神々の降臨と眷属の長(2)
”ほぉ、相変わらず手際のよい動きをするなお前の愛し子は。”
いつの間にやら隣に降臨してきている銀の女神に語りかける。
”私は何も授けていないのですけれど・・・ただ幸せになるようにと与えた祝福がどこかで間違ったのかしら?”
小首を傾げ肩をすくめて唇に人差し指を当てながらいかにも困ったような表情を作る。
”・・・名を分け与えたくせに・・・”
少しぶっきらぼうに主神が答える。少年のような容姿をし、少し拗ねているようにも見える。その様子を見てにっこり微笑んで主神の顔を覗き込む。
”いけませんでした?親もなくこの世界で生きていくためには家名が必要かと思いましたのですけど。”
主神も紺碧の瞳を戦女神に向け、口角を上げてから答えた。
”いや、ちょっとした焼きもちだ。私もアレが随分と可愛いものでな、どうだ長よ体力がまだ戻らんのではないか?少し力を与えよう診せてみろ。”
(主神御自ら忝のうございます・・・)
”ふん。遠慮はいらん、戦をここまで長引かせたのも下界の者たちに成り行きを任せていた我らの責任もある。お蔭で眷属の長たるお主を永きに渡りこのような辱めに合わせてしもうた。辛い思いをさせたな。”
(身に余るもったいないお言葉でございます。)
”あら、どうやら本命到着のようだわ・・・嫌な感じ。あの時根絶やしにしておくべきだったわね。”
”これが最後だろう、さてどう出ようか。”
主神らが空を見上げている最中、地上の魔法師達とカリンにもその嫌な気配が伝わってきて皆が空を見上げた。黒龍に黒装束を身に纏い仮面をつけた魔力持ちが真っ直ぐに地上で攻防を続ける将軍とイシュナ王子を目指して来る。そしてその片手を高く上げた時・・・
「おおっと、相手を間違っちゃいないかい?あんたの相手はこの俺様だ。」
スゥレイを操り空中戦の中心にいたヴィグリー少尉が間に割り込んできた。
黒装束の手が止まり腰の剣に手が動いた。
「生きていたのか」
「は〜い、この通りピンピンしてるよ。まさかあの程度で死んだと思った?」
「相変わらずよく喋る、その舌から切り落とそうか?」
「じゃ、俺はまずその仮面を剥がそうか?ルシアンナ・ブロワト嬢。」
空高く飛んでいる二人の声が地上にまで聞こえるはずはなかった。しかし、カリンと魔法師達には届いていた、ルシアンナ・ブロワト。カリンが咄嗟に走り出し長の前に来ると跪く。
「神々の眷属の長たるあなた様に、人間の分際で無礼を承知でお願い申し上げます。私めをどうかあの黒龍の元までお連れ願えませんでしょうか!?」
(ならん)
”駄目だ。仮にも我らの眷属の長にまで人の子を乗せることは私が許さん。”
「そんな、ハーヴェイ様・・・あのような黒龍の話は聞いておりませんでした、乗り手である黒装束の者もどの様な力があるか・・いえ!あの者達からは禍々しいものしか感じ取れません。少尉に何かあったら・・・」
”そうね、ほんと禍々しいというか忌々しいというか。初めまして、と言うか久しぶりね。アレクシア・カーテローゼ、私の名を持つ者よ、私が誰か自己紹介しなくても解るわね?”
「・・・ハプトマン女神?」
”この戦にはね古い因縁があるの、あの坊やなら大概のことなら心配せずとも大丈夫よ。それにあなた、彼に祝福を与えてるでしょう?あの黒装束は禁忌を犯した愚かな者よ、今からこの長が行くから任せておきなさい。”
「ですが、せめてこの短刀を少尉に届けていただく事だけでもお許し願えませんか!?少尉が無事将軍の元に帰れますようお願いいたします。」
銀の短刀を捧げる様に持ち頭を地につけ願い出る。
”そのままじゃ短すぎるわね。”
戦女神が短刀に手をかざすとそれは普通の丈の剣と姿を変えた。
”あの者に加護を・・・。悪いわねこの剣だけ届けて頂戴。小鬼族と刀鍛冶の妖精の力で出来ているし私の祝福も受けた穢れなき剣よ。あの女相手にはこれ位の剣でなきゃ。”
(承知致しました、ではこれにて。)
銀色に光る身体をしなやかにくねらせて黒龍に対峙するため長は空へ飛び立った。
丁度そこへルディが駆け付ける。
「カリ・・・え?もしかしてハプトマン女神?」
”あら、あなた達・・・”
戦女神はルディにずいっと近付くとその耳飾りをじっくりとみた。
”あらまぁ、余程繋がりが強いのねぇ。私の印が出ているなんて。やっぱり面白いわ人間て。ところで、あなた達は空には上がれないけどあの黒龍がなにかわかる?”
「翼がない、翼竜とは別の種族の龍ですか?」
”あれはね、ブロワトが禁忌の術を使って創り出した人工生命体よ、キメラね。ホントに面倒臭い一族だこと。”
「キメラ・・・命を持つものはいかなるものでも創り出してはならない。魔力持ちならば誰もが、どの国であっても必ず守らねばならならい誓いの一つ・・・それをあの黒装束いや、それよりも彼女は本当にブロワト家に連なる者なのですか⁉︎」
”ああ。この前の娘と違い正真正銘ブロワト一族の末裔だ、元々あの一族はウルリヒではない国の出だからな。アレが最後の一人になる。で、お前たちは地上でやることがあるだろう。穢れまみれだが最早アレは狂気で動いているな、将軍とやらがなかなかに苦戦を強いられているぞ。”
ハーヴェイがクイと顎で将軍らを指した。確かにシェイナ王子は穢れにまみれ正気を失っているように見えた。その手にある剣に嵌められていたはずの翼竜の長の銀の鱗は本体が浄化されたせいかボロボロになり風に散っている。
”二人ともあくまで加勢に徹しろ。止めはあの将軍にさせるんだ。魔法師、カリンと共に二人の周りに魔法陣を作れるか?”
ふと、ウルリヒ王宮でのブロワト退治を思い出す。
”そうだ、カリンが陣を描きお前が発動させる。出来るな?”
「「はい」」
”よし、任せた。行ってこい。”