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魔法使いと侍女の物語  作者: にしのかなで
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婚約式の朝に

春の陽気が気持ち良く新緑も芽吹き始めた頃、ハヴェルン王太子アルベリヒとバイラル子爵令嬢ファンテーヌとの正式な婚約を取り交わす儀式が行われる日が来た。


その一週間前にカリンは侍女長に呼び出されていた。


「カーテローゼさん。あなたのお役目はあと二日で終わります。後ほどファンテーヌ様から直々にお話があると思いますが他の侍女にも伝えておきます。元々短期間のお勤めでしたが、あなたは大変よく働いていました。どこのお屋敷に行かれても恥ずかしくないと思います。短い期間で良く頑張りましたね。」


普段は厳しい顔の侍女長が微笑みながらそういうので、急な暇を出されたことよりそちらの方に気を取られてしまった。


「あ、はい。あの、侍女長のご指導のお蔭でなんとかこなしてこれました。ありがとうございました。」


その後は仕事のコツを覚え僅かな空き時間を作ることも出来るようになった同じ侍女仲間から別れを惜しまれ、最後の夜はみんなで集まってお喋りしましょうなどと盛り上がったりした。そしてその日の午後、ファンテーヌからお呼出しがあった。


「失礼します。アレクシア・カーテローゼ・ハプトマンです。」


「どうぞ、入ってちょうだい。」


中に入ると驚いたことに殿下とオブリー伯までいた。席を勧められとりあえず座る前に二人に挨拶をする。


「ごめんなさいね、こちらの都合で急に暇を出すことになって。」


「いいえ、最初から短期間の予定と聞いてましたし。ですが、あの・・・なぜ殿下とオブリー伯爵が?」


「うん、それについては説明の前にまずカリンに礼を言う。俺の我儘でファンテーヌ付きの侍女にして二ヶ月程か?その間よく働いてくれた、お蔭でファンテーヌもこの後のお妃教育にも無事専念出来そうだ。侍女長からは引き留めたいと要望がある程よく働いたようだな、他の侍女達の潤滑剤にもなっていい効果が出た。お前は気づかなかったかも知れないがやはり貴族の娘、それも歳は下でも伯爵令嬢も侍女にいるあれで最初の頃はなかなか上手くいってなかったんだ。未来の王太子妃とはいえ子爵家だからな。それに、イブリンという娘がいただろう?あれがなかなかに気が強く秘書官時代から引き抜かれているから伯爵令嬢と気が合わなくてな・・・いや〜、でも全く庶民ということでお前を中に放り込んだら自然とうまく回り出した。ホンット助かった。」


え、そんなドロドロ劇場が背景にあったなんて・・・知らなかった。


「で、今度は私から。カリン、お勤めご苦労様。君とガウス魔法師が王宮に詰めている間に何とか宅地開発の方は進んでるよ、私は警備の方で忙しいから臨時でアナスタシアがハース事務官を補佐している。ああ、彼も婚約式が終われば殿下の正式な秘書官になるよ。」


「そうですか!ハース事務官は色々ファンテーヌ様に指導をお願いにいらしてるのを何度かお見かけしました。何かお祝いを差し上げないと。あ、それで開発はどのように進んでいますか?」


「うん。あの辺り一帯を一度浄化して学校と養護施設それから教会を建てるとこまでは進んでる。あとは、宅地を区切って売り出しをかけるところだ。賑やかになるよ、きっと。」


「では、区画整理のような工事は終わったのですか?私、お暇を頂くものの帰る先はどうなるのか心配で・・・」


「「「・・・・・」」」


三人の高貴な立場ある人間が急に気まずそうに押し黙ってしまった。


「あれ?皆さんどうなさいました?」


無邪気に問いかけるカリンに対し三人は意を決したらしい。


「あのね、カリン。本当に申し訳ないのだけれど・・・」


「お前には婚約式が終わるまでファンテーヌの護衛を勤めてもらう。」


「やはり女性のお側には女性の護衛が着いていた方が何かと話しやすいですし・・・」


「・・・本当の理由はなんですか?」


可愛らしく微笑んで小首を傾げといかける一介の侍女からは殺気が漂っていた。かつての氷の秘書官もたじろぐほどに・・・。


理由は簡単だった。侍女の仕事はまだ続くはずだったが警護の面で婚約式の日にカリンが適任だとエンケル将軍がまた引っ張り出したのだ。しかも、婚約式を終えてお役御免になるかというとそうではない。今は留守のガウス家の周りはまだ整備が必要な箇所や建築中の建物工事などがあり周囲は騒がしく危険な上、肝心の主であるガウス魔法技師が婚礼の儀が終わるまで魔法省に缶詰状態でありしかも慎重な作業を集中してやっているためカリンの話を持ち出せばたちまち集中力のバランスが崩れる。そういうわけでとりあえず婚約式には護衛として、その後はどう扱うか実は困っているらしい。シュヴァリエ公爵家に預ければいいのだが、何せ二人は魔具で繋がっている。城から出ていなくなればすぐに緊張で張り詰めているルディが反応し力の暴走もあり得る。首脳陣はそこに頭を痛めていた。


言われてみれば全く連絡を取らずに長期離れて暮らしたことはない。ウルリヒに最初に留学した時もカリンからの手紙が上手い具合に定期的に読まれるようにしてあったし、カリンは離れでフェンリルと留守番しているのだったからルディにとって安心して出かけられた。ところが今回は同じ場所で働いていることは確かだが働き始めてお互い顔を合わせる事もできていない。更にこの婚約式の魔法のためにルディはかつてないほどの集中力を注ぎすっかり魔法師として成長している。だからその集中力に狂いが出た時が怖いのだ。


「で、とりあえず婚約式迄は王宮勤務というわけだ。給料は弾むから頼むっ‼︎なんとか城に留まってくれ‼︎」


一国のしかも次期国王が簡単に私なんかに頭を下げていいのかしら?などと思いつつ問いかける。


「あの、でも私が他の部署に配属それも護衛にと知れたらやはりバランスが狂ってしまうんじゃ?多分、指輪から何か異変が伝わると思うんですが・・・」


「え、そうなの?」


「多分。私もそこまで集中なさっているお姿は拝見したことがありませんが、ええと勤務に入る前に一度お会いできませんでしょうか?」


「いや、それが彼邪魔が入らないように複雑な魔法で鍵をかけてしまっているんだよ。」


ーああ、ウルリヒでもあったな。しょうがない人だな、もう・・・ー


「大丈夫です。多分なんとかなりますから、じゃあ私はあと二日ここにいてその後は部屋も変わるんですか?それならそこも話しておかないと、私って多分いつまでたっても5歳の頃のままなんでしょうね、そんなに心配かけて。」


違うっ!それ絶対違う‼︎と三人の大人は思った。


「え〜と、ファンテーヌ様。私この後ルディ様に説明に行ってきていいですか?あと、婚約式の後はルディ様の許可が頂ければルディ様の執務室でお待ちしたいのですが。」


「・・・そうね。殿下、よろしいですか?」


「ああ、ルディに関しては全権カリンに委ねる。」


「じゃあ、オブリー伯爵カリンの案内をお願いできますか?」


「はい、かしこまりました。」


肩より少し伸びた髪の毛を撫でながらファンテーヌが言う。


「あなたはガウス魔法師の事をなんでもわかるのね。」


「はい。大事にしてくださる大切なご主人様ですから。」


にっこり笑ってカリンが言う。三人の大人はほのぼのとしてしまった。女神に愛され大陸一の魔法使いを自在に扱うちいさな少女は自分が思うより魔法使いに執着されていることを知らない。


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