魔に取り憑かれた娘
世界は私とあの人の掌の中に収まる。
ヴァンヴィヴリア王国はあらゆる小さな国、小さな一族の治める国とまでいかない民族を次々と侵略し国土を広めてきた。それらのうちのどれかに属していた普通の娘、それが第7王子の妃になるきっかけは彼女が隠し持っていた指輪にあった。平凡な容姿の娘が持っていたのは古の忌まわしき魔女の刻印が彫られた古い指輪と他の民にしてはヴァンヴィヴリア特有の瞳の色に類似した碧い瞳と金の髪。
当時はまだ彼女もシェイナ王子も幼く、例の剣もその頃剛腕であった軍の将軍が持ち主だった。そして彼は娘を目に止め自分の養女にした。
ある日、不遇の中シェイナの母が病死すると彼は王子という立場はあるものの後ろ盾もないためますます窮地に追いやられていった。幼い王子は母への扱いと自分を蔑ろにする王家を毎日呪いながらも軍に入り剣術を磨き、また学問も独学で学んでいった。他の王子らが毎日贅沢をしている間に彼は知性と軍での地位を固めていった。ある晩、不穏な気配を感じ枕元の剣で刺した相手はこの国一番の魔の剣の持ち主だった。誰かはわからないが暗殺を頼まれ来たのだろう、初めて人を斬った返り血を浴びた王子の手には妖しく光る魔の剣が握られていた。剣はこの日より彼を持ち主に選んだのだ。
王子はまず見せしめに、かの将軍家を取り潰しにかかったが屋敷牢の中に密かに隠されていた娘を見つける。その血筋がブロワト家の正統な子孫であり魔力持ちであることが王子の手により正式に判明し、幼い頃に不遇の生活を送っていたところが自分と重なり彼は娘を娶った。敢えて将軍家の名は名乗らせずルシアンナ・ブロワトとして迎え入れた。
魔の剣、魔力持ちの娘それもブロワト家の子孫を手に入れた第7王子の立場は見る見る変わっていった。あちこちの国や種族に攻め入り功績を収め、その妃となったルシアンナには大量の魔術に関する書物・道具が与えられ彼女は王子のために日夜ブロワト家に伝わる呪術を学んだ。
二人は神々の眷族たる翼竜を手中に収めると隣国ウルリヒに攻め入り始めた。王子はルシアンナを大事に扱い、ルシアンナもそれに応える様に取り憑かれたように呪術を学び身に付けついに禁忌の術で黒い龍を創り上げた。そして今日ヴェリーク砦を攻め落とし一気にウルリヒ首都へ総攻撃をかけるはずだった。もはや国土の半分以上が砂漠と化した祖国をウルリヒを乗っ取る事で国民の生活を楽にし新生ヴァンヴィヴリア王国を創り上げる、それが二人の願い・・・。
ーなのに何故?翼竜の呪詛は解かれ自国の兵は攻撃されている。この砦を手始めに新しい国を創る、全てはあの方のため・・・。ー
これ迄の記憶を回想しながら弧を描いて落ちつつも体勢を整え地上に着地する。
ここで終わる訳にはいかない、今日この場所から始まるのだ新しい世界が。