それが君の決めたことなら
王太子と別れルディの元に帰る途中何人かにダンスを申し込まれなかなか足が進めなくなった。
「あの、お申し出は嬉しいのですが少し疲れてしまいまして。申し訳・・・」
「へぇ、王太子殿下とは踊るのに私達下々の貴族なんか相手に出来ないってことかしら?」
「何だよ、知ってるぞたかが侍女風情で。」
気づくと周りを悪意に囲まれていた。
(大丈夫、君は僕の最高のパートナーだから自信をもっていればいい)
俯きかけた顔をしっかりと上げきっぱりという。
「はい。私は普段はたかが侍女の身分ですが、今日はガウス国家魔法魔術技師の正式なパートナーとして国王陛下よりお招きいただいております。今の私を愚弄することは私をお招きになられた国王陛下及びガウス国家魔法魔術技師を愚弄することと同じかと思われますが?」
一瞬彼等は怯んだがすぐにまた意地の悪い事を言い始める。
「まぁ、どうやって王家の方やガウス魔法師をたらしこんだのかしら?お生まれも定かではないようですし、やはり育ちが違うと気に入られるよう必死だったんじゃなくて?」
「公爵家がどこかの貴族が遊びで産ませた子どもを引き取ったとも聞いたぞ。」
「あら、私は公爵夫人が歓楽街に捨ててあった子どもを哀れに思われて引き取られたと聞きましたわ。」
カリンは何を言われても耐えた。ここで言いたい事はあるが、何を言っても無駄であるし何より自分の大切な人達に迷惑をかけてしまう。すると、それまで散々喋っていた貴族の子女らが顔色を変えて口をつぐんだ。カリンの後ろには宰相とオーランドがそして、カリンの正面から口さがない社交デビューしたばかりの男女をかき分けルディが真っ直ぐ手を伸ばしてきた。
ルディはそのままカリンの肩を抱くと冷たい視線で周囲を見据えた。
「皆さん、本日は成年の儀おめでとうございます。ところで私のパートナーが何か失礼でも?」
「え、いえそのダンスを申し込もうとしただけです。」
「ええ、そうですわ。私達も仲良くなりたいと思いましてお話をしておりましたの。」
白々しく嘘を並べる若い男女の悪意にウンザリしながらも、表面は穏やかに微笑みながら告げる。
「生憎、彼女はこういった場に不慣れでして今日はダンスも緊張してあなた方に恥を欠かせてしまうかも知れませんので、殿下とのダンスの後はすぐに戻るよう言いつけておりました。せっかくの申し込みをお断りしご気分を害したこと私からもお詫び申し上げます。」
「いや、ルディ。そんな生易しい言葉など要らん。ウィレム!近衛兵を呼んでこい、ここに王家と公爵家に不敬な者がいる。」
彼らは既にオブリーの魔法により動けなくさせられていた。
「私も確かに聞いた。君らは別室で取り調べだ、親子共々にな。成年になったということはその言動にも気をつけねばならん。先ほどの発言、第二王子として王家を代表し捨て置けん。」
「宰相様!オーランド殿下っ、私は平気ですどうかこの方達をお許し下さい。」
事が大きくなり慌ててカリンが頼み込む。
「ルディ、カリンを連れて席に戻れ。カリン、大人になるという事は自身の行動発言に責任を伴うことだ。お前が心配することはない。」
「ですが・・・」
「宰相、殿下。私からもお願いいたします。この場でカリンに謝罪することで彼らを許してやっていただけませんか?せっかくの晴の日です、彼らの家族も心配しているようですし。」
「ふ〜、甘いなルディ。」
「いやいや宰相、彼最高潮に怒ってますよ。」
「あ、そうか。お前の怒りはわかりにくいな。さてと、じゃあこの国一怒らせてはマズイと王太子殿下に言わしめたこの娘を愚弄した罪はそれ以上に恐ろしい魔法師に任せるか。」
「ルディ、程々にね。じゃ、君らも口には気をつけるんだよ紳士淑女なんだから。あ、ついでにいうともう君らの事は記録済みだからね。」
宰相とオーランドが去って行くと同時に魔法が解け彼らは身体の自由を取り戻したがそれでもその場で足がすくんで動けずにいる。国一番の魔法師がこの上なく冷たい視線で見ているのだ。
「行こうか?カリン」
「はい。」
謝罪をさせる隙も与えずに、ルディはカリンを連れ出しダンスの輪に入った。そして二人は会場の誰よりも華麗に優美に軽やかなステップを踏む。ふふと、カリンが笑う。
「なに?」
「6年前のルディ様とアナスタシア様を思い出して。」
ああ、そうだあの時初めて対の魔具を使ったんだっけ。
「ネックレス、殿下にあげちゃったの?」
「申し訳ありません。でも、あまりに元気がなくて妃殿下にまで影響するのも心配で、ルディ様からの頂き物とわかると受け取りを拒否されたのですが、どうしてもあの方に必要な気がして祝福と共に差し上げました。」
「間違ってない。」
「え?」
「君のそういう人を思いやるところは大事だよ。君は間違ってないから僕もそれでよかったと思う。それにしても、そうか殿下のために呼ばれたのか。」
「殿下にお会いするのは久しぶりでしたが随分変わられたと思いました。守るものがあると人って変わるんですね。」
変わった?そうかなぁ・・・。まぁ、カリンが言うんだからそうなんだろう。結局三曲続けてコレでもかと周囲に華麗なダンスを見せつけた後、二人はテラスから庭へと出る。夜空には満月と寄り添い星が輝いていた。ベンチを見つけそこに座る。
「ごめん。嫌な思いをさせちゃったね。」
「あんなの、何ともないですよ。」
「そんな事ないよっ!あんな酷いことを・・・よく耐えてくれた。ありがとう。いつも酷い目に合わせてばかりで。」
「私、大切な方達のためなら何だって我慢します。」
「髪を切った時みたいに?」
「そうです。」
「大切な人達ってたくさんいるの?」
「それは、はい。公爵家の皆さんや今まで私によくして下さった方達です。」
「それってさ、その大切さの順位ってあるのかな?」
金の瞳に見つめられ驚いて一瞬間を置き告げられる。
「一番はこれまでもこれからもルディ様です・・・あとの方は皆さん平等に・・大切に思ってます。」
ふっと金の瞳が優しく微笑んだと同時に頬を撫でられた。
「僕もだよ。」