女性からの便りは愛の言葉だけではない。
「親愛なるお兄様。
私の輿入れの際には付き添い頂きありがとうございました。その後、王宮に戻られたようですが如何ですか?将来のハヴェルンを担うお仕事は大変かと思います。さて、予想通りオーランドとは派閥が分かれたようですね。私、確かにこれを機に邪な考えの貴族を一掃し兄弟力を合わせてハヴェルンの発展をと望みましたが、何やらまた私の大事な方にご迷惑をおかけするような事態になっているとお聞きしまして、心配でお手紙を差し上げました。よもや、巻き込むようなことはなさりませんわよね?もし、そのような事になれば私はウルリヒ軍を率いてそちらにお伺いしなくてはいけなくなりますもの。どうか、私達夫婦に祝福を授けて下さったあの方をくれぐれも巻き込む事のないようオーランドと共に力を合わせ事態を解決してくださいませ。
では、お身体にお気をつけて。
ウルリヒ王国王太子妃ヴィルヘルミナ 」
「ニーム・エイナル・オブリー伯爵
率直に申し上げます。カリンとルディを巻き込む事から命懸けで守り通すように。もしも、貴方に何かあれば私は修道院に入りますのでご安心を。
アナスタシア・フォン・シュヴァリエ」
「親愛なる弟、オーランド。
貴方は存じてないでしょうが、この大陸で一番敵に回してはいけないのは、兄でも私でもなく魔法使いに仕える侍女なのですよ。よく覚えておきなさい。
ウルリヒ王国王太子妃ヴィルヘルミナ 」
3通の手紙は実に簡素で物騒な内容だった。
アルベリヒの部屋で3人の男が項垂れている。
「兄上、カリンがなんで最強なんですか?ウルリヒで何があったのです。先程のあの態度も一国の王太子がこう言っては何ですが一介の侍女に対するものではないでしょう?」
「・・・お前はいいなぁ。アレの本来の姿を知らないから・・・なあ、オブリー。俺はどこまで怒らせてるだろう・・・?」
「多分まだ落ち着いてますが、本気を出せば二人ともがブロワト事件を凌ぐ力を出してきますね。」
・・・・はあ~、あれ以上か・・・・。
ウルリヒでの事を知る二人は深く溜息をつく。
「ミンナも本気だな。シアもあちらに加わるのだろう、そうなるとユベール辺りがシアの亭主候補か。」
「ちょ、やめて下さいよ。やっと決まったんですよ私達の婚約は!邪魔しないでください。」
「あのさ、二人とも僕にわかるように話してくれる?」
兄と伯爵からウルリヒでの一部始終を聞いたオーランドはやはり溜息をつくと兄を諌めた。
「そりゃ、カリンもルディも怒りますよ!兄上はしゃぎ過ぎっ!」
「だってお前な、あれを見たらお前だってはしゃぐぞ!あのちっこいのが目の前で凄いことをやらかすんだぞ?はしゃぐなという方が無茶だって。な?オブリー。」
「いや、私はお止めしましたよ。国境での時も、ブロワト事件の時も。それを殿下が色々と出て行くからややこしくなったんじゃないですか。また今回も私まで巻き込まれて・・・。」
「そうだなぁ、あれは確かに俺が悪かった。でも今回カリンを持ち出したのは貴族の奴らだ、まさかもう動いてるんだろうか?」
「とりあえず、シュヴァリエ公爵家とガウス夫妻にはカリンを養女にと打診をしてきている貴族が何家かあるようです。上手くいけばあと何年後かに花嫁候補にと。」
「おいおい、オーランドはいいが俺はその時幾つだと思ってるんだ!?俺、嫌だからね?大陸中からハヴェルンの王太子は幼女趣味だったなんて言われるの。」
「それもありますけど兄上、今まで我々の花嫁候補だった貴族令嬢本人とその一族がカリンの存在をどうみてますか気になります。姉上が兄弟を対立させてくるとは予見していましたが、まさかカリンが引き合いに出されるとは思いませんでしたし。あの家で昼間は一人なんでしょう?危険じゃないですか。」
「ふむ。そこなんだよな、ルディの怒りどころも。」
そこへノックと共にバイラル子爵令嬢が入室の許可を取る。
「構わん、入れ。」
「失礼いたします。王太子殿下、宰相と魔法魔術技師長がお会いしたいそうですが。」
「「「・・・・・・・・・。」」」
「え?今から?」
「はい。それから丁度ようございました。オーランド殿下とオブリー伯爵にもご一緒にお話があるそうです。あの、大丈夫ですか?顔色が・・・。」
「いや、大丈夫。うん、宰相と技師長ねいいよ、いつでも。」
ホントかよっっと心の中で残りの二人がツッコミを入れる。宰相と技師長が来るとなると今まで話していたことに関する話だろう。三人とも若干顔色悪くこのあと二人の年配の男性客を迎えるのであった。