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魔法使いと侍女の物語  作者: にしのかなで
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これも予定通り

あれからまず執務室に帰った二人はオブリーにこってり絞られた。なにしろ朝食を運んでノックをしても返事がないのだ、気を揉みながらも気長に待ちそして魔法で居場所を探り当てた、自宅に居るとわかるとホッとするやら、一言言って欲しかったなど・・・それは彼が二人を心から心配してくれての事だった。その証拠にルディがやつれているが、いつもよりすっきりした顔を見せると大まかな話を聞き終わり涙ぐみながら何度も「良かった」と繰り返し呟いたのだ。そんな二人の為にカリンは頼んだレモンを受け取るとお茶を用意した。オブリーさんも心配でお疲れでしょうからと何時もの茶葉に蜂蜜にレモンを絞った特別なお茶を。


「なるほど、いつもの疲労回復茶に蜂蜜とレモンとは考えたねカリン。甘酸っぱさがなんとも言えない、なんでレモンなのかわかったよ。」


心配をかけた分、疲れを回復して欲しかった。そして、朝になっても子どもだった場合に備えてケーキを頼んでおいたが、こちらの糖分も頭を働かせるいい効果が出たらしい。結局カリンはそのままファンテーヌ付きを離れルディの近侍としてルディがお役御免になるまで、つまり王太子の婚礼の儀までその側で仕えることになった。


そして婚約式の朝。

カリンはファンテーヌ付きを離れてからはエンケル将軍とオブリー伯爵の下、警護についてシミュレーションを何通りも繰り返していた。この任に着くことはルディから新しい魔具を追加で身に付けることで了承を得ていた。今日は当日ということで朝から城内が賑やかだ。カリンは特注の近衛服を着用し常にファンテーヌの側に付く。白を基調とした服のあちこちには勿論いつものように武器が隠されている。そこに今日は新たな魔具が追加された、両手首にぴったりのサイズに収まっているのは今朝仕上がったばかりの物だ。


「僕は全体を見なきゃいけないから側にいられないけど左手にはめる物は君の位置がどこにいてもわかるようになってる。右手の物は、万が一の時に僕の魔力を分けてあげられるようになっているから。・・・まぁ、何にもないと思うけど万が一の時には右手に意識を向けて。何が起きてるかは僕にも伝わるからその場にあった魔法をその腕輪を通して発動させるよ・・・いいね?くれぐれも大人しく!会場には僕が仕掛けてる魔法もあるし、魔法師や訓練を積んだ兵士がいるんだから君はとにかくファンテーヌ様をお護りすること・・・つまり、何かあれば彼女を安全な場所に移してそこで大人しくしてるんだよ⁈」


カリンはこれまでの過去を振り返り引きつった笑顔で両腕を差し出した。実際のところ上層部は予定通り何もないであろうという見解だった。ファンテーヌは子爵令嬢と立場こそ低いが秘書官そのまた以前の王女付き侍女の時代から城内での評価は高く、また彼女のデザイナーとしての人気は上位貴族の令嬢婦人方も多数ファンがいる。そして、王太子妃という立場は確かに魅力的だがアルベルヒ個人を知れば知るほどお相手にはバイラル子爵令嬢がやはり相応しいと(この噂を耳にしてアルベリヒは大層憤慨したらしいが・・・)、世間では認められた婚約者なのだ。


その近い未来の王太子妃となるファンテーヌの今日の装いは派手さはないが地味過ぎないワインレッドのシンプルなドレスにしかし細かい刺繍や細工を施してあるものだ。秘書官時代はかっちりと結い上げていた栗色の髪の毛は若い令嬢らしくふんわりと結い上げられその一本一本が艶やかに煌めいて見えるのはやはり彼女が考案した椿油に秘伝のものを加えた品のお陰であろう。子爵令嬢時代から家計のために様々な化粧品からドレスなどを考案してきた彼女の発案品は手頃な価格で国民にも人気がある。それが今や、王太子の婚約者とあって以前にも増して彼女が新しく身につけるものはたちまち人気商品になっていた。夕暮れが近づき、カリンはファンテーヌの部屋の前に来た。顔見知りの警護兵士が軍属になればいいのにと笑いながら話しかけてくる、そして中に通された。


「まあカリン!あなた本当に何を着ても似合うわね。」


カリンも一応歳頃を迎え始めた娘なので、先程の兵士といい今の言葉といい、どうも褒められてはいるらしいが内心複雑になってきた・・・。


「あら、髪が邪魔じゃないかしら。ちょっと結んでみましょうか。」


恐れ多くもファンテーヌ自信が引き出しからリボンを出してきてドレッサーの前に座らされる。今日の彼女のドレスと同じ色のリボンで少し伸びたカリンの髪を結んでくれる。


「ふふ、私貧乏性だから余った布地とかで色々作ってしまう癖が抜けないの。これはいつもお世話をしてくれる侍女たちに小物入れを作って、今日あなたが来たらきっと使えると思って作っておいたのよ。」


そう言われたリボンには同じ色で目立たぬように刺繍が施されていた。


「この前は大変だったわね。あなたもガウス魔法師も・・・。ねぇ、あなた達私がまだ知らない危険な目にもあってきたんじゃないかしら。私はあなた達二人をとても信頼しているわ同僚でもあったし、でもね?困ったことや辛いことがあれば遠慮なく私にも話してね。あなた達だけで抱え込まないで、約束よ。」


ファンテーヌが話し終えるとカリンの髪は綺麗にまとめられていた。


「それ・・・この前私がルディ様に同じような事を言ったばかりです・・・。」


「そう。あなた達はいつも信頼し合って心配し合ってるけど、たまには私達も頼ってね。」


そういって秘書官時代には見られなかったふわりと優しい笑顔でカリンを覗き込む。ああ、この方はあの殿下とご一緒になられると苦労するだろうに、それを受け入れて日に日に表情が柔らかくなっている・・・お幸せなんだろうな。始めは殿下と結婚なんて勿体無いと思っていたが、今はこの幸福そうな令嬢が何者にも邪魔されず、今日の婚約式を無事終えるようお側でお護りしようと改めて誓った。侍女長に声をかけられ二人は廊下へと出る。警護のための近衛兵に護られながら歩くファンテーヌの側を付かず離れず歩く。会場の大広間の控え室でアルベリヒが待っている、そこまでに何か起きてはいけない。会場に着けば正式な婚約の誓いをし彼女は王族に連なる者としてまた格が上がり、ルディがこの日のために作り上げた魔具で今までよりも更に身の安全が保障されるのだ。そうするうちに控え室に着いた、この扉一枚で彼女の世界は本当に変わってゆく。近衛兵達は扉の前で控えることになっていて中に入るのはファンテーヌとカリンだけだった。近衛兵に扉を開けられ中に入るとすぐに扉の閉まる音がする。ここまでは予定通りに進んでいた、控え室で王太子アルベリヒの首に刃物をかざしファンテーヌ付き侍女のイブリンが待っていること以外は。

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