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魔法使いと侍女の物語  作者: にしのかなで
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ところでお住まいは決まりましたか?

タオルをカリンに渡しながらそういえばとルディが尋ねた。


「あの、お住まいは決まりましたか?」


「はぁ〜、それがまだなんですよ。それもあって今日は下見も兼ねて来たんですが。」


「えっ!まだこの辺諦めてないんですか。」


「この辺に住まわれるおつもりならアナスタシア様にもご覧いただいた方がよくないですか?今日お時間があればお昼を兼ねてお二人で起こしいただけると商店街や、街道沿いの空き屋敷なんかもご案内できますよ!」


どうやらカリンは賛成らしい。一から建てるのもいいが、街道を挟んだ向こう側には貴族の屋敷や商家の邸宅などが建ち並ぶ区域があるらしかった。その話に気を良くしたオブリーは午後にまた来ると言い残し一旦帰っていった。


カリンは今日ばかりは茶器の片付け以外はルディの魔法に掃除を任せた、ハース事務官宅からの差し入れにはパンも入っており早速昼食の下ごしらえをするとルディを呼んで畑の作り方やこの土地にはまずどの規模から何を作ればいいかを尋ねていたと話す。それから二人は婚礼に着ていく衣装をどうするか話し合った。これ以上公爵家に世話になる訳にもいかず、ルディは魔法師の正装で参列するがカリンは街の衣装屋で用意するよう話は決まった。まだ昼食まで間があるのでせっかくだからと街道に出るとすぐにあちこちの店からカリンに声がかかる。成る程確かにカリンは馴染んでいるし便利もいい、ついでに衣装屋に寄って計測を済ませ店主がカリンの髪と瞳に相応しく且つ今回の婚礼に出席するに相応しいデザインを幾つか描き出したがやはり庶民の二人にはよくわからない。そこでバイラル秘書官に意見を求めようと二人はデザイン画を暫く借りる事にする。そして二人の昼食が終わり、庭に出て二人が話していると近い未来の若夫婦がやって来た。


「・・・・・お久しぶり二人とも、ウルリヒではかなり大変だったと聞いてるわ。もちろん、カリンあなたのその髪の事もね。」


「お久しぶりでございます、アナスタシア様。本日はご婚礼の招待状を伯爵自らお持ちいただいた上に私のようなものまでご招待いただきありがとうございます。」


カリンとルディは努めて明るく和かに表情と態度に気を配った。なにせ、目の前のご令嬢はカリンを見てかなりの衝撃を受けているはずだ、それを向こうも一瞬の沈黙に収め挨拶をしてくれたのだから。


「それにしても・・・話には聞いていたけどホントに思い切ったわね。ちょっと後ろも見せてくれる?あら、腕がいいわねさすが王太子妃殿下の侍女。綺麗に切り揃えてくれてるわ。まぁ、未成年だし・・・あら!ね、カリンあなた幾つになったの?」


「今年13になりました。」


「そう、そんな年の子が近侍も辞めて一人でこの家で留守番するのは心配だわ。さぁ、二人ともこの辺りを私達に見せて頂戴な。」


にっこり笑って強請られる。まずは自宅からとアナスタシアはカリンにガウス家を案内させることにした。


「・・・オブリーさん。どういう事でしょうか?あの方この辺に建てる気に見えるのですが・・・」


「いやぁ、以前お邪魔した時に話してあって彼女も興味があったんですよ。帰って話したら大喜びで、ほら割と軽装で来てるでしょう?」


彼が見上げた先には二階の窓から外の眺めを見てはしゃぐ二人がいた。確かに公爵令嬢にしては軽装だ。


「もともと、魔法魔術技師学校の寮にも入ってましたしね。アレで意外と庶民派なんですよ彼女。」


話していると二人が中から出てきてカリンが鍵をかけていた。


「素敵なお家ねルディ!二階からの眺めもいいし、さぁ街道沿いまで歩くわよ。」


うわ、えらいご機嫌だ。何言ったんだカリン。


「すみません、お茶をご用意しようとしたのですが、街道の方まで行くと色々なお店があるとお話ししたのが気になられたそうでそちらでお茶を飲まれたいと・・・あの、お供の方もいらっしゃいませんがよろしいですか?」


「ここに強力な魔法職師が二人いるんだけど、まだ彼女に警護がいると思う?」


「荷物持ちなら僕らがいるし、カリンも今日はアナスタシア様と一緒に楽しんだらいいよ。今までこんな風に出かける事も出来なかったし、日頃のご褒美に何か買ってあげるよ。あ、財布取ってこなきゃ!ちょっと待っててください。」


「じゃあ、私も!鍵も開けなきゃっ。」


パタパタと自宅に戻る二人を見送り新米伯爵は小川を覗きこむ婚約者に近づく。


「どう?気に入った?」


「やだ、急に声かけないでよびっくりする!ふふ〜。気に入ったわね、隣にカリンがいる家なんて素敵。それにね、本当にいい所だわ。ここは開拓すべきよ、過去にあった事を偲んでいつまでも更地で置いとくなんて勿体無いわ。」


「じゃあ、休み明けに早速王太子殿下に議案書を提出しなきゃな。」


「ふふ、あの二人驚くでしょうね。」


「特にルディ様はねぇ。以前も隣に豪華な屋敷が建てられたら困るとか言ってたし。」


「やぁねぇ、私が質素堅実な事知らないのかしら。固〜いザ・貴族の生活から少しは離れたいわ。だから街道奥にお屋敷通りがあるのはわかってたけど、ここでのんびり暮らせるならそっちがいいもの。それにお隣が最強魔法師とカリンならお母様もお許しになるでしょ?」


「君がそこまで考えてたとはね、今から建築じゃ式に間に合うかな・・・。」


お待たせしましたと二人が戻り、いざ出発と四人で出かける。雑貨屋に小物屋、ぐるりと一巡して四人は軽食屋の軒先に出ているテーブルに着きそれぞれ注文をする。注文を受けたのは店の娘で久しぶりに会うカリンの髪を残念がり初めて会うカリンの主と同席者に態度が一瞬硬直するがカリンが笑ながら話しかけるのでどうやらすぐにいつもの看板娘に戻ったようだ。テーブルに並んだ軽食と飲み物を口にしながら話題は王太子の花嫁選びになった。


「ホントに決まるのかしら?あの人すぐノラリクラリと交わして逃げるからね。」


「いや、私は決まると思うね。あのバイラル秘書官が綿密に計画を立ててるし。」


「ああ、それで招待客に含まれたの?」


「え⁉︎お二人の婚礼の場でお見合いのセッティングですか?」


「そうなの、さりげな〜くあちこちの王太子妃候補が混ぜられてるのよ。何たってうちから招待状をお出しすれば何の不思議もなく向こうの方も来られるでしょう?そうか、そこまで本気でやる気なのね彼女。」


「王太子妃さえ決まれば貴族の派閥争いも大人しくなりますからね。仕事も放っぽりだしてウルリヒに行ったことはかなり頭にきてる様子で、私も帰るなりこの計画を持ちかけられて・・・。」


ルディとカリンは顔を見合わせて話題の秘書官の苦労を想像した。その後アナスタシアとオブリーは馬車を拾って帰って行った、どうやらどこまでも庶民的に過ごしたかったようだ。それを見送り荷物を抱え自宅へと帰る二人の後ろ姿は日暮れて行く街中でしばらく噂になることには気づいていない。

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