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魔法使いと侍女の物語  作者: にしのかなで
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お誕生日おめでとう。

裏では殺伐とした事件があったが無事に婚約式は無事に終わった。一部始終を視ていたルディの後ろにあるソファでは重要な任務を終えたカリンがぐっすりと眠っている。王太子婚約者付き侍女としてイブリンを招き入れたのは他でもないファンテーヌの指名であった。爵位こそないが豪商であり、バイラル子爵家の持つ商家と同業者の娘でセンスの良さを表向きの理由としていた。しかし、王太子らがウルリヒに行っている間バイラル秘書官に内密に耳に入れたい話があるとウェスティン侯爵が娘から相談された内容を持ってきた。彼女は話を聞き、裏を取り動くので侯爵家はこれ以上関わらないようにと釘を刺した。既に噂は以前より秘書官の耳に入っていたのだ。彼女はヨハンナ・ベルの身を案じこの件は王家が担うものとし、帰国した魔法省幹部や軍司令などに案件を出した。話しは早速動きだし裏付けをとっている間にまさかの求婚、しかしそれを逆手に取り自身を危険に晒してもイブリンを誘き寄せた。カリンを側に欲しいと申し出たのもこの為であった、様々な事柄の裏側に敏腕秘書官の采配があったのだ。その有能な彼女が未来の王妃ならばこの国はしばらく安泰だろうな、と寝息をたてている侍女を振り返り思った。


今回の事ではウルリヒのすぐ後から計画に巻き込まれていた事もあり流石のカリンも心身共に疲れが出ているようだ。自分はまだ婚礼の儀までゆっくりできないが、彼の執務室をカリンの部屋とし使わせてもらえる許可が出ていることに安堵する。あと少しで今日の仕事は終わる、執務室まで運んだら部屋を彼女の好みに変えてやろうと考えながら時間が過ぎるのを待った。そして、婚礼の日まであと僅かとなった夏のある日ふと彼は気づく。今日は休みで二人で久しぶりに街に出てゆっくりしていた。評判の店があるとカリンが聞いていた店のテラス席で二人は冷たい飲み物で喉を潤していた。


「カリンの誕生日って今月じゃなかった?」


「あ!そうです。と言っても預けられた時にはもう三ヶ月位だったそうなのでホントはもう過ぎてますね〜、だからつい忘れちゃうんですよ。」


「え〜と、僕が秋に21だから君じゃあもう14歳⁉︎うわ、もう成年の儀じゃないか。ごめん、忙しくてうっかりしてた成年の儀はどうする?」


「あ、地元で参加するつもりですけど。」


王室主催の成年の儀は年明けに行なわれる。その新年に15歳を迎える貴族子女、そして魔法魔術学校の生徒のみが招かれる。一般の市民は秋迄に15歳を迎えた子ども達がその地区や信心する神の神殿で祝福され秋の収穫祭と共に賑やかに祝いが行われる。ルディは魔力持ちなので当然王室から招待状が来たが確かにカリンに関しては地元で祝った方がしっくり来る、それにしても・・・誕生日か。春よりまた更に髪の伸びた侍女を見て今日の予定を決めた。


「よし!行こうか。」


夕刻執務室に帰り着いた二人はようやく抱えきれる程の荷物をどさっとテーブルに降ろす。あの後ルディは遠慮するカリンを連れ回し彼女のためにプレゼントや持ち帰りのご馳走をたくさん買ったのだ。そしてカリンをソファで待たせ、隣の生活空間は、魔法で飾り付けると買ってきたご馳走を並べお祝いの準備が出来上がるとカリンを招いた。


「う・・・わぁ、すごい!ありがとうございます‼︎」


カリンのために椅子を引き座らせると二人で祝いの食事を始めた。


「14歳おめでとう、カリン。」


「ありがとうございますルディ様」


食事の後はプレゼントを開けるお楽しみが待っていた。店に入ってもカリンが遠慮ばかりするので適当に女の子の喜びそうなものを見繕ったり、店員に相談したりしながら選ぶうちに段々カリンを喜ばせることが楽しみになりついたくさん買ってしまたが後悔はしていない。ただ、彼女が喜ぶかそれだけが不安だった。


カリンはいま目の前で嬉々として包みや袋を開けては声をあげている。どうやら、何とか気に入ってもらえたようだとホッとする。中でも子どもっぽいかなと思いながら選んだクマのぬいぐるみの手触りに感嘆しどうやら一番気に入ったらしい。カリンがはしゃいでる間に食事の片付けを魔法で行い次にベッドの隣にあるクローゼットにカリンを連れて行く。


「開けてごらん。気に入るといいけど。」


「え?な、なんですかこれ以上。」


恐る恐るクローゼットを開けるとそこはいつもお仕着せの服と私服が三着ほどしかないはずがクローゼットいっぱいに色とりどりの服が詰まっている。


「えっ、これどうなさったんですか⁉︎」


「うん、君が色々見ている時に店員さんに頼んで用意してもらって先に魔法で運んでおいたんだ。君、いつもシンプルな服装でまぁ僕もそれは好きなんだけどさ、でも休みの日とかここでの生活が終わったら着ればいいかなと思って。ちょっと見てみる?僕も見てないんだよね。」


「こ、こんなに私のためにお金使って大丈夫ですか⁉︎」


「あのね、僕もそれなりのお給料もらってるんだよ。それにさ、楽しめたから。」


「ルディ様が?」


「うん、誰かのために贈り物を選ぶのって正直いままで面倒臭かったんだよ相手の喜びそうなモノを無難に選んでって感じで。でもカリンの喜んだり驚いたりする顔を想像しながら店を回り始めたら楽しくてさ、早く見せたいって、不思議だねぇ。それにこれからまた婚礼の儀迄は研究所に詰めるからこっちになかなか顔を出せないから飽きないように色々選んだんだ、気に入った?」


「はい!大事にしますね。あと、お仕事頑張ってください。」


「うん、ありがとう。君、今回は流石になにも頼まれていないよね⁉︎」


「あははっ。はい、何もさすがに婚約式での件で殿下も私の起用を避けるよう配慮してくださったようです。」


「それ、ファンテーヌ様の配慮だよきっと。」


そういいクスクスと二人で笑う。


「じゃあ、僕はもう部屋に帰るけど戸締りしっかりするんだよ。」


そうは言ってもこの部屋の周辺はルディにより強力な結界が張られている。過保護だなぁと自分でも自覚しているがさすがに夜はこの職場区域は人気がないので心配なのだ。


「はい、ちゃんと戸締りして寝ます。今日は本当にありがとうございました、おやすみなさいませ。」


「うん、おやすみカリン。」


それから数日後、国を上げての祝福を受け新しい待ちに待ったハヴェルン王太子妃が誕生した。ティーヌ妃と親しみを込めて民に呼ばれるその若きプリンセスはその後、民を思いアリベリヒ殿下を助け数々の改革をし歴史家によりハヴェルン史上に残る賢妃と記されることとなる。


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