最強の夫婦
首筋にゾクリとするものを感じてルディは魔法陣を考え込んでいた頭を上げ周りを見渡した。
「どうかしましたか?」
ウルリヒの魔法師が問いかける。
「え・・・いや、なんか嫌〜な気配がしたんですけど・・・」
「ガ、ガウス魔法師大変です!」
外にいたハヴェルン兵が青い顔をして走ってくる。それに続いて外から何やら騒ぎ声が聞こえる、その中に聞き覚えのある声が・・・。
ーまさかそんなわけ・・・嫌、あり得る・・・ー
騒ぎを聞きつけ会議室に篭っていた将軍らも出てくる。
「何の騒ぎだ!作戦会議の邪魔する奴は軍法会議にかけるぞっ‼︎」
相当気が立っているヤルナ将軍が一喝すると一同静かになった。そこにこの場にいるはずのない女性の声が響く。
「これは失礼致しました、この砦を司るヤルナ将軍ですね?我々はハヴェルン王国から遣わされました第二援軍でございます。只今先触れもなしに到着したもので、お騒がせして申し訳ございません。」
「その衣装、魔法師殿とお見受けするが?」
深く被っていたファー付きのフードを脱ぎ現れた顔はやはり
「か・・養母さん?」
にっこりと紅い唇が微笑みを作る。
「初めまして、私そこの半人前の魔法師ニーム・ロドリゲス・ガウスの母でツェッィーリア・ガウスと申します。この度ハヴェルン国王の命により正式に援軍第二部隊を率いて主人と共に参りました。宜しくお願い致します。」
魔法師の黒の衣装に身を包み同じく夜の闇の様に黒い髪黒い瞳。唯一の彩りは唇に乗せられた紅。それだけなのに圧倒的な存在感がある。
「何というか、地味なのに派手なお方っすね。ガウス魔法師の母上は。」
いつの間にやらまた隣に立っているヴィグリー少尉が顎をさすりながら言う。ルディはガックリと肩を落としながらも養母に尋ねた。
「養父さんも来てるって・・・なんでそんな事になってるんですか。」
「そりゃ、お前に説明する前に砦の主様以下他の上層部の面々に説明しないといけないね。ところで、カリンは?」
「翼竜に歌を聴かせていますよ。あと、食事班の手伝いやら忙しそうにしてますけど。」
「ふーん。で、お前は何してんの?」
「・・・翼竜の長を砦前の広場に呼び出す魔法陣を考えてます。とにかく僕も聞きたいので会議室に行きましょう。いいですか?ヤルナ将軍。」
「正直、援軍は助かる。ガウス夫人、ご主人とあらためて会議室で説明をお願いできますか?」
「はい、じゃあちょっとあの人呼んできますね。」
いそいそと夫を呼びに戻る後ろ姿を見ながら机の上のモノを片付けているルディに話しかける。
「わっかいお母さんっすね、幾つなんすか?美人だし、羨まし〜。」
「ん?そういや幾つなんだろ・・・。僕は養子なんですよ、色々気苦労かけてるんですけどそういや若く見えますね。」
そう言って荷物を一式抱えて会議室に向かう。
「でも、この後出てくる養父は僕が心配かけ過ぎていつもげっそりしてましたけど・・・ヤバイ・・・。」
「はっ⁉︎」
砦に来てから今まで品行方正なお坊ちゃんと見えていたルディの口からヤバイと出てきた事に目を丸くして顔を見ると心なしか青ざめている。そんな少尉の様子は気にせずルディはハヴェルンに送った手紙の内容を思い出していた。カリンに何か言ったらどうしよう・・・いやいやそれ以前に戦に紛れてなんか攻撃されるかも・・・。気づくと目の前にゴツイが繊細な掌がひらひらとしている。
「おーい、大丈夫っすか〜⁈」
「あ、はい。大丈夫です、はは。大丈夫ですよ、きっと。」
様子のおかしくなった若い魔法師に首を傾げながら彼より頭一つ高い身長の少尉はヒョコヒョコと後ろをついて行った。