婚礼の日取り
王太子アルベリヒとファンテーヌの婚礼の日取りが決まった。婚約期間を半年置いて夏に挙式となる。その前に婚約披露もあるので、これからさらに忙しくなる。その前にファンテーヌに呼び出されカリンと共に例の指輪のデザインを見せられる。先日のお茶会で将軍と二人でカリンを着せ替え人形替わりに楽しんだおかげで将軍の好み、指の大体のサイズなどを見て出来上がったデザイン画が目の前に広げられた。
一つは単純に将軍の意外な少女趣味を重視し石の周りをピンクの石で囲みリングには細かいが可愛らしい装飾がなされている。もう一つは石を際立てさせリングの部分にダイアモンドを大中小と両側に配置したもの。そして最後の一枚がシンプルな台座に純銀のリング他の石は一切使わず、だが、リングの両脇に雪の結晶をあしらった模様を掘りリングの内側にはバルト族の文字で永遠の愛をと刻むようになっている。
「お歳と指のサイズから見て彼女の好む一枚目はちょっとどうかなと。で、二枚目は何と無くこの周りの石が邪魔かなと、そこでシンプルな三枚目を描いたのですが両側の雪の結晶模様をどうしようかと。あと、バルト族の言葉で内側に文字を刻んで頂けたらどうかと。」
「そうですね、三枚目がいいかな。祝福を受けた魔法石に純銀の台座なら魔除けとして最良ですし、バルトの文字・・・よく探せましたね。あと、この結晶のデザインはどうしようかな。将軍の象徴だけど少尉は将軍を戦場に戻したくないんですよね。思い出すんじゃないかな戦場を・・・。」
「あの、私は結晶の部分は無くていいと思います。少尉は純粋な気持ちを伝えたいのですからそのバルト族の文字を刻んだだけで将軍は感激するんじゃないでしょうか?」
「そうね。」
「わかりました、じゃあこのデザインで早速作ります。」
「あ!ちょっと待ってね、ええとはい。」
コロコロとテーブルの上に色取りどりの指輪のケースが袋の中から転げ出る。
「私の知り合いの業者に届けて貰ったの。どの色が合うかしら?ん〜、私はこの水色っぽいのがいいかなと思うのだけど。」
確かに指輪に合っている。カリンも納得しケースを預かり魔法省に篭る。二人の幸せを願いながら作業に取り掛かる。うまく行けばいいんだけど・・・。
それから3日後、将軍と少尉はウルリヒに帰国していった。滞在中に結果を聞いてないので帰る途中か、帰国してから申し込むのか。何にしてもいい方向に進みますようにと願う。
さて、これからは我が国の王太子がやっと迎える婚礼に向けての準備だ。まず婚約式か行われる。会場周辺の警備などはオブリーの管轄だけど、ルディは王太子とファンテーヌが身に付ける魔具の製作と会場の飾り付けの総指揮をすることになっている。その点に関して彼は気が重かった、飾り付けは初めてだし社交の場でもあまり真面目に勉強してなかったからだ。
「こんな時にバイラル秘書官が必要なんだよな。」
と、今は遥か高い地位に昇ってしまったかつての有能な同僚を思う。彼女のお祝いのために彼女に意見を求めるのは愚直な事だ。なんとか頭をフルに回転させて働かないと・・・。ところでカリンは他の侍女達に馴染んでるだろうか、と気に病む。もう夜中近くだがまだ執務室にいるルディはしばらくあっていない本来なら自分の専属侍女を思い浮かべた。
そのころ、カリンはファンテーヌ付き侍女の部屋にいた。王族の侍女ともなると高位貴族の娘や豪商の娘など名家の令嬢が選ばれる。王族の身の回りの世話をしたという経歴は縁談に有利に働くし、礼儀作法も身に付くからだ。だから気位の高い令嬢もいる、例えば独身の王子がいれば目に触れる機会が多い分、もしかすれば寵愛を受けるチャンスもある。だから互いに牽制し合う侍女同士の争いもあるがここハヴェルン王家ではなるだけそのようなことを避けるため侍女や使用人達の身元は厳重に調べ愚かな争いを少なくするよう努めていた。そして王族の側付き達には大概個室が充てがわれているが、今回カリンはイレギュラーなため商家の娘イブリンと同室になった。これはなるだけ庶民的な者といた方がカリンも気安くできるだろうというファンテーヌの配慮でもあった。確かにカリンより二歳歳上のイブリンは気の利く娘でカリンの教育係も務め妹の様に可愛がってくれていた。お互い身分は庶民だしカリンはアナスタシアやヴィルヘルミナという高貴な立場とは違うイブリンとの会話に新鮮さを覚えた。だから主が心配している夜中近くまでついついお喋りが止まらなくなることも多いのだった。
「どう、王太子殿下のご婚約者の侍女の仕事は慣れた?」
「ええ、初めは緊張しましたけど環境には大分慣れてきました。ただ、同じ仕事をする中にも貴族のご令嬢がいらっしゃるのでどう接していいのかとまどってます。」
「そうよね。でも大丈夫、皆さん素敵な方ばかりよ。今回初めてのお勤めの方もいらっしゃるし。私は秘書室の侍女から引き抜いていただいたのだけと、普通の娘がなんで⁉︎って感じでびっくりしたわ。最初はそれこそあなたみたいに緊張したけど、カリンが来てくれて良かったやっぱり身近に感じてホッとするわ。あ、そうか、だから私やあなたが呼ばれたのね。ファンテーヌ様も多分ホッと息をつける相手がほしかったのじゃないかしら?私達の主な仕事はファンテーヌ様のお話し相手でしょ、あの方気取った所がなくて最高の妃殿下になられると思うわ。あなたもファンテーヌ様が秘書官の頃からお知り合いなんですって?」
「そうなんですけど、でもあの頃を思い返しても何故お二人がこうなったかわからないの。ただ思い出すのはいつも仕事をサボろうとする殿下を秘書官が・・ファンテーヌ様がお叱りになっていたことだけ。」
肩をすくめてカリンが話すとイブリンはそうそう、いつも愚痴ってたわとケラケラ笑う。それにつられてカリンも笑った。こんなに楽しく笑えるなんて、この仕事も悪くないと思いながら。