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魔法使いと侍女の物語  作者: にしのかなで
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「幸い」

いつも何かしらの催しがある時はただでさえ煌びやかな王宮が更に輝きを増すが、年に一度の恒例行事であるこの成年の儀はそれに若さと活気が加わり大人として認められ社交界にデビューするという期待と興奮で更に眩しく煌めいている。

馬車付き場で先に降りたルディはカリンに手を差し伸べる。その手に白くたおやかな手が重ねられゆっくりと慎重にカリンが降りてくると、その場にいた人々の目がカリンに釘付けになるのを感じた。銀の髪は滅多にいない、カリンがどんなに国のために活躍していても中にはその存在を知らない人間もいるのだ。そういった人々の好奇の目と今日の美しさに羨望と嫉妬の入り混じった感情が流れ込んでくる。車中でカリンの首元を飾ったネックレスはそういったものを遮断する効果を持たせていた。城内に歩き始めてカリンが見上げて問いかける。


「あ、あのなんか皆さんが見ている気がするのですが・・・やはり私が来るのは場違いではなかったでしょうか?」


「君が来てくれなきゃ僕が困ることになってたよ。僕は宮廷魔法魔術技師として招かれてるし、こういう場にはパートナーを連れていた方が色々面倒が少ないからね。」


「面倒?」


「ウィレムも婚約しただろう?だから最近はお節介な人達がどこそこにこんなお嬢さんがいるんだが、とか勧めてくるからね。僕は君に悪い虫がつかないように役目を果たすけど、君がいてくれるだけで今後の僕の面倒も随分減るはずだから一石二鳥。見られているのは気にしないで、もし誰かが君に意地の悪いことを言ってもそれも気にしないで。君は僕にとって今日だけじゃない、いつだって最高のパートナーなんだから自信を持っていればいいよ。」


「わかりました、ありがとうございます。」


本当は「君がとても綺麗だから見られているんだよ」と、言いたかった。だけどそういうと彼女はますます恐縮してしまうから、それは言えなかった。こういう事には疎い彼女はパートナー連れの男性までが振り返って見ている意味もわからないだろうな。なんだろう、なんだかルディはカリンとは反対にいつもは苦手なこの場がなんとも思わない。むしろ気分がいいくらいだったが城内の廊下でウィレムに会ってちょっとテンションが下がった。彼は今日も仕事らしい。


「やあ、カリン!久しぶりだな元気にやってるか?」


「お仕事お疲れ様ですウィレム様。今日は公爵家の馬車をお貸しくださりありがとうございます。公爵家の皆様には本当に感謝しております。」


「おいおい、あのおチビちゃんが立派にご挨拶できるようになったなぁ。もうすぐ10年だもんな。」


カリンの兄を自負するウィレムは少し涙ぐみながら感動している。そして彼もカリンの性格をよく理解しているのでベタ褒めしたいところをグッと我慢して平静を装っている。そういや、この二人はあまり会う機会がないもんなと考えていると今度はいつもの口撃がルディに向かってきた。


「ルディ、わかってるだろうけどお前の今日の仕事はカリンを害虫から守ることだからな。」


「わかってるって。」


ウィレムと別れて会場に入る、二人には席が準備されているはずで受付を通ると案内された。わ、魔法魔術技師学校の校長がいる。学生時代のほとんどにおいて迷惑をかけた人だ、ルディはカリンに校長の話をするとまず挨拶に連れて行く。


「ティーバリー校長、お久しぶりですガウスです。」


「おお、久しぶりだなルディ。君の噂は色々と聞いているよ、身長が伸びたな魔力も安定しているようだそれはやはり噂の隣のお嬢さんの功労のお陰かな?紹介して貰えるかなルディ。」


「カリン、こちらは魔法魔術技師学校のティーバリー校長先生で僕が、あ〜。大変気苦労をおかけしてお世話になった方だよ。校長、こちらは僕のパートナーのカリンです。」


「初めましてティーバリー校長先生。アレクシア・カーテローゼ・ハプトマンでございます。カリンとお呼びくださいませ。」


「やあ、お会いできる日を楽しみにしていましたよカリン。いつもルディを支えてくれているそうでありがとう。君はまだ成年には早いのかな?」


「はい。夏になれば15になります。」


「そうか、実にしっかりしたお嬢さんだ。これからもルディをよろしく頼むよ。」


校長との挨拶も終わり二人の席に着く。しばらくすると魔法魔術技師学校の同期や儀式を迎えた生徒が僕らを見つけ挨拶に来る。カリンは時折受け答えする以外は絶え間なく微笑みを絶やさずにいた。そして国王陛下の開会の挨拶が終わりダンスが始まる。飲み物と軽食を運んでもらい眺めているとオーランド殿下がやってきた。


「ルディ、カリンをちょっと借りたいんだがいいかな?」


「殿下が踊られるんですか?ダメですよ他の高位貴族のご令嬢からクレームが来ます。」


「うん、そりゃ一番にカリンと踊りたいんだけどさ、今日はうちの兄上にその一番を譲ってやってくれないかな?聞いてるだろう?」


「王太子様がどうかされたんですか?」


「ああ、カリンは知らないのか。ちょっとね、義姉上よりマタニティブルーで元気がないんだよ。しばらくカリンにも会ってないし元気づけてやってもらえないかな?呼んでくるから、ね!頼むよ。」


第二王子の頼みを断れるはずもなく気づけばカリンはアルベリヒと中央に居た。


「久しいなカリン。髪が伸びてよかった、今日は見違えるようだ。」


「ありがとうございます殿下。妃殿下はお元気ですか?」


王太子妃は大事をとって今日の行事には出ていない。オーランドが言う通り王太子は元気がなかった、最近はこんな調子なのだろうと心配しているとポツポツ話し始めた。


「ティーヌは元気なんだが、つい俺が心配しすぎてな。今日、お前を無理に呼んだのも多分、俺を何とかしようと思っての事だろう。すまんな、迷惑をかけて。」


は?いまなんと・・・。


「・・・恐れながら殿下、いま私お詫びを言われました?」


「なんだ、当たり前だろう大の男のためにわざわざ貴族でもないのに呼び出され好奇の目に晒されているのだから。」


カリンは思わず吹き出してしまった。


「す、すみません。あの、皆さんが何があってどう心配されているのか私は事情を詳しく知らないのですが失礼と不敬を承知で申し上げてよろしいですか?」


「ああ、なんでも言ってみろ。お前に関しては無礼講だ。」


「ふふっ。殿下随分ご立派になられましたね。私に謝るなんて、あの何を言っても言う事を聞いてくれなかった方が・・やはり奥様を持つと変わられるのでしょうか?」


「お前、本当に失礼だな。でもそうだな、妻を持ちそして家族が増えようとしている。守るものが出来たから少しはマシになったかな?」


「ルディ様やオブリー伯から時折お話を伺いますがやはりご結婚される前後からお仕事も以前のように抜け出したりすることもなくなったそうですね。あの、ご心配されているのは妃殿下のご出産についてですか?」


くるくるとダンスをしながら話し込む二人は中央にいることもあり絵になっている。それにもう、二曲続けて踊り始めていた。


「俺の実母の話は知っているだろう?だからつい、余計な事を考えてしまう。」


カリンは一瞬キョトンとし次に花が咲いたようにアルベリヒを見上げて笑った。


「妃殿下も産まれてくるお子様もお幸せですね。」


「は?」


「だって、こんなに愛されているじゃないですか。それに、お忘れですか?妃殿下はハーヴェイ神ご自身が祝福された殿下の花嫁ですよ。何もご心配することはございません。殿下があまりご心配をなさるとかえって妃殿下のご心身に影響されますよ?カリンが保証します、ご心配は杞憂に終わります。それよりも産まれてくるお子様の事を大事にお考えください、お腹の中でお父様がそんな心配をしていると知ったらガッカリされます。あ!そうだ。」


ちょうど曲が終わり殿下と輪から離れるその時にカリンは首からネックレスを外しアルベリヒに握らせた。


「これは、殿下にとっては不相応な代物かもしれませんが、今日ここに来る途中でルディ様に頂いたもので「幸い」という意味の石だそうです。このネックレスに私から殿下ご夫妻とお産まれになるお子様の幸いを願って。すみません、キチンとしたものが用意できなくて。」


「お、前・・・これは貰えんぞ!ルディがお前の幸いを願って贈ったものだ、以前は対の魔具のために髪まで切り落としたのにっ。これはダメだ。」


返すと差し出すアルベリヒの右手を柔らかく両手で包み、瞳を閉じて祈りを込め呟く。


「殿下がハヴェルンの良き王になられますように。ご家族が皆、無病息災であられますように、ハプトマンの名の下にこの石に幸いの祝福を込めて贈ります。」


そして、そっと包み込んだ手を殿下に向け戻した。


「私の幸いがルディ様の幸いでもあります。この事はきっとお叱りは受けません。どうかお受け取りください。」


アルベリヒは一回り以上も年下の少女の優しさに溢れた微笑みを見て不覚にも喉の奥に熱いものが込み上げてくるのをグッとがまんした、そして一息付きカリンの手を取りその甲に唇をつくかつかないかまで落とした。


「ハヴェルン王太子アルベリヒ・ダリウス・フスト・デアが女神ハプトマンの愛し子に誓う必ずや良き父良き夫そして良き王になることを・・・ありがとうカリン、お前はやはり素晴らしい娘だ。さぁ、そろそろルディが心配しているだろうから席に戻って今日は楽しんでいってくれ。」


にっこりと笑ってくるりと向きを変えルディの元に真っ直ぐに戻って行くカリンの後ろ姿を見送りながら掌の中のネックレスを握りしめアルベリヒは会場を後にした。

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