ですね。」


「あの子、知ってんの?」


「もちろん。」


「魔法師ってさ、婚礼の日取りの許可とかいるの?」


「いえ、籍だけいれるカップルもいますし比較的に自由ですよ。」


「ならさっさとやっちゃえよ、あーもーじれったいなぁ。」


「ん〜、まぁ彼女の意思もあるだろうし。」


そこで膝の上に乗せていたちびっ子をルディに渡すと少尉はカリンに近づいて行き、隣に座り話し込み始めるカリンは赤くなったり笑ったりしながら最後は何やら頷いている。


「え、ちょっなに納得させてんの?」


慌てて姉妹を降ろしカリンの側に行く。


「カリン⁉︎なに話してたのさ?」


「あ、えとですね婚礼は派手がいいか地味がいいかとかいつ頃までにしたいかとか指輪は貰ったかとか、あと立会人を少尉ご夫妻がなさりたいそうで私は異存ありませんが後はルディ様に聞いてくださいって。」


「花嫁さんは婚礼は地味でいいって、場所もこの町の教会で。まあ仕事もあるだろうから春までにできればいいかなぁってさ。で、収穫祭のこの時期俺たちも休みじゃん?いきなりだけど明日やっちゃったら?な!皆さん。どう思う⁈」


「やっちゃえやっちゃえ!」


「早い方がいいわよっ」


「放っとくと他所の男に取られるぞ、今日も何人もカリンを見てたからな〜。」


皆が口々に勝手な事を言う。確かに男たちはカリンを見ていた・・・。思い返していると少尉がじゃ、ちょっくら教会にお伺いしてくるわとヒョイと垣根を越えて消えて行った。


程なくして帰ってきた彼はニカッと笑い


「明日朝10時ね。」


と、言ってのけた。


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