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魔法使いと侍女の物語  作者: にしのかなで
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ブロワトは永遠に・・・

体勢を立て直し、ルシアンナはまず空を見上げた。彼女の産み出した黒龍が二頭の翼竜に攻撃されている、あれは確かに大きすぎた、多分眷族の力の前には敵わないだろう。そんな事を考えながら今度はゆっくりと自分の周囲を見渡す。既にウルリヒ・ハヴェルンの魔法師達に囲まれていた。彼等の杖は全て彼女に向けられている。


「っ!ルシアンナ‼︎」


王子が闘いながらも気遣ってくれている。大丈夫、これくらい何の事は無い彼女は王子に向かってそう微笑んだ。この日のために二人がどれだけの犠牲や努力をしてきたか。ルシアンナは右手の人差し指を囲んでいる魔法師達に向けるとその場でくるりと一周した。魔法師らは一瞬何が起きたかわからなかったが杖を持つ手に痛みを覚え気がつくと皆杖を取り落としていた。


「あなた達はまだ杖に頼っているの?」


次の瞬間には丁度、ルシアンナと王子を隔てていた魔法師らが吹き飛ばされた。

その空いた隙間をカツカツと靴音をたて王子の側につき、優雅にまるで茶会にでも遅刻したかのような風情で声をかけた。


「遅れて申し訳ありません、殿下。」


その一連の流れを見ていたルディとカリンはルシアンナに底知れぬ不気味さを覚える。


「カリン、あちらの王子は身体に魔法陣が視える、あのままでは彼の命が持たないだろうね・・・。」


「そんな、あの女性は王子の妃なんですよね?大事な人になんてことを・・・」


カリンはルディの専属侍女だ。妃とは位も違うが忠誠心は同じはずなのに、愛する夫にまで呪術をかけているその行為が例え王子承諾のものとしても解せなかったが気付いてしまった。この形勢不利な中での二人のルシアンナの底知れぬ余裕が何を意味するか。


「ルディ様、強力な防御魔法を何人迄かけられますか?」


「今危ない4人には最強のモノをかけるよ。つまり考えは同じだね。」


「はい、多分魂を入れ替えると思います。でも、そんな事を出来るのですか⁉︎」


「いや、禁忌の術だしだから見た事も聞いた事もない。呪術は失敗すれば呪者に還る、普通じゃないよあの二人は。」


そこへもう一つ軍靴の足音を響かせながら何故かこちらも余裕の表情で少尉がやって来た。


「役者が揃ったか。」


「遅かったな、ヤン。一人で片付けていいのかと思ったぞ。」


少尉に負けず余裕の態度で将軍が応じる。


「いやぁ、やっぱここは将軍に華を持たせるべきかな〜とか思ったけどあんまり手こずってるみたいだから俺がいなきゃダメだな〜って出てきたわけよ。」


二人が視線を合わせ軽口を叩き合う。その間にカリンは気づくとルディの側から対角線上に移動していた。


「⁉︎」


”これで四人で陣が組めたでしょう?”


側には女神がいた。


”さて、私達もわかりやすいように人型になりましょうか。”


そういうとハプトマン女神は普通の人間にも視えるよう姿を現した。その姿を見て眉をひそめたのは言うまでもないヴァンヴィヴリアの二人。そして、その女神の手には先程まで王子が手にしていたはずの剣が握られていた。


「あらあら、こんなに穢しちゃって。カリン、例の魔法石を頂戴な。」


カリンから魔法石を受け取ると躊躇いもなく嵌っていた穢れた魔法石を消し去りそこにあたらしい石を嵌める。そして柄に嵌められていたボロボロの鱗も新しい物に交換した。

それでも流石に刃こぼれの激しい剣には溜息をつき、いつの間にか腰に差していた鞘に入れると将軍と少尉を見た。


「私の剣はダメだわ。あなた達、やれるわね?」


「じゃあ、俺はブロワトを。イェンナ、お前そろそろ本気出してやれよ。」


「わかっている。:シェイナ王子、数多の国々、民族の代表をしてバルト族の生き残りイェンナがお前の首をもらう。」


「は、やはり何処かの生き残りと思っていたがあのバルトの出か。あそこの長は確かみっともなく命乞いして死んでいったな。」


王子の手にはルシアンナの腰から抜いた魔に侵された剣が握られていた。


「族長を悪く言うのは勝手だが、真実を捻じ曲げてお前に語らすつもりはない。運良くあの世で会えれば平伏し許しを乞うがいい。」


ハプトマン女神の背中で隠されカリンには見えなかった、何が起きたのか。反射的に目を閉じ、ただドサリと重たいものが空を飛び落ちた音だけで想像は出来た。しかし、その後のルシアンナの行動は予想外だった。彼女は一瞬目の前の光景に言葉を失くし、そして将軍めがけて斬り込みに走ったのだ。


ー何故⁉︎魂が出てこない!

何故⁉︎私を独りにしないで、すぐにすぐに新しい身体を手に入れるから・・・‼︎ー


「っ⁉︎あ、あああ‼︎」


走り出したルシアンナの背から腹部まで少尉の放った銀の剣が貫通した。そして真っ黒な血が辺りに飛び散り、その場に彼女は跪き苦しげに雄叫びをあげた。


ルディはカリンの元へ走り目を覆い隠し耳を閉じるよう囁いた。これは彼女が見るべきものではない、戦地が初めての彼にでさえ衝撃的だった。そこへ、少年の容姿のまま主神ハーヴェイが近づく。冷たい目でルシアンナを見下ろすと次にハプトマン女神を見た。


「これは誰が始末するんだ?」


「あの時、私が手を下さなかったせいで何代も残してしまいました。将軍、その剣を渡していただいても?」


「勿論、お任せいたします。」


「ありがとう。では、これより呪術師ブロワト最後の生き残りルシアンナ・ブロワトの処刑を行う。その魂は永遠に安らぐことなく二度と再びこの世に産まれ出ずることなかれ。歴代のブロワトの魂と共に地獄の業火に焼かれ続けるであろう。」


ルシアンナはもう既に虫の息であったが最後に呪いの言葉を紡いでいるようであった。


「効かぬ。お前ごとき人間の傲慢な呪術など、この後に及んで我等神々に呪いをかけようともこの場にいる者達この世界に対しての呪詛であろうとも。罪深きその生の終焉をこの場でしかと見届けてもらうがよい。」


カリンは耳を塞ぎルディは彼女を抱きしめた。ブロワトと王子の首は翼竜の長とスゥレイが銜え空高く舞い上がった。



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