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魔法使いと侍女の物語  作者: にしのかなで
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朝日を纏う銀の娘

朝は魔法師達にとって、実は苦手な時間である。魔法はどちらかといえば闇の方が力を増す、それが白であろうと黒の魔術であろうと。だからこの砦には精鋭の選ばれた魔法師だけが来ている。それでも、彼等にとって朝日は僅かばかり魔力を散らしていく。その朝日を背にして立っているのはカリンだった、そしてその対極にルディが立ち二人を中心に魔法陣を魔法師らが囲んでいる皆が陽の光を少しでも避けようとフードを深くかぶっている中、ルディとカリンだけがフードを被らず耳の下で切り揃えられた銀の髪を風に揺らし微笑んでいる。


(その時が来ればちゃんと歌えるから)


スゥレイの言ったことは本当だったようだもう身体の中が熱くなり言の葉を小さく紡ぎ始めていた。知らない言葉、知らないメロディ。ただ故郷を目指す詩だとしか解らない、それでも小さな呟きは段々と自信を帯びて大きくなっていく。額には祝福の印がくっきりとそれと同じ模様がやはりまだルディの耳飾りに先程より濃く刻まれている。


大丈夫、繋がっている。何故かハーヴェイ神が側で視ている気がした。瞳を閉じスゥーッと大きく息を吸い同じく吐く、それから再び瞳を開いた・・・。その瞬間他の魔法師達も一様にフードを脱いだ。カリンの瞳はかつてシュヴァリエ公爵夫人が言っていたように虹彩により濃い翡翠が煌めくように輝いている。これは、ルディも初めて見た。彼の位置からは朝日を纏う姿に神々しさを覚えた。スゥレイが、合図のように一鳴きすると一度宙を舞った。そして、カリンが本格的に歌い出す。故郷への郷愁の詩を・・・。

今度はそれを合図に兵士たちが動き出す。スゥレイに乗った将軍は彼方に敵軍を見た。


「敵襲!皆の者、いよいよ開戦だっ、‼︎」


魔法陣は魔力とハプトマン神殿を祀る模様を複雑に組み合わせている。いざ開戦になり本当に上手くいくのかと焦りを持つ者もいる。それを、どう察したのか自信たっぷりにカリンが宣言する。


「ご心配なく、必ず長はこちらに参られます。その際なるだけ傷つけぬようお願いいたします。」


たかだか成年前の小娘のいう事が魔法師や、兵士を奮い立たせる。


「!来ます、お願いします皆さん。」


何かを察知したカリンは外套を脱ぎいつもの戦闘用の上着を着ると魔法陣の周りに苦無を一定の間隔を開け打ち付ける。そして、対極にいるルディと目で合図をし二人はその場にしゃがみ込み魔法陣に力を注ぐ、オレンジ色の光を帯びているそこへ魔法師達が杖をそれぞれ指し巨大な力を帯びた陣が出来た。


「待たせたな、今来るぞ!」


上空からヤルナ将軍と少尉がそれぞれ翼竜を操り声をかける。


「よし、今だカリン!」


「はいっ!」


次の瞬間魔法陣の中に巨大な銀の竜が浮かんでいた。そしてゆっくりと降ろされる。

その顔は苦悶に満ち、カリンを見つけると激しく咆哮した。


「っく・・・なんの罠だヤルナめ!」


翼竜からは浅黒い肌に黒髪の敵国王子シェイナが降りてきた。魔法陣の中のせいかかなり体力を消耗しているようだ。しかし、それでも彼は見つけた銀の娘を。ふらつく足取りでカリンの元へ向かう。


「おっと、相手を間違えてないかシェイナ王子。私との手合わせが先だろう。」


カリンを庇うように少尉が立ち、二人の前にはヤルナ将軍が立ち塞がった。


「はっ、小賢しい真似をしおって。今日こそ、その首持って帰るぞ。」


「戯言はいい、そんなふらついていて勝つつもりか?」


「じゃ、カリンちゃん。あと頼んだよ。」


「はい。」


カリンはスィレイに飛び乗ると丁度、長の上に舞い上がった。


(気をつけて、幸運を祈るわ)


そしてその高さから真っ直ぐ長の背中に飛び降りると、あらゆる鎖を浄化していった。


(半信半疑だった・・・本当に来るとは)


「喋らないで、すぐ楽にします。全ての鎖を見せてください!」


(ああ・・・身体が軽くなっていく・・・)


「これで全部⁈」


(駄目だ・・・人の子よ、我の額に最後の一つが埋め込まれている・・・命はいい、頼む外してくれ気高き眷属の長として最期を迎えたい・・・)


「なんて酷い事を!最期にはしません諦めないで。少し痛いかも知れないけどごめんなさいね?」


カリンの短刀が長の額を刺す。そして抜いた時には一枚の呪術書が刺さっていた。


「ルディ様!長に禊を・・、」


ガクリと膝を着くが辛うじて長の首に掴まり呼吸を整える。魔法師達が一斉に杖を振り長とカリンに地下の泉の水を降り注がせた。


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