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魔法使いと侍女の物語  作者: にしのかなで
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招待状

ウルリヒから帰ったルディとカリンには特別功労賞として他の者達より長い2週間程の休暇を貰っていた。ルディは帰国したその日のあまりの自分のみっともなさに項垂れながら執務室からそのまま移動魔法で自宅に帰り着いた、二人はそれぞれ久々の我が家のベッドで何の心配もなく寛げる喜びにぐっすりと眠った。翌朝からはまるで何事もなかったかのようにカリンが起き出し長い留守で食料がない事に慌てて街道筋の商店街に買い出しに行くと言うのでそれなら一緒にと二人は家に鍵をかけ厩に行くと忘れ物に気がついた・・・。


「あちゃー、しまったな。すっかり忘れてたよ・・・」


「はい、私もうっかりしていました。まぁ、買い出しは歩いてでも行けますし朝食はパン屋さんで何か買って馬を引き取りに行きましょうか。」


「そうだねぇ。」


二人が話しながら家の前にいると馬車の音が近づいて来る、揃ってそちらを見ると一足先に帰国していたハース事務官が手を振りながら4頭立ての馬車で乗り付けて来た。

いやいや実に気の利く事務官である。どうも忘れるだろうと昨日王宮の厩を覗いたらやはりガウス家の2頭が残されていた。で、翌日は休日でもあるしとわざわざ朝早くから王宮に立ち寄り馬を届けてくれたのだ。


「あ、そうか。今日は事務官達も休日だったね。」


馬を受け取りカリンが厩に連れて行く。本当ならこれ幸いと馬で買い出しに出るつもりが実家が農家の事務官が野菜やら色々と届けてくれた上、彼の母親がカリンが疲れているだろうからと朝食まで持たせてくれたのだ。そのまま厩から家に入りお茶の支度をする、そのうちに男性二人も中に入ってきた。


「田舎者の味なのでお口に合うかわかりませんが。あ、カリンさん食器も要らないようにお袋が用意してるらしいのでどうぞ食べて下さい。」


「うわ、申し訳ないです。お母様によろしくお伝えください。じゃあ、いただきますね。」


本当に簡単かつ、お腹を満たす朝食だった。焼きたてでまだ柔らかいバゲットの生地に新鮮な野菜とハムやチーズを挟んでいるがその中身にハース家の味付けが施されている。


「「美味しい!」」


カリンは味わいながら味付けの研究をしルディはこれが世に言う「お袋の味」かと、料理の腕はイマイチだった養母を思い出す。そんな二人を事務官はニコニコしながらお茶を飲みながら見ていた。


「あの、ガウス様。この休暇明けにはカリンさんはもう近侍の仕事はお辞めになりますか?その、子鹿会から復帰はいつだと帰国してからせっつかれてるんですが・・・あ〜、彼等はまだカリンさんの髪の事を知らないんですよね。女子部の方もバイラル秘書官がとにかく帰国してから決まるって、毎日追っかけられるんでピシャリと言い切った様ですがあちらも今のカリンさんを見たら・・・」


「まだ盛り上がってるんですか⁈まいったな、この子は一侍女に戻りたい様なので何とか解散させてもらわないといけないなぁ。」


「ですね。私も帰国したら解散しようと思っていたんです。じゃあ、秘書官と上手い具合にやっときますね。でも、あの方々はこの事知ってても目の当たりにしたら・・・」


ああ、そうだった・・・婚礼の儀がある。この髪見たら流石にオブリーさんまで嘆きそうだな・・・いつだっけ?年内?はは、伸びないよねぇ。

お茶を口にしながら思わず遠い目になるが、当の本人は全く違う事に夢中だった。パンに挟まれたサラダのレシピを何とか知りたいとか自分は食べたからちょっと見て欲しいところがあると、事務官を連れ颯爽と外に出て行った。その直後、聞き覚えのある声が外から聞こえる悲鳴のような嘆きのような。


「うわ、まずい!考えてたら来ちゃったよ。」


慌てて自分も外に出るとカリンに軽くあしらわれ呆然と、事務官と二人で畑の方で真剣に話し合う二人を見つめるオブリー伯爵がいた。とりあえず挨拶を交わし家の中に招き入れる。客間に通してお茶を運ぶとそれを飲んで今では伯爵となったかつての彼の執事を落ち着かせることにする。窓の外では事務官がこちらに会釈をしカリンが元気に手を振って見送っているところだった。


スカートの裾を翻し上機嫌で家の中に入って来ると客間を覗きこむ。あまり入りたくなさそうな表情を見て手招きして隣に座るように言うと渋々入ってきて隣の席に座った。途端に空気が変わる、懐かしいお説教タイムが始まるのだ・・・二人は覚悟を決めた。お茶を一口飲み、呼吸を軽く整えるとまずオブリーは懐から結婚式の招待状をテーブルに出した。キチンと二通準備されたそれはシンプルかつ上品なデザインで二人ともありがたく受け取った。


「で、カリン。君はその髪をアナスタシアにいや、シュヴァリエ公爵家にどう見せる気なのかな?」


ーキター‼︎ー


「確かにね、無事に帰ってきたことだけでもありがたいことだよ。ヴィルヘルミナ王太子妃から話は聞かされて覚悟はして来ましたがね、昔からしっかり言われてましたよね!髪は女の命だと。あ〜あ、これじゃフェンリルまで怒り出しそうだ・・・」


「す、すみません。僕が付いていながら。」


「全くですね。」


「ご、ごめんなさい!オブリーさん、あ!伯爵。」


「あのですね、お二人には身分が変わっても私はあの頃と同じように接しますから。呼び名も敬称もどうでもいいんですよ。とりあえず、カリン。」


「はい!」


「無事に帰ってきてくれてありがとう。アナスタシアや殿下方もヴィルヘルミナ王太子妃から経緯の説明を受けている。公爵家も了承済みだよ。安心して出席してくれるかな?」


「お叱りは受けませんか?がっかりされませんか?」


「ははっ、大丈夫だよ。それより欠席される方が辛い。私もね、君が何と引き換えにその髪を失ったかそしてそれが結果どう働き一つの戦争を終わらせたか聞いている。一番辛いのは君だろ?カリン。」


「ありがとうございます。私、お二人の婚礼に間に合う様にと、それもあったので頑張れました。話には聞いていても実際ご覧になられると皆さんがっかりしてお式にも招かれなかったらどうしようとおもっ・・・思って、ふ、不安でした・・・」


ポロポロと涙を流し始めたカリンにオブリーはオロオロしたが、隣でルディがほらほら泣かない泣かないとあやす姿を見て離れでの懐かしい生活を思い出した。結局ルディがタオルを取りに行き帰ってくるまで今度はオブリーがルディよりもがっしりとした掌で頭を撫でた、偉かったねと言いながら。

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