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魔法使いと侍女の物語  作者: にしのかなで
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囚われの王子

「やぁ、ファンテーヌ。私よりこの彼女の方が君をお待ちかねのようだよ。」


小さく片手を上げてアルベリヒが挨拶する。カリンはファンテーヌの前に出る。


「王太子様には危害を加える気は無いわ。ただまず、その婚約者様にはちょっとお聞きしたいのだけど。私の実家が明日取り潰されるのは何故かしら?」


「あなたの?さぁ、ごめんなさい私は知らされていないの。私に関係があるのかしら。」


「そうよっ!あんたが、タダでさえ目障りだったあんたがこの男と結婚するからって、みんなうちの店から離れていったわっっ。」


「殿下に危害を加える気はないのは確かなのね?なら、私がそこに座りますから殿下を放して差し上げてくださらない?一応、次期国王になられる方が私如きのための私怨でお怪我でもされたら困ります。お話は聞きましょう、斬りつけたければそれも結構です。ですが、今・すぐにその方をこの部屋から出して差し上げて・・・あ、ちょっと待って。殿下、その者の狙いは私ですから放してくれたからと反撃しないで下さい。大人しく外へ・・・彼女、暗殺術も心得ている筈ですから反抗すればスッパリと殺られますわよ。」


かつての氷の秘書官を思い起こす口調と表情でファンテーヌは言い切った。イブリンは刃物を首から離すとつぎはアルベリヒの背中に突き付け外へ出す。その間にファンテーヌはアルベリヒの温もりの残る椅子に腰掛けた。


「いつその姿を見せてくれるのか楽しみに待っていました。しおらしく侍女の仕事もこなしてくれていたのでどうなるかと思いましたが期待を裏切りませんね。」


「随分余裕ね、さすが未来の王太子妃に選ばれるだけの度量があるのかしら?誰もいないこの部屋であんたは死ぬのよ。怖くないの?」


「そんな事よりも貴女のご実家ですが潰れても仕方ないんじゃございませんか?ヨハンナ・ベル様から子どもの行方不明者が増えていると聞いてずっと調べていました。まさかあなたのお家がただの商家ではなく、人身売買に密輸さらにさらった子どもの髪の毛で鬘やその他小物を作っていたとは・・・嘆かわしいですわ、同業者として。まぁ、我が家は新規参入ですけどお陰様で地道にやっておりましたら右肩上がりで私が王太子妃になろうがなるまいが安定した収入を得る予定でしたけど。」


「知っていて懐に入れたっていうわけ?」


「はい。暗殺も生業とする人道に外れた獣とはどんなものか見てみたくなりまして。意外と可愛いお顔で驚きましたわ。」


「毎日毒を入れたのに。」


「生憎、うちは元々騎士から成り上がりの貴族で先祖から武勲を上げたが毒を盛られて死んだとあっては末代までの恥と今でも慣らしていますの。あれ位なら可愛いものです。」


「あたしの家族をどうした?」


「今頃は牢屋でしょう。」


「解放して。」


「無理です。」


「なら、あんたを殺して助けに行くわ。」


「あの〜、その計画かなり無理がありますからやめといた方がいいですよ。」


急に背後から首にナイフを当てられ、呑気な声をかけられた時にはもう既に身動きが取れなかった魔法だ・・・っイブリンは舌打ちをした。


「近衛兵突入っ!」


カリンの一声で外の兵士が雪崩れ込む。


「おいおい、俺の婚約者まで傷つけるなよ」


外から呑気な殿下の声がする。近衛兵に連行される際イブリンが振り返りカリンとファンテーヌを睨み付ける。


「いつ入った⁉︎」


「最初からいましたよ?」


「魔法師の手先がっ!なぜ⁉︎なんでわからなかったの・・・なんで・・・」


「簡単ですよ。私はあなたの匂いをつけてますから。一緒に働き寝食共にしましたよね?で、仕上げがこれ。」


カリンはリボンを外して目の前に突き付けた。そのリボンはイブリンが作った物だった。


「悪意が凄くて吐きそうになるのを堪えるのが大変でした。一族共々罪を償って下さい」


そういうと指先に持っていたリボンが燃えて消えた。あ〜あ、ルディ様もかなり怒ってる。イブリンは魔力のないカリンが目の前で不思議な事をして見せたので顔面蒼白になっていた。そこへエンケル将軍が来てイブリンの姿を見ることは二度となかった。


パンパンパンと、拍手がしアルベリヒがカリンの頭を撫で回し今回もよくやったと褒めると、すぐに婚約者に向かう。そして改めて無事を確認すると軽く頬を叩いた。突然のことに驚きファンテーヌもカリンも言葉が出ない。しかし、すぐに彼は愛する女性を抱きしめると


「二度と危ないことはするな・・・」


そういい抱き締められた彼女は小さく謝罪をし、二人はその場でしばし抱き合っていた。行き場のないカリンを救ったのは第二王子オーランドだった。


「今夜の害虫は始末したからこの持ち場は離れていいよ目の毒だ、行こう。」


扉を閉めてオーランドに問う。


「今回の話は王太子殿下はどこまでご存知だったんですか?」


「ん?兄上には間者が入る予定だけどルディの魔具の効果もあるし、狙いが兄上じゃないから何かあってもファンテーヌ嬢とカリンが来れば大丈夫って程度かな。ははっ、でも君の姿が見えないもんだからかなり焦ってたよ。いや〜、ルディのお陰でいいものが見れた、当分楽しめそうだ。」


長年兄に使われっぱなしの弟は気分が良さそうだった。それにしても、凄い魔法の使い方をする。ルディはカリンの腕輪を通じファンテーヌの部屋を出てからカリンの姿も気配も消していたのだ。今回は相手がプロの暗殺者なので姿がなくても匂いで悟られてはいけないとしばらく同じ部屋で過ごし、とどめに彼女の作ったリボンで最近の匂いも念を入れて身に付けさせた。


「私の事を丸っきり無視して二人が話すので驚きました。そっか、殿下にも見えてなかったのならそれは心配されたでしょうね。」


「ああ、外で暴れそうになったからカリンがどういう状態で入ったか、ファンテーヌ嬢にはちゃんとカリンが見えてるからって言い聞かせるのに苦労したよ。あ、カリン僕はこの後会場に入らなきゃいけないんだけど、もう一人君の身を案じている偉大な魔法師殿に報告に行ってくれるかな?二階の控えの間にいるから、警備に聞けばすぐわかるよ。」


「え、でもファンテーヌ様の護衛は?」


「僕も側に付いてるし、うちには優秀な女性騎士もいる。それに何と言っても君の魔法師の魔具があるからね。オブリーも控えているし大丈夫だよ、それから服も着替えていいから。じゃ、彼によろしく!」


そう言って片手を上げて去って行った。はぁ、一つお役目が済んだ。カリンは着替えようにも服がないんだけどなと考えながら近くの警備兵にルディの部屋を尋ねる。成る程わかりやすく教えてくれたのですぐに部屋に辿り着いた。ノックをし名をなると入室を促される。真っ暗な部屋にボゥっとした灯りが幾つか灯っている。部屋に入ると目が慣れないうちにいきなり腕を引っ張られた。


「へっ⁉︎ちょ、え?ルディ様ですか⁈」


気づくとすぐ目の前に顔が来ていた、瞳はあの日と同じ虹彩を放っている。やっぱり綺麗だ・・・と思いながら見ていると


「そうかなぁ、僕はあんまり好きじゃないんだけど・・・それより君、無茶しなかっただろうね。」


「な、なんですか!酷いです頭の中読むなんてっ///」


「あ、ごめん。待ってね今これ外すから、これのせいで君との精神的な距離が近くなってるんだよ。と、外れた。ごめんホント集中力上げてるから特に君の考えに同調しやすいんだ。で、次これ付けるよもっかい腕出してくれる?えーと、左にしようかなよしと。これで今日この後はなるだけ、そうだね僕が覗こうと思わない限り君の考えはわからないよ。さっきのは魔具を通じて勝手に流れてくるんだけど、他人の頭の中を覗くのってされた方はダメージが大きいから僕はなるだけやらない。そういう専門職もあるけどね、さっきの彼女とかやられると思うよ可哀想だけどもっと残酷な事をやっていたからねあの一族は。」


「ええ、話を聞いて私も驚きましたし・・・許せません。」


イブリンの事ではかなりショックを受けながらも無事任務を遂行した侍女の硬く握られた拳を大きいが繊細な掌で包んでやる。


「助けられる命はあるはずだから、君はもう彼女の事はしばらく考えない方がいいよ。」


そういって、カリンの額に指を当てる。


「落ち着くおまじない。」


いつもとは違う瞳でいつもと同じように優しく微笑んだ。

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