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魔法使いと侍女の物語  作者: にしのかなで
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招待状

「う〜ん・・・」


よほどルディが変な顔をしていたのだろう、久しぶりに城内の食堂で昼食を摂る彼に魔法魔術技師学校の同期が声をかけてきた。


「よっ!久しぶり、珍しいじゃんこんなとこで。」


「アニエス!本当に久しぶり、元気にやってる?」


「ああ、お陰様でね。俺、この一階の事務所に勤務してるんだ魔法省担当でね。お前はやっぱ出世してるなぁ。でも、嫁さんは俺が先に貰ったけどな。」


「え?あ、そうなの⁉︎おめでとう、いつ?」


「この春、まだまだ新婚さんだよ。で、お前を悩ましてるのはなんなんだ?女か?」


アニエス・クラークは同期で仲が良かった。卒業してからはルディが忙しく疎遠だったがそうか、職場が一緒か。


「いや、違う。ん〜、違わない・・・でもないか。」


アニエスはいつも深く聞いてこない、そこがいいところだ。今日も笑いながらなんかあったら俺にも相談しろよ!と、背中を叩いて去って行った。駄目だ、外の空気を吸おう・・・中庭に出て適当なベンチに座る。悩みの種は懐にある王室からの招待状、宛名はカリンになっている。そう、王室主催の成年の儀の招待状が届けられたのだ。今朝、ルディはまずオブリー伯に抗議した。


「なんなんですかこれは!一介の侍女にこんなの来たら悪目立ちしますよっっ‼︎しかも、まだ成年じゃないですよ⁈」


「いやね、私も反対したよ?だけど国王陛下直々に頼まれたんだよね。そしたら断れないでしょう?それに、身分は公爵家所縁の令嬢って事で・・・」


「僕が会場管理任されてるの知ってますよね⁉︎誰がエスコートするんですか、ウィレムは婚約中だしオブリーさんは警護でしょう⁉︎」


「うん・・・だから会場管理は魔法魔術技師長が名乗り出て下さったよ。だから、えーと。本当に申し訳ないけど出席して欲しいんですよ‼︎お二人揃ってね。なんか知らないけどとにかく国王命令です、では!」


こんなの持って帰ったら・・・嫌がるだろうな。ため息をついて封筒を懐にしまいポケットに手を入れるという不遜な態度で歩く。ドレス・・・は、僕が用意しよう。髪は、・・・まだ結い上げなくていいか。馬車はまたあの手で行こう。仕方ない、断れないんだから楽しませなくちゃ。


「え、王室主催の成年の儀・・・ですか?私、まだ14ですよ⁉︎」


案の定、嫌そうな顔をしている。

ん〜、でも、あ〜そうか、断れないのかぁ。その日熱でたりお腹痛くならないかなぁ〜とブツブツいいながら封筒を手に苦悶するカリンを見て笑うと怒られた。


「あのさ、考えたんだけれどただの社交場として気楽に参加したらどうかな?」


「そんなのいいんですか⁉︎」


「多分。君はまだ成年じゃないし、見学に行くつもりでさ。」


何とか侍女の説得に成功し安堵する。全く、そもそもカリンは一般市民なんだから特別扱いされての招待というとやはり快く思わない貴族方もいるだろうし・・・あ、そうか。小鹿会のご令嬢方も中にはいらっしゃるかもな。でも、とにかくその日は離れないようにして陛下にご挨拶したら早々に帰ろう。ドレスについてはやはり公爵家から手配の声が上がった。しかしそこはルディも、もうそれなりの給与を頂いている大人だからと、この時ばかりは後見人を盾に頑として譲らなかった。気持ちはありがたい、本当に。だけど、分不相応な装いでただでさえ目立つのにこれ以上カリンには敵を作りたくなかった。結局、王太子妃に相談しカリンに相応しい店を紹介してもらう。今回は公爵夫人が馬車だけは公爵家のものを使うようにと言うので、そこはこちらが折れてお言葉に甘えることにした。カリンは結局、公爵家所縁の宮廷魔法魔術技師とそのパートナーとして出席することで話は丸く収まっている。


それにしても、自分の成年の儀から6年経つのか・・・と、いうことはカリンとはほぼ10年の付き合いになるんだ。初めて会った時の小さなカリンを思い出す、不安で大きな瞳から涙をポロポロ零していたっけ。さて、二階ではアナスタシアとフェンリルが二人掛かりで侍女からどこかのご令嬢らしく見えるよう仕立ててくれているけどやはり女性の準備は時間がかかる。せっかく着飾るのだからとヴィグリー夫妻まで見物に来ているし、三人とも社交場は苦手というのが共通点で話が盛り上がっているところにフェンリルがお待たせしましたと先に降りてきた。

驚いた・・・。

なんとか肩より下に伸びた髪を上手くまとめ上げ、ドレスは髪と色の白さを引き立てるにはやっぱりワインレッドね〜と、アナスタシアが言う通りビロードの生地で作られた深みのあるその色は確かに彼女を引き立てていた。シンプルかつセンス良くドレープが作ら、今日はいつもより開いている胸元は白いフリルがあしらわれている。少尉は口笛を吹きカリンの手を取り騎士の礼をする。


「いやぁ、砦にいたのとは別人みたいだ。」


「カリンとてもよく似合っているけど、それじゃ会場でルディと離れないようにしないと、色んな男性から声がかかるよ。離れないようにね。」


「本当に、私も嬉しいですわ。あの小さかった子がこんなに大きくなって。」


「ちょっと、フェンリルあなたそれじゃ母親みたいよ。まぁ、でもわかるわ〜ルディから6年経ったのねぇ。あの日は私、対の魔具に勘違いしちゃって。ふふ、あの時8歳だった子が立派になっちゃって・・・って、ルディ!あなたなんか感想ないの⁈」


「え、あのびっくりして。すみません、こんなに綺麗にして下さってありがとうございます。カリン、とても似合っているよ。」


そういうのがやっとだった。薄化粧を施されたカリンは本当に思わず言葉を無くすほど綺麗だった。


「さて、じゃあ楽しんでらっしゃい。いつもみたいに壁の華じゃ勿体無いわよ。鍵はうちで預かっておくわね、馬車が待ってるからもう行かなきゃ遅れないように。それからイェンナ様も言っていたようにルディから離れないルディはカリンを離しちゃだめよ!変な虫が付いたら私までウィレムに怒られるわ。」


留守の戸締りをお任せして二人で馬車に乗り込む。そう言えばさっきからカリンが喋らないけどコルセットがキツイとかなら大変だと話しかける。


「いえ、あの・・・ドレスや靴はいつものようにアナスタシア様が調整して下さったんですけれど・・・その、こんな感じのドレスや髪型は初めてですし会場でルディ様に恥を欠かせてはいけないとか色々考えるとプ、プレッシャーが。」


ああ、そうか緊張してたんだ。


「大丈夫、自信を持って。本当に綺麗だから僕にくっついてニコニコしてればいいよ。」


途端に首筋まで朱に染めてカリンが俯く。


「そ、そういう事はあの、その。・・・目の前で言われると余計恥ずかしいですっ」


「あ、ごめん。いやでも本当の事だから。」


うん、本当つい見とれてしまうその儚げな美しさに。


「カリン。」


「はい?」


「おまじないをあげようか?」


「へ?」


ポケットから取り出したものを見せる。それはこの前の地元の成年の儀の際買っておいた魔法石を繋げたネックレスだった。ちょっとごめんといって隣に座り首にかけてやる。


「うわぁ、綺麗ですね。花の形に彫られて凝ってますけれどどうなさったんです?」


そこで僕はウルリヒから来ていた露天商の話をする。ウルリヒに咲く花を模したもので「幸い」という意味があるということも。話しを聞いてカリンがすぐそばでにっこりと微笑う、ありがとうございますと。馬車はもうすぐ王宮に着くところだった。

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