限りなく邪悪な存在
ジリジリと間合いを測りながらヤルナ将軍の剣がシェイナ王子を攻めて行く。王子の身体は人が見てもわかるほど穢れが纏わり付いていた。
「シェイナ!往生際を知った方が良いのではないか⁉︎お前自身苦しいだろう!」
「この程度で何ということはないわ、お前を倒し一気に首都まで攻め込む。例え俺が倒れても、上空にいるアレが計画を果たしてくれる。」
「そうかな?悪いが今回はお前の可愛い妃はこの場で滅して貰う。」
「はは、お前の仲間の仇討ちのつもりか?アレはそうやすやすとはやられん事は経験済みだろう、貴様こそ今日この場で仲間の元へ逝くがいい!」
上空ではアレと呼ばれる王子の妃であるルシアンナとヴィグリー少尉が剣を交わらせていた。
「剣術の腕は全く上がってないなお嬢さん。さあ、その顔を晒してもらおうかっ」
少尉が器用に剣の先で仮面の紐を切り取ると戦場におよそ相応しくない美貌の顔が現れた。しかし、その瞳は怒りに燃えている。
「い〜いねぇ〜、その顔。でもまだ本性出してないじゃん、どうした?得意の魔術は使わない気か?」
紅を注さずとも可憐なピンク色の唇が悔しげに歪む。
「・・・なぜだ、なぜ魔術が効かんのだ!ヤン・ヴィグリーッ‼︎」
ルシアンナは仮面の下で秘かに呪術を詠唱していた、しかし目の前の男には全く変化がないのだ。納得がいかない、そもそも死んだと思っていた男が生きていた事自体が気に入らない。そこへ、地上から銀色に光る翼竜が剣を銜えて飛んで来た。その口先を少尉に向け、彼が剣を受け取るのを確認すると身体を黒龍に向け咆哮する。
「っ⁉︎」
(我ら神々の眷属を軽く扱い続けてきた罰を今日こそ受けるがいい)
方や剣を受け取った少尉は見事なまでに銀色に光るその剣をまじまじと見つめた。
「あれ?これカリンちゃんの・・・へぇ〜、なんで長さが変わってるのかはこの際気にしないっと。ありがたくお借りしますか。」
その間、長は黒龍を攻撃し始めていた。
「スゥレイ、悪いけど俺を地上に降ろして貰えるかな?」
(あの女はいいの?)
「あ、いーのいーの。君ら翼竜族長が今に地上に放り投げてくれるから。」
(ふふ、面白い人ね。その余裕は何処からくるのかしら、いいわ降ろしてあげるでもその後は私も自由行動でいいかしら?)
「ああ。今まで縛りつけて悪かった、鞍も外すよ。もう、人間ごときに使われなくていい。」
そう言いながらまだ地上に降りる前から鞍を外し始め地上近くになるとその背から飛び降りた。スゥレイが再び舞い上がり始めると少尉の言った通り、黒い人影が地上に落ちて行くのが見えた。ソレを視界の端に確認しながら高く昇っていく、そこには禁忌の術で産み出された黒龍と神々の眷属の長の銀の翼竜が激しく闘っていた。