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魔法使いと侍女の物語  作者: にしのかなで
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花の祝福

ーカリンの場合ー

ーあれから涙が止まるまでルディ様が頬を伝う涙を唇で受け止めた。私は恥ずかしくて恥ずかしくて、でも嬉しくてなかなか涙が止まらなかった。これからどうなるんだろう?今朝出勤するルディ様を見送ってからソファに座り込んで考えた。本当は私もきっとずっと胸に秘めていて、蓋をして見ないふりをしてきた。だって、あの方は私のご主人様で私は侍女だから。だからずっと侍女としてお側でお仕えできるならそれでよかったのに。ー


頬が熱くなるのを感じて両手で押さえる。


ー普通なら男性が女性のお家を訪ねてご両親に挨拶をする・・・らしい、オブリーさんもそうしていた。でも私は親がいないからそこはどなたに・・・ああ、ハプトマン女神様だ。私をこの世に産み出す事を了承してくださって今でも両親を側に置いて下さっている。カリンはそれからレース編みに集中した、とにかく成年の儀を無事終えなければ。ー



ールディの場合ー

ー今朝起きて家を出るまで、全くいつもと変わりなかった。だけど二人は昨日までとは確実に違う。主従の関係が終わるのだ。本当は僕という籠の中から出して自由にさせたかった。そうするべきだと思っていた、だって彼女はなんでもできるからきっと素敵な妻になり母になるだろうと。そのためには僕では叶えられない事があるからだからずっと気持ちに蓋をして封印していたのに、彼女はその封印を意図もたやすく破る。真っ直ぐに見つめてくるあの子を見ていたらもう、誰にも渡したくなくなっていた。昨日少しだけ触れた柔らかい唇の感触が残っていて僕は早く秋になればいいのにと、ぼんやり窓の外を見ていた。・・・あれ?この事って、彼女の場合やっぱりハプトマン女神にお許しをいただかなきゃいけないのかな・・・。後見人の僕が外れたら彼女の親代わりはやっぱり神殿?えーっ、なんか手強そうアレコレ言われそう。

でも、何を言われても誰がなんと言おうとも僕は彼女を必ず幸せにする。望むもの全てはあげられないかもしれないけれど、僕らは必ず幸せになる。ー


ーそれからー

「お帰りなさいませ。」


カリンがいつものお仕着せを着て出迎える。ルディは明日休みをもらったからちょっと一緒に出かけたいんだけどと話す。


「神殿に行こうと思うんだ。君の事はハプトマン女神に報告をしなきゃいけないと思って。どう思う?」


「私も今日考えていました。やっぱりハプトマン様ですよね。」


ー次の日ー

ルディは魔法師の正装を着用し、カリンは淡い水色のワンピースを着て二人で国で一番大きな神殿に向かった。昨日のうちに神官に事情を説明し高位の神官と巫女が待っていた。


「あなた方なら私ども無しでお呼びできるのでは?」


と、言われたが振り返って考えるといつも向こうから突然現れるのでやはり呼び出してもらわなければならない。


「では、まずこちらに来ていただけるかお聞きしますね。」


神殿の中にあるハプトマン女神像の間で神官と巫女が祈りを捧げる。その両脇に最高位の神官と巫女が立ち神の声を聞く。


「これはこれは・・・」


「初めてですわ、こんなこと。」


二人が何だろうと顔を見合わせた時その間に花弁が舞い落ちてきた。見たことのない雪の結晶にも似た花弁が宙から何枚も何枚も舞い落ちては触れると消える。いつかもこんな事があったようなと、記憶を辿っていれば目の前の神殿に仕える二人以外もハプトマンの間に集まりこの奇跡に驚いている。


「おめでとうございます。ハプトマン女神からの祝福だそうですよ。あなた方の婚約は認められました。」


カリンが、舞い降りる花弁を見上げて涙を一筋流し呟く。


「ありがとうございます、ハプトマン様。・・・お父さん、お母さんありがとう。」


その場に居合わせた神官や巫女達からも祝福の声をかけられる。ルディは女神像に向かい魔法師の礼に則って感謝を述べる。


「我ニーム・ロドリゲス・ガウスはハプトマン女神の愛し子アレクシア・カーテローゼ・ハプトマンを生涯の伴侶としたく、ハプトマン女神より只今お許しを頂きこれよりこの娘を婚約者とし婚礼の儀まで慈しみ、婚礼において生涯の伴侶なり愛し護り抜く事をここに誓います。」


その誓いのあと更に色とりどりの花弁が降りしきる。


「思いがけず婚約式となりましたね。」


年配の最高位神官が言葉をかける。そして二人に祝福の言葉を続けた。


「国家魔法魔術技師ニーム・ロドリゲス・ガウス、アレクシア・カーテローゼ・ハプトマンの婚約の誓いを見届けこれより二人を婚約者としてハプトマン神殿の者が認める。おめでとうございます、お幸せに。」


「「ありがとうございます。」」


花弁は二人がハプトマンの間を出るまで降りしきるとふわりと消え去った。


その後二人は公爵家に挨拶に向かう。主は宰相の身分で留守をしているが二人を引き合わせた公爵夫人と側にいたアーウィン執事に報告をすると二人とも大層喜び、夫人はカリンを抱きしめ執事はそっと涙を拭った。後は魔法省に届けを出さなければいけないがこれは後日ルディが手続きをする。そしてオルボアに帰るとまずオブリー邸のアナスタシアに報告に行く。随分調子が落ち着いてきたらしく顔色良く迎えた彼女は、その話の内容に歓喜し側にいたフェンリルと手を取り合いもう婚礼の事を話し始めている。そして最後にヴィグリー家に向かいイェンナに報告する。少し膨らみ始めたお腹のイェンナは心から喜びカリンを抱きしめ異国の言葉を耳元で囁く。バルト族の古い言葉で「おめでとう、幸せに」と、いう意味だと説明してくれた。彼女らの夫には明日報告するつもりだったが今日中には知れてしまうな、直接言わずに失礼だったかなとルディは心配したが両家の妻はそんなことを気にする夫ではないが今夜は飲みに誘われるかもしれないから覚悟するよう釘を刺される。そして家に帰ろうとするルディをカリンが引き止めた。


「大切な方に報告をしていません。」


二人は今、教会の裏手の慰霊碑の前にいた。途中、カリンが花を買いに寄ったのはこのためかと思うとその気遣いにますます愛おしくなる。


「ルディ様のお父様お母様、アレクシア・カーテローゼ・ハプトマンです。今日、ルディ様の婚約者になりました。ルディ様を産んでくださりありがとうございます。これからも私たちを見守ってくださいませ。」


そう言って静かに祈る。ルディも瞳を閉じ祈った、魔力持ちの子どもでも病にはかかる。我が子に病が及ばぬよう努力し、先に逝ってしまった実親に感謝をして。


「・・・あ・・・」


「どうなさいましたか?」


「いや、養父母にまだ報告してないや。」


「そうでした!そ、それはいけません。すぐ魔法省へ行ってください!」


「え、でも君一人にできないよ。」


「いいから、早くっ。私はご馳走を作りながら待っています。」


「ごめん、じゃあ行ってくるよ。あ!あとカリン。」


「はい?」


「お仕着せはもう着なくていいから。」


ポカンとした顔でカリンは固まってしまった。


「そ、そうですね。わかりました、ではいってらっしゃいませ。」


笑って見送られ移動魔法で魔法省へ行く。養父母に面会を求めると同時に魔法師の婚約者登録を済ませる。事務所の中にいる学校の同期らに冷やかされ祝福されながら養父母の元に向かう。案の定、順番が遅いっ!と叱られながらもやっと認めたかだのやれやれ落ち着いただの散々言われ、最後におめでとう幸せになるんだよと養母に抱かれる。いつの間に養母の背丈を追い越したんだろうとぼんやり考えながらありがとうとこたえる。


「正式な婚約のお披露目をささやかでいいからやるんだよ。あと、一緒に住んでいても婚礼までカリンに手出ししたらダメだからね!」


「し、しませんよっ!」


じゃあ早く帰ってあげなさいと言われまた移動魔法で自宅前に帰る。何もかもが始まった産まれた家に。


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