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魔法使いと侍女の物語  作者: にしのかなで
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夜明けの砦

カリンはルディに言われた通りスゥレイ達、翼竜とともに一夜を過ごした。真っ暗な空が段々明るくなってくる。


(カリン、起きて頂戴。)


「ん、はぇ・・・あ!そうか、私ここで寝たんだったわ。おはようスゥレイ!起こしてくれてありがとう。」


(寝起きがいいのね、お姫様。さぁ、今から長を呼び出す準備がいるの。魔法師達に頼んでもう一度私達を球体に入れられるよう頼んでもらえるかしら?それから、あなたとその短刀と一緒に地下の泉で禊をしたいの。)


「わかりました。頼んできますね、他には何か用意するものは?」


(・・・あなたのその服装なんだけど・・・どうにかならない?こう、なんというか巫女的な感じに)


「え・・・私、そんな服持ってないですよ。んー、呼び出す為にはそれなりの形式が必要なんですね?」


(そうなのよ)


二人でカリンの今の服装をじっと見る。お粗末にも娘らしくない少年のような格好だ。


「この上に羽織るだけでもいいですか?私も多分参戦しますから、動きやすい服装がというかこの服装が色々と仕込んてあって一番いいんです。」


(仕方ないわね、なるだけ混じり気のない白い衣装が良いの。)


「わかりました、ヴィグリー少尉に聞いてみます、じゃあ用意してきますね!」


夜明けの砦前の広場に向かい走り出す。

まずウルリヒ軍の魔法師団を見つけ伝言を託す、それからヴィグリー少尉を探すと砦前の広場にヤルナ将軍といた。カリンは二人にスゥレイの話をする。


「禊はいいが・・・巫女的な服装は困ったな。」


「あの、なにか羽織るものでもいいそうなんですけど・・・」


そう言いながらカリンの瞳はヤルナ将軍の外套に釘付けだった。それに気付きヴィグリー少尉が手をポンと打ち、成る程と一人納得した顔になりカリンの頭をクシャクシャにしながら声を立てて笑う。将軍にはさっぱりわからない。


「よ〜し、よしよし。このヤン・ヴィグリー少尉に任せておけよカリンちゃん。一点の曇りもない特別な一着を用意するから先に禊を済ましといで。」


「ありがとうございます‼︎」


くしゃくしゃになった頭をピョコンと下げると翼竜の方に戻って行くが途中で既に小さな球体に収まったスゥレイ達を受け取った。それから砦の中に駆け込みルディが作った魔法陣がまだあることにホッとするとグリンデを呼び出した。


それからは砦中が慌ただしく過ぎて行った。カリンは長を呼び出しヴァンヴィヴリアとの戦に備え翼竜達が最大の力を出せるよう地下の泉に鉱山からグリンデ達小鬼族の力を借り魔法石を泉に運び砦全体の清めと強化を施し、その力で自身ら最大の力を取り戻した翼竜達はウルリヒ兵に鞍を取り付けさせ決戦に備えている。ルディは養父母とウルリヒ魔法師団の知恵を借り長を呼び出す魔法陣を完成させた。時は既に夜明けを迎え晴れ渡った空に何かを悟った鳥類が砦の周りから離れていく。


「よし、準備は整ったな。」


「ええ、あと一人揃えば」


「ん?そうか、あの娘はどうした?」


「はぁっ、お待たせしました。あの、将軍こんな大事な外套をお借し下さいましてありがとうございます。」


真っ白な外套を羽織って慌てて合流してきた。余程急いだのだろう、肩で息をしている。その下に着ているのは元々この地の戦に備えて白い衣装にしている。しかし、その姿を目にしたヤルナ将軍は美麗な眉を釣り上げると叫んだ。


「ヤン‼︎ヤン・ヴィグリーッッ!貴様・・こ、これはお前!どういうつもりだーーーっ」


カリンに数歩遅れて武装した姿でやってきた少尉はカリンの両肩に手を置くといつものようにヘラリと笑って説明した。


「だってね、必要ないですもん俺には。こっちの戦闘服の方がよっぽど新しいの欲しいっスよ。」


真っ白な外套はまだ誰も袖を通していなかった。ウルリヒ王国軍の刺繍が施されたシンプルだが威厳のあるその白い外套はビェリーク砦を護るものならば誰もが憧れる極限られた上位階級か余程の功績を重ねた者に贈られる国からの敬意を示された証だった。そして、この外套の持ち主はヤン・ヴィグリー少尉その男。彼は既に数々の武勲をあげており、本来ヤルナ将軍と並んでもおかしくないのだが昇進時期の度に事件を起こしてでも現在の地位に拘っているのだ。その彼が王太子婚姻の儀も将軍の代わりに砦を護ると唯一着る機会ものらりくらりとかわしてきた外套をカリンにまるでその辺の上着と同じように軽く貸し出したのだ。将軍の怒りも、もっともだろう。


「あっ、あの!すみません、少尉は悪くないんですっ。お願いしますお叱りや懲罰は与えないでください!」


「すみません、僕からもお願いします。えっとこの外套については詳しくわかりませんが、とにかく少尉はこの戦に勝つために貸し出してくれたんだと思います。それなら、貸し出しを申し出た僕らにも責任がある。」


「まぁまぁイェンナ、落ち着けよ。せっかく穢れが落ちた身体だ、つまんねー事で負の感情を出すなよ落ち着け。俺はこの外套はハプトマン嬢に必要だから貸し出したんだ、この子こそ相応しいと思ってね。大体な、こんなもんで俺様の何がわかるっつーの!いいか、俺は今迄この砦で燻ってたが今日の働きでまた同じ物を手に入れる。だからお前はこの件については黙ってろ、戦前に身内が不仲になったら勝てるもんも勝てねーぜ。」


ビシッとヤルナ将軍を指差しタメ口で言い切った彼の表情は清々しく見えた。将軍以外は不敬罪並の言動に固まっていたがヤルナ将軍は不敵に微笑むと片手を差し出した。


「おかえり、ヤン。」


「おう、じゃじゃ馬姫。今日はヘマすんなよ」


「それはこっちの台詞だ。よし、皆集まってくれ!今日が我々とあの忌々しい王子との最終戦だ、ここには戦女神の愛し子と神々の眷属がいる。そして大陸一の魔法師もな!勝機は我らにある、恐れずに戦え誰一人欠ける事なく勝ち抜こう‼︎」


広場は兵士らの声に沸いた、カリンとルディはとりあえず二人が険悪な状況を忘れ戦に向け頭をシフトしたことにホッとしていた。


「じゃ、ウチのじゃじゃ馬姫様にもご協力願えますか?」


「・・・ちょっと気になりますけど、仲良く協力して早くこの戦を終わらせましょう!」


外套の裾を踏まないようにたくし上げ階段を降りようとしたが次の瞬間宙に浮いていた。


「大事の前に転んで怪我されたら大変だからね。」


その様子を魔法陣を囲んでいる養父母が二人して甘いね〜っと呟き他の魔法師達が失笑していたのを二人は知らない。


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