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魔法使いと侍女の物語  作者: にしのかなで
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思い出は胸の中

懐かしい夢を見た気がする。それと共に身体の疲れと頭の重さが久し振りに取れスッキリと目覚めた、ルディは軽く伸びをして窓の外がまだ薄暗い事に気づく。


「ああ・・・久しぶりによく寝・・・」


なんか、ここ絶対研究室じゃない気がするんだけど。なんか、寝具もふかふかでそしてそして・・・彼は恐る恐る隣を見る。ルディにまるで何処へも行かせるものかとしっかりしがみついてすやすやと眠っているのは彼の心をずっと支え続けてきてくれた今一番会いたい少女。


「え、あ?え、ちょっちょっと・・・カリン・・・?」


狼狽しながらも本物か、はたまた自分が作り出した幻か確かめるためにぐっすり眠っている頬にそっと手をやる。


「・・・あったかい、本物だ。でもなんで」


声に目が覚めたのかカリンが身じろぎする。


「ん・・・?あれまだ薄暗いじゃないですか。ほら、上掛け脱げてますよ。ハイちゃんと肩まで被って、さぁもう少し寝てていいですよぉ〜。」


寝ぼけているのか上掛けを掛け直すとルディの胸の辺りをトントンと軽く叩く、まるで子供を寝かしつけるように。そして、その手の動きがしばらくして止まった。


「・・・⁉︎なっ!戻ってるじゃないですかっ‼︎そ、それならそう言って下さいっっ///」


恥ずかしさだろう正気に返った彼女は顔を真っ赤にしてベッドの端に後ずさる。きている衣装は王族付き侍女のお仕着せだ。はて、なぜ彼女が仕事着のまま同じベッドにいたのか、そもそもこのやたら豪華なベッドはなんなのか?で、自分を見ると自分もやはり「仕事の途中でした」って格好で寝ていたらしい。見慣れた部屋だと気づけば自分の執務室だ。


「あの・・・えーと、カリン?僕等なんでこうなってるの?」


そう問いかける主の瞳はいつもの優しい金色に戻っている。その瞳を見てカリンは脱力したように両手を着き安堵した。


「はぁ〜、良かった。いつものルディ様に戻られたんですね・・・よかっ、良かったぁ」


そばにある枕を抱きしめ次は泣きはじめる。ルディは今朝までの記憶がないが間違いなくこれはかなり心配をかけたのだと泣きじゃくるカリンに近づこうとも思うが、何せベッドの上に主従関係とはいえ歳も離れているとはいえ流石に一応男女なのだからどうしていいかわからない。とりあえず自分がベッドから降りて・・・と、靴を履き移動しようとしてつまづく。簡易ベッドだ、なんでこれ使わずにこんな天蓋付きベッドなんか出したんだろう・・・聞きたいことは山ほどあるのに怖くて聞けない自分を落ち着かせつつ戸棚からタオルを出す。あれ?カリンが貰ってきたおやつのお菓子の缶がない・・・とりあえずカリンにタオルを渡して執務室の方を覗く。


「え・・・ご飯まで食べてる・・・しかも二人で⁈」


両手で頭を押さえ考える、思い出せ思い出せ!いや無理無理っ!なんで?確かに研究室に居たはずなのに、あそこは誰も邪魔できないよう厳重に魔法をかけていたのにっ!・・・無理だ・・・思い出せない・・・研究室、無事なのかな・・・?


「あ!いけない片付けしなきゃっ」


鼻声でカリンがやってくる。すみません、もう昨日のうちに片付けられなくてとかなんとか呟きながら食器を片付けていく。


「あの、カリン?僕等なんでここにいるのかな?」


くるりと振り向いてチラリと立てかけてある箒を見てから、さもこともなげに返事する。


「アレに乗せられて連れて来られました。」


どうやら片付けが一段落したらしい。外からは小鳥の囀りが聴こえはじめた。お茶を用意する間にベッドを片付けられますか?と言われ天蓋付きを消し去り、簡易ベッドを元に戻す。それからソファに移動しお茶を飲む。


「あれ?なんかいつもより甘いね。」


カリンがクスクス笑う。それが止まらなくなりお腹を抱えて笑うのだ、こんなカリン珍しい。


「す、すみません。失礼しました、甘いのは疲れを取るために蜂蜜を昨晩から入れてます。小さいルディ様もご希望でしたから。」


それから話し始めた昨日の午後からの出来事は穴があったら入りたい内容だった。何よりカリンが参ったのは夜中に僕が起き出しては大人の姿になり何か魔法を使おうとしたり、子どもになっては眠れないと駄々をこねてお話をせがんだり、ベッドを抜け出し隠れんぼをしたりとカリン曰くハチャメチャな一夜だったらしい。瞳の虹彩がいつもと同じにならない間はとにかく安心できないと結局小さな僕にくっついて抱き締めて寝たそうだ。


(ああ、だからあんなにしがみついてたのか)


理由がわかって納得はした。それにしても過去最悪の魔力の暴走じゃないかなと反省しているとカリンがジッと僕の瞳を覗き込んで言う。


「今の金の瞳も綺麗ですけど、お仕事をしていた時の変化した瞳も私は怖くもないし綺麗でしたよ。あと、我慢してることや遠慮していることがあれば私だけじゃなくて例えばご養父母とかちゃんと言って下さい。小さいルディ様が可哀想です。」


その瞬間またルディは小さくなった・・・大人の意識のままで。そして、ポロポロと泣いているのだ。カリンがポケットからハンカチを出して拭いてくれる。我慢、遠慮、我儘・・・僕には行きたい場所があった。


「カリン、ちょっと付き合ってくれる?」


「はい、ご主人様。」


数分後二人は箒に乗り少し懐かしい我が家に辿り着いた。空から見るとどんどん整備されて小さな町が出来始めているのがわかる。昨日はルディがカリンを抱えたらしいが今朝はルディの方が抱えられる形で箒から降りた。


「ぼくは、ほんとはおぼえてるんだ・・・」


カリンと手を繋いで玄関に向かうにつれ段々と大人の姿に戻っていく、そして鍵がないので魔法で開ける。カリンがどうしてもその部屋は間取りも変えず置いておきたいと言ってくれた彼の赤ん坊の時の部屋に入る。


「この部屋に僕はいたんだよ。天井からなんだろう?くるくる回る飾りが吊るされて見ていて楽しかった。」


台所に移動する、そこは少し改良したけどやはりカリンが原型をあまり崩さずにいてくれた。


「あそこで母さんが食事の支度をしている間父さんがテーブルで僕をあやしてくれてた。なんで忘れようとしていたんだろう。多分、新しい養父母に遠慮したんだろうね。無理矢理記憶に蓋をしたんだ、だってさ僕を自分達の子どもに出来るって聞いた養母さんの喜びようったら・・・っ」


駄目だ涙が後から後から出てくる。カリンがそんな僕を居間のソファに座らせて手を離さずに隣でただ静かに居てくれる。何も言わない、ただ両手で僕の片手を優しく包んで。他にも言葉にしないが覚えている母親に抱かれた時の匂い、父親の優しい眼差し大きな手、窓から入る風の匂い、畑仕事をする父母そして誕生を祝う近所の人々。ずっと蓋をしていた記憶の蓋を意図も簡単に開けてくれたカリン・・・なぜこの子がルディの所に来たのか?そんな事もうどうでもよかった。ただ、神様に感謝するというのはこういうことなんだろう。それからしばらくの間、ルディの涙が止まっても二人は静かに座っていた。ルディは只々この瞬間にこの巡り合わせに感謝して・・・。

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