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魔法使いと侍女の物語  作者: にしのかなで
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待ちくたびれた魔法使い

四人で話した後、オブリー伯爵に連れられ魔法省に移動する。この建物は魔法大国だけあり他の省庁よりも厳重に警備されなかなか立ち入りは許されない。しかし、今回のカリンは国王・宰相・魔法省大臣・更にエンケル将軍からの紹介状があり身元の確認も済むとすんなりと中に入れた。


「普段は魔力持ちでなければこう簡単には入れないんだよ。」


と、オブリー伯から聞かされる。それだけ今の主をなんとかしたいと皆が思っているのだろうとカリンは思った。入ってしばらくしないうちにカリンは目隠しをされた。なんでも機密事項がたくさんある事、それから魔力に満ちたこの建物の中では普通の人間はどんな影響を受けるかわからない。目隠しと同時にイヤーマフを付けられ一歩も動いていないのに右も左も分からない状態だ。オブリーが手を取り段差の数などを教えながら歩かされる。


「あれ?オブリーさん、あの声聞こえてますよ。この、なんていうんですか耳を遮断しているもの必要ですか?」


「ああ、それはね・・・んー怖がらせたくないから言いたくなかったんだけど、ルディ様のいる辺りまでは生者も亡者も混在しているんだよ。たまに悪気はないんだが姿を見せたり話しかけたりされるからね、うん。それについてはまぁ・・・あんまり考えない方がいいね。とにかくそれをつけておけば余計な声は聞こえないから。」


あ〜っ、聞くんじゃなかったと、後悔しながら足元は頼りなく、でも手はしっかりとオブリーから離さず歩いて行った。そして一体登ったのか降りて行ったのかもわからなくなるくらい歩いてやっと止まった。そこで目隠しとイヤーマフをはずされる。真っ暗な中にいたので高い小窓から差し込む陽が少し眩しさを感じる。それもすぐ慣れて目の前に頑丈そうな扉に不思議な幾何学模様のようなモノが描かれた扉があった。ドアには取っ手がない、鍵穴もない。


「カリン。中に入ると灯りは殆どないはずだから気をつけて。あと、私たちはこのラインから近づけないんだ。彼の魔法で弾かれてしまう。ここで防御魔法を張って待っているけど危険を感じたらすぐにここまで飛び込んでおいで。」


その言葉に振り返る。


「危険⁉︎」


「今の彼は君の知る彼じゃないと思う。そして、君が今日この場で中から一度出さないと彼は深淵の中に取り込まれてしまうかもしれないんだ。」


「そんなの・・・聞いてません・・・。」


「実は殿下方はご存知ないんだ、これは魔法師が誰でも一度は試される試練みたいなものでね・・・人によってその深淵の深さや大きさは違うけど、彼は未だかつてない力の持ち主だから。」


カリンは前に向き直り肩に手をやり首をコキコキと左右に鳴らした。そして、深く息を吐き肩の力を抜く。それから一歩、歩みを進めた。


「行ってきます。」


次の瞬間、扉が大きな花のように開きカリンをその中に飲み込んだ。


「ちょっ⁉︎カリンッ‼︎」


残されたオブリーは呆然と見つめるしかなかった。


あれっ?と、思うとカリンは扉の中にいた。確かに薄暗く目が慣れるまで動かずにいようとしたら横から椅子が向かってきて手を生やしカリンを座らせるとくるくる回りながら仄かに明かりが灯された作業台の近くまで行くと止まった。


「・・・遅い・・・」


クラクラとする頭を落ち着かせ何か聞こえたと周りを見る。そこには少し伸びた黒髪がいつも以上にクシャクシャになった彼がいた。

カリンには目もくれず黙々と作業をしている。魔法師の仕事中の正装だろうか、いつも見るローブ姿の服装ではなくシルクのような生地の服を纏い顔は半分、いやほとんど隠れ辛うじて両眼が見える。その両眼が今までカリンが見たことのない様な虹彩を放っていた。まるで、猫の眼のようだと思いながら本当にルディなのか確信が持てずにいた。


「あの・・・ルディ様?お久しぶりです、私今日はお暇をいただいて・・その、二ヶ月もお顔を拝見していなかったのでお会いしに来ました。えと、もしかしてお邪魔でしたか?」


黒い頭が小さく被りを振る。


「お話しする時間はありますか?」


コクリ、と小さく頷く。あれ?なんかこの感じどこかで・・・ああ、そうだ!初めてのウルリヒでダウンした時に泣いていたあの子だ。そうか、またここで私が来るのを待っていてくださったんだ。


「・・・なんでもわかるんだね。なんでだろう?・・・」


「あの、ルディ様。お顔を見せて頂けませんか?私の事も見てください、たった二ヶ月ですが髪も少し伸びたんですよ。ずっとご連絡取りたかったのですが、方法がわからなくて。魔法省への面会も手紙も言伝も駄目でした・・・・・忘れられたんじゃないかって不安で・・このまま帰れなくなるんじゃないかって」


「知ってる。」


カリンの言葉を遮るように呟かれた。


「君の居場所は指輪がいつも教えてくれたから、感情まで・・・これ、見てごらん。」


指を差す方を見ると水鏡があった。ルディがそこに杖の先を浸すと外にいるオブリーが見える。くるくるかき回し杖を止めるとファンテーヌの部屋が映し出された。侍女たちがいるが会話は聞こえない。


「君は良く働いてたね。周りを和ませ、ファンテーヌ様の不安も消した。だけど笑って楽しそうにしているのに、いつも一人になると悲しげな顔になるんだ。アレはどうして?誰か意地悪がいたの?」


「ルディ様がいらっしゃらないからです。」


驚いたように彼は水鏡から杖を離した。何かに耐えるように左手で胸の辺りを掴んでいる。


「お顔を見せてください、ルディ様。私、もしルディ様が以前と何か違っていても驚きません、私の大事なご主人様ですから。」


椅子から立ち上がりきっぱりと言い切った。


「怖く・・・ない?」


「はい。」


「きらいに・・・ならない?」


「当たり前です。」


「でも、ぼくの、このすがたをみたひとはみんな・・・おどろくよ?それで、あそんでくれなくなるんだよ・・・」


目の前には小さな5歳くらいの男の子が居た。やっぱりあの子だ、カリンは微笑みしゃがみこむと顔を隠そうとするその小さな手を両手で包んだ。


「お名前は?」


「ルディってみんな・・・おかあさんと、おとうさんはよぶよ。ね、手ぇはなして。きらわれたくないっ・・・」


「私もルディ様って呼んでも?」


戸惑いながらコクンと頷く。


「ねぇ、私が誰だがわかる?」


ふるふると小さな頭が揺れる。


「私はあなたをぜーったいに、嫌いにならない人よ。あなたがもう少し大きくなったら、私と出会うの。」


「ほんと⁉︎きらいにならない?」


片手で癖毛を撫でつけながら優しく話す。


「ええ、本当よ。あなたのその瞳もとても綺麗だと思うわ。ね?私の瞳も見て、時々万華鏡みたいにくるくる色が変わるの。私のこと怖い?」


小さな頭がまた被りを振った。


「ね?私達仲良くなれそうなんだけど、どう思う。」


小さな手がするりと抜けてカリンの首にかきついた。


「ぼく!まってたんだっ」


カリンはぎゅうっと抱きしめる。


「だけど、おしごとしなきゃいけないし!あいたかったのに、寂しかったのにっ‼︎」


段々背丈が伸びてくる、気がつくとカリンが抱きしめられていた。


「悪い王子のせいでこの部屋に閉じ込められたんだ‼︎」


「ふふ、確かにあの方は悪い王子様ですね。」


「だろっ⁉︎なんで君早く来てくれなかったのさっ‼︎」


「すみません、こんな事になっているとは知らされてませんでした。でも、毎晩指輪に祈りを込めていたんですよ。」


「知ってるよ、女性の部屋まで流石に覗かなかったけど毎晩耳飾りが教えてくれた。だからこの程度で済んだんだ。」


カリンから顔を離しもう一度問いかける。


「僕、今まで君が見たことのない姿をしてない?怖くないのかい?」


「その瞳は素人ですからわかりませんが、集中してお仕事をされていたからでしょう?そんな人を嫌いになるようなカリンじゃございません。それに、先程も申し上げましたがとても綺麗な瞳です。」


「・・・お腹が空いた・・・」


「へ?」


ルディは側にあった箒に呪文をかけカリンを抱えて飛び乗る。


「オブリーさんも共犯だから脅かそう」


珍しく楽し気な悪戯っ子のように呟くと扉が開き箒はその間をくぐり抜ける、その直後バタンと扉がしまった。


「え?あ、ルディ様⁉︎カリンっ!」


「執務室にお食事をお願いします〜っ」


残されたオブリーは呆然としたが、慌てて後を追う。


「防音魔法は施したから、後は目を閉じていて。」


「ででで、でもルディ様がいきなり明るい昼間に外に出たらそちらの目が・・・っ」


しばらくすると箒のスピードが落ちてきた。


「大丈夫。もう目を開けていいよ。」


ひんやりした風に驚き目を開くと外の世界はもう日が暮れていた。


「なんで執務室ってわかったの?」


「まだ家には帰れませんし、それならお城の中で落ち着けるのはあそこだと思いました。


「やっぱり、有能な侍女だ!」


カリンを抱き寄せ髪をくしゃくしゃにしながら楽しそうに笑う魔法師と侍女は執務室に向けて飛んで行った。

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